第13話.精霊の依頼と報酬

 確かに強さといっても様々。腕力や魔力・知力だけではなく、権力・財力も含む多種多様な力。

 そして、今求めている力は腕力や魔力といった、ヒケンの森で物理的に生き抜くために必要な力。


 酒の力で人を操る力・・・というよりは壊してしまう力。求めているものとは全く違う異質の力。


『冗談よ、冗談』


 酒の精霊が、艶かしく笑いかけてくる。俺が返事出来ずに黙っていると、更に酒の精霊は続ける。


『私ね、人の姿で話せるのよ。精霊として力がある事は分かるわよね。ライからも聞いてるでしょ!』


「ああ、ライを知ってるのか?」


『知ってるわよ。弱味もいっぱい握ってるけど聞きたい?』


「聞いたら何かさせられるんだろ。それは遠慮しておく」


『なかなか、しっかりてるわね。それじゃ、これではどうかしら?』


 アシスで酒は、契約を司る特別な意味がある。単に嗜好品の存在ではない。契約を結び繋がりを強くすることは、全般的に影響を与える。

 結婚式だったり任侠の世界だったりの盃事を想像するが、アシスでは“酒の契約”には明確に効力を持つ。そして契約で交わした内容は、簡単に反古する事は出来ない。


『どう、あなたにピッタリの精霊よ。そのブレスレットにもピッタリだと思うわ?』


「クオンやウィスプ達との繋がりを強化出来るってわけか?」


『そうよ、まあソーキのような尋問も得意だけどね!』


「それは遠慮しておくよ。それに依頼を受けた対価だけで、契約しても大丈夫なのか?依頼を達成出来るとは限らないし、出来なかった時はどうする?」


『私の勘だけどね、依頼に失敗したらオニ族も貴方も死ぬ確率は高いと思っているわ。でも依頼に失敗しても生き残っていれば、それは私の見る目があったって事でイイわ!』


「契約には、俺の命をかけろって事か?」


『詳しくは言わないわ。これは私からの依頼。見合うだけの価値があるか無いか、貴方が判断する事ね。もちろんソーギョクが報酬を出したいなら、それに私は関与しない。別の話ね!』


「それなら、依頼内容を聞いてからにするよ」


『あら、堅実なタイプなのね。もっと破天荒なタイプかと思ったのに、残念だわ』


 再びソーキの尋問が始まる。全く自身の意思は関係なく、ただただ単調に喋らされる状態で、どのような秘密であっても絶対に逆らう事は出来ない。


 そして湖の周りで起きている異変には、ゴブリンが関係していて、この湖には毒が流し込まれている。

 どうやって毒を流しているか、どうやって毒を作り出しているか?不明な部分が多いが、それが湖の水質を悪くし、オニ族の造る酒の質も悪化される。それが、オニ族の結界の弱体化に繋がる。


 酒の質の悪化で加護が弱くなる。神の加護も現金なものだなと思う。


 そして普段は山の中に居るゴブリンが森に現れ、通常では考えられない、組織的な行動をする。今までに無い変化。間違いなく、ヒケンの森のオニ族をターゲットとして起こした変化。


 静かにソーギョクが話出す。


「やはりゴブリンに上位種が誕生したか、統べる何かが居る事は間違いないな」


「ゴブリンには有利で、私達には不利な場所。毒を使えば、掠り傷も致命傷になります」


「それで、ソーショウはどう考える?」


「やはりカショウ殿にご助力を仰ぐのが最善かと思います。私達よりも早くゴブリンを察知しておられました。それに、自分に注意を引き付けることにより、我らを助けようとしてくれました。信用に値する方でございます」


「カショウ殿は、依頼として引き受けてくれる気はあるかな?もちろん、納得出来る報酬は出すつもりだが」


「それならば、武器が良いかと思います。カショウ殿は探しておられたようなので」


「俺抜きで、勝手に話を進めないでもらえるかな」


「武器なら、良い物があるぞ」


 しかしソーギョクは俺を無視して、腰に差している短剣を抜いてみせる。


「これはオニ族の角より造られた短剣。火の属性を帯びたマジックソード。魔力を込めれば、火の魔法が使える」


 ソーギョクが魔力を込めると、短剣が炎を帯びる。


「ファイヤーボール」


 短剣から炎の球が飛び出す。


「下級魔法くらいなら問題なく使えるし、切れ味も保証出来る。これが、ソーキを助けてもらった報酬。依頼を受けてくれれば、残りの水・地・風属性の短剣も出そう。どうかな?」


 ゴブリン相手の依頼を受けて、生き残れば良い条件なら悪くはないのかもしれないと思ってしまう自分がいる。打算的というか合理的というか、少し自分自身に嫌気がする。


「分かったよ、依頼は受けるよ」

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