第27話.精霊の行方とゴブリンの棲みか
昼になって、ソーギョクに呼ばれる。中に入ると昨日とは同じだが、ソーギョクの横にドワーフの男が座っている。
「紹介する。この村のドワーフの頭で、ヤッシ」
隣には、禿げ頭で恰幅の良い男が座っている。腕は丸太のように太いが、短い手足が余計に短くみえる。今座っているソファーも、深く沈み込んではいるが、足が付いていない。
「ドワーフの頭をしておるヤッシじゃ。なかなか面白い迷い人がおると聞いて見にきたが、意外と普通だの」
「ソーギョク、見せ物になりに来た訳ではないが」
「持っている情報と腕は確かだから、口の悪さは我慢してくれ」
「情報は確かでも、俺に合った情報でないとな。このソファーの高さは俺には合っているが、他の人では分からない」
ヤッシの表情が変わる。
「新人迷い人のクセに、口は達者だの」
険悪になりかけた雰囲気を、ソーギョクが止めに入る。
「カショウ殿もヤッシも止めんか。カショウ殿は、時間が貴重ではなかったのか?ヤッシも御神酒の恩人になるのを忘れたか?しばらく禁酒にされたいか?」
ヤッシの厳つい顔が急激に変化し、シワくちゃで涙目になっている。そこまで情けない顔になれるかという変化を見て、少し可哀想にはなる。
「分かったよ、ソーギョク。確かに時間の無駄だし、話が進まないから禁酒は止めにしてくれ」
「おお、お前は話の分かる奴だ!」
ソーキにしてもヤッシにしても、一癖も二癖もある連中で、ソーギョクも苦労しているのは何故か妙に共感してしまう。
精霊を感じとる力や相性はエルフ族の方が高いが、閉鎖的で行動範囲が狭い。また火の精霊とは特に相性が悪い。
その点で云えば、ドワーフ族は素材や技術を追求し広範囲で活動し、どの精霊ともそれなりの相性が良い。
どちらが、俺の求めている情報を持っているかといえば、目の前のソファーに座っているドワーフが正解な気もする。
ヤッシの話では、ヒケンの森自体に強い精霊は居ない。ここはドラゴンと上位精霊が争った際に、焼け野原となり、そこに上位精霊が住み着くことは無い。
上位精霊が居るとすれば、巨木や木々の生い茂るエルフの迷いの森。そして上位精霊になればなる程、住みかを変えない。
森が再生し中位精霊が戻ってくる可能性もあるが、すでに中位精霊のムーアとブロッサが居る。中位精霊はお互いに干渉する事を避けたがるので、この近くに中位精霊は居ない。
下位精霊は、ゴブリンを恐れて隠れている。特に上位種が誕生している為、現れる可能性は少ない。
「つまり、ここには精霊は居ないって事なのか?」
「焦るな、最後まで聞け。何もなく、急激にゴブリンが強くなる事は考えられん。何かが弱くなって、その分ゴブリンが強くなっとる!」
「ゴブリンを探れば、精霊に当たると?」
「それなりに、力のある精霊が関係しているかもしれん。解決すれば、下位精霊も現れてくる」
もちろん、この話はソーギョクもヤッシから聞いているはず。
「ソーギョク、俺がゴブリンの問題に協力すると思ってないか?」
「正直に言えば、戦力は多い方が良い。カショウ殿は戦力として十分に期待出来る。そんな感じだな」
「ゴブリンについて調べようとは思うが、戦い前提ではないからな。あくまで、ここに住むオニ族が判断してくれ」
「それでは、協力してくれるのか?」
「今回は、たまたま利害関係が一致したというだけ。いつもそうするとは勘違いしないで欲しい」
「ああ、それで十分だ」
ヤッシがゴブリンの棲みかについて話し出す。
「ゴブリンは昔から少数はいたが、上位種が出たり、ここまで数が増える事は無くての。ここから北に行くとオオザの崖と言われる場所があって、最近はそこの洞窟を根城にしているらしい。ワシ達も、そこでしか取れない鉱石あって困っておる」
「ああ、分かったよ」
もう1つ、気になっていた事を思い出してヤッシに聞いてみる。
「ゴブリンの弓と、オニ族の弓の違いは何かあるのか?どうして造りが違う?」
「洋弓と和弓の違いかの。オニ族の弓は特殊で、オニ族の体の大きさに合わせて進化して今の形になった。違っていてる事が当たり前ではあるぞ」
「じゃあ、何故ゴブリンは洋弓を作れるんだ?この森で産まれたなら、オニ族の持つ和弓を真似するんじゃないか?」
「そこまでは考えた事がないから、分からんとしか言えんの」
「そうか、何か気付く事があったら教えてくれ」
大したことでは無いのかもしれないが、何かが引っ掛かる。大事な何かを見落としている気がするが、今はオオザの崖に住むゴブリンを探る事に集中しよう。
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