第25話.報酬と謝罪
集落の中央にソーギョクの館がある。ドワーフが建築に関わっているだけあって、想像以上に建物は大きくて豪華だった。
建物はオニだけど西洋風の館。石作りの三階建で、ちょっとした学校くらいの大きさはある。
ソーショウに案内されて、館の中に入ると大きなホールになっていて、奥には高さが5mはある扉。左右には上りと下りの階段が見える。たかだか千人程度の村の館にしては、どう考えてもオーバースペック。
「ソーショウ、ここは何なんだ?」
「ここは、ソーギョク様の執務室になります」
扉の横に立つ2人の火オニが、5mの大扉を開ける。確かソーギョクの横に居た側近だったと思う。
「ソーギョク様、カショウ様をお連れしました」
「通せ」
中からソーギョクの声が聞こえる。ソーショウが左手を前に出して、俺に入るように促してくる。
中は応接室のような感じで、ソファーとテーブルがあり、奥には少し豪華な机と椅子が置かれている。ただ半分以上は何も無い、寂しい空間。
俺は勧められるままに、ソーギョクの向かいのソファーに腰かける。
「驚いたか?」
「ここが執務室?」
「ドワーフ共が張り切りすぎてな。この館は自分達の力を試したくて、不要に大きくしてしまった。使い勝手が悪くて仕方ない」
「それを、黙って見てたんだろ」
「張り切って楽しそうにしてるのを誰が止めれるか?“ただで酒が飲める”それだけで、ここに居る連中だぞ!」
「俺はそのノリは嫌いではないけどな。それで何の話だ」
「今日は、ここに泊まっていってくれ。この村に宿はない。食事は不要かもしれんが、休む場所くらいは提供させて欲しい。好奇の目は問題を起こす」
「報酬を貰えれば、すぐに出ていってもイイんだが?」
「短剣はすぐに渡せるが精霊について知りたければ、明日まで待ってくれ。今、情報を集めている」
扉を開けていた側近のオニが、3本の短剣を持ってきてソーギョクに渡すと、それを一本一本確かめるように手に取り、そしてテーブルの上に置く。
「これが約束した、水オニ、風オニ、土オニの短剣。歴代の族長の中でも、特に強かった者たちの角を元に、ここのドワーフ達が全身全霊を込めて鍛え上げた短剣」
「それなら、手抜きは無さそうだな。明日までは、この館に居る。ソースイにとってもその方が安全だろうし。だけど明日までに情報が無ければ、すぐにこの村を出る。ゆっくりしている余裕は無い」
「分かった、情報が分かり次第連絡する」
ソーギョクはこっちを見ているが何も話さないず、少しの間が出来る。
「何か他に話があるか?ソーショウにも言ってあるが、面倒事や権力争いには加わらないし、巻き込まないでくれ」
「いや、その事で謝罪がしたかったのだが、どの様に言うてよいか分からなくてな」
まさかの言葉に驚いてしまう。
「カショウ殿を巻き込んだ。申し訳ない」
机の上に財布のような物を置いて、俺に差し出す。
「これからアシスを旅するなら必要になると思う。少ないが持っていってほしい。きっと役に立つはずだ」
二つ折の長財布のような形。手に取って開いてみると、そこには紙幣のような物が入っている。
「これは何のつもりだ?」
「やはり、アシスの通貨の事は知らんのか?オニ族の村は自給自足の生活で、村の中では金を使える所が少ない。だが、他では金が無いと困ると思うぞ」
紙幣のような物を一枚抜き取る。日本の紙幣と似ている。誰かは分からないが、人物の顔が描かれ、右上には数字がかかれている。
「今持っておる紙幣が1万ウェンだ」
「1万エン?」
「違う、“ウェン”だ。1万ウェン」
それからソーギョクに、お金や物価などについての講義が始まる。お金の価値的には、1円=1ウェンなので分かりやすい。
1、10、50、100、500ウェンは硬貨になり、1千、2千、5千、1万は紙幣になる。ここまでが一般的に流通している通貨らしい。
「少ないかもしれんが、百万ウェン入っている。食事が不要なら、しばらくは大丈夫だろう」
はっきり言って、忘れていた。どの世界も、大抵の事はお金で解決できるのかもしれない。
確か財力も力の1つで、精霊は全てを見て判断する・・・と言っていたな。貧乏人には力を貸してくれない精霊もいるのかもしれないし、ソースイの装備も揃えたいし。
あって困ることなんて、ほぼ無い。
「この村に留まってくれるなら、金の不要なら暮らしを保証する。私は、この館に居てもらって構わんが」
「・・・どういう意味だ?」
「同じことを2回言わせるのか?」
「これは受け取っておくよ、もう謝罪は不要だし、これで終わりだ」
俺は立ち上がり話を切り上げると、部屋を出る。どこに向かったら良いかも分からないのに。
そして後で気付く。ソーギョクに上手く遊ばれたのだと・・・。
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