第24話.オニ族の村と四属性

 夕方になってオニ族の村が見えてくる。色々と問題に巻き込まれたし、思い描いた形ではなかったが、当初目指したオニ族の村。


 結界の外縁から村まではどれだけかは離れてはいるが、村も結界に合わせて円形に作られている。

 村を囲っている石壁は高くなく、むしろ低いといって良い。

 高さは2メートルくらいで、外敵から守るという代物ではなく、身長の高いオニ族からすれば目隠しの柵のみたいな物だろう。そして所々崩れかかっている。


 村の大きさは直径2㎞程で、村の出入口は南北の2ヶ所のみ。しかし壁の高さは低い為、壁を乗り越える者が大半らしい。

 また壁が崩れている部分は、大きな荷物などを運び込む時に使うらしく、門といっても格好だけの存在になっている。


 この村では、千人程のオニ達が暮らしている。ヒケンの森で集落として存在するのは、ここしかない。オニ族以外にはドワーフが10人程と、たまに行商人がやってくる程度。


 ここに居るのは皆、オニ族が造る御神酒に惹かれて集まってきた者達ばかり。


 酒好きのドワーフは村の建築や設備などに関わり、この村になくてはならない存在。他種族の下風に立つ事を良しとしないオニ族達との間でも、互いの利害関係は一致している。


 そして、村の四方には湖がある。といっても歩いて1日半はかかる。ブロッサが居た湖もその1つで、太古の昔にゴセキ山脈に住むドラゴンと上位精霊が争い、その時の衝撃で沢山のクレーターが出来た。

 その穴に水が溜まり湖となるが、今でも大地には何らかの影響が残り、そこに溜まる水に不思議な力を宿している。


 門の両脇には、2人のオニが立っている。2本角の赤オニ族のようで、ごついプレートメールに巨大なハルバード。

 ボロボロの石壁に気合いの入った門番の組合せは、不自然さを感じさせる。そんな重い装備なら、石壁を越える不審者は捕まえれないだろう。


 俺は、ソーショウの後ろについて歩く。


 ソーショウに会釈する門番オニ。俺が通り過ぎ、ソースイが通過する直前に門番の表情が変わる。

 少しだけ違和感がある。僅かだがハルバードが動いた気がする。音もしない、斧頭が微かに揺れたような、そんな感覚。


 ソースイを従者にしたのは正解だった。思ってる以上に、忌み子に対しての忌避感が強い。俺の従者だから我慢してるが、同等ならマズかった。


 俺の表情に気付いたのか、ソーショウが話しかけてくる。


「カショウ様、すみません」


「別に気にしなくてイイ、今後の付き合い方が変わるだけだろ」


「今後は無いようにしますので、今回ばかりはお収めください」


 門番の2人が連れていかれ、俺は警護のオニ達に囲まれる。


「ソーギョク様の館にお連れするように、仰せつかっております。不快な思いをする事は無いと思います」


「冗談だから真に受けるなよ。最初にソーキを見てたら、もうこれ以上悪くなる事はないだろ!」


 渋い顔をするソーショウは、何も言えない。


「安心しろ。ちょっとや、そっとでも良くもならない!最初に俺の事を利用してきたのは誰だ?」


「申し訳ありません」


 溜まったものを吐き出して、ちょっとスッキリしたが、ソーギョクの館に向かう途中のソーショウは黙ってしまったままになる。


「黙ってるなら、オニ族の事を教えてくれ」


 俺から話しかけられて、少し気を取り直して話し出す。


 オニ族の村の属性比率は、火・風・土属性が3割ずつ、残りの1割が水属性となる。


 酒造りに関わる水属性のオニは、他の部族間でも重宝され、それなり大切な扱いを受ける。だから命懸けで、ヒケンの森に移り住もうとするオニは少なく、この村での水属性のオニ族の発言力も強い。


 次に来るのが風属性。結界がある村では防御は軽視され、より攻撃が重視される。石壁の高さや状態もそれを物語っている。

 そしてヒケンの森で、風魔法は攻撃として優秀。ウィンドカッターは見え難く、森の中での攻撃手段としては最適で、狩猟や戦闘でも主力となる。


 その次に来るのが土属性。土魔法は攻守どちらも可能なバランス型。攻撃だけでいえば2番手になり、護衛や防衛戦がメイン。悪く言えば、パッとしない。


 そして最後に来るのが火属性。火魔法は森の中では扱えない。一度大きな火事になりかけ、森の中での火魔法の行使は禁止されている。使えるのは結界内の土が剥き出しになっている場所のみ。だから活躍する場は、肉体労働が主になる。


「ソーキの暴走の原因は、この村の権力争いって感じなのか?」


「大まかにいえば、そういう事になります」


「ソーショウ、今度は巻き込まれるつもはないからな。ソーギョクであっても、権力争いに力は貸さない。やりたければ俺の関係ない所で、勝手にやってくれ!」


 気付けば目の前にソーギョクの館が見えてくる。

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