第9話.初めての戦い

 木々が途切れ、クレーターのような湖に出た所で、先導していたクオンが立ち止まる。湖の周りは木々が無く、1mほどの草が生い茂っている。


 俺は草むらには出ず、木の影に潜み様子を見る。ルーク達ウィスプは、木々の枝の中に隠れる。



 草木が揺れる音が聞こえ、次第に足音が近付いてくる。


 森を突き破って、大男達がバラバラと出てくる。その数は4人。

 2m近い身長があり、見た目はヒト族と変わらないが、違うのは頭のツノで一本角も二本角もいる。赤鬼だから一本角とか決まりがある訳ではなさそうだ。


 全員が揃いの革の鎧に弓を持ち、トラ柄のパンツに棍棒といった野蛮そうな雰囲気はない。第一印象は知性があって交渉が出来そうな感じがする。


 さらに遅れてもう1人、森から飛び出してくる。黒っぽい服に、大きな盾。そして、頭頂部の一本角。

 一瞬だけ立ち止まると、森に向き直る。盾を構え直した瞬間、森から弓矢が飛んで来るが、鬼には届かずに落下する。そして、再び仲間を追うように逃げ出す。


 盾のオニが20mほどはしったところで、森からゴブリンが飛び出してくる。濃い緑の頭だけが草むらから頭だけ飛び出している。


 前屈みなって走れば完全に草むらに隠れてしまうゴブリン。それに対して、しゃがんでも隠れないオニ達。

 状況は、ゴブリンの圧倒的有利な状況。この場所に誘導されたなと感じる。草の中から弓を放てば、放つ瞬間が分からない。草が邪魔してもその程度なら、メリットの方が大きい。


 クオンに小声で話しかける。


「俺が注意を引き付ける。ルーク達は近くの3体に攻撃し、すぐに残りの2体。クオンは引き続きゴブリンの位置を教えてくれ!」


“分かった”


 クオンの返事と同時にルーク達が動き出す。


 俺は草むらへと飛び出し、黒服のオニに向かって声をかける。というよりは、ゴブリンの注意を引く為に、大きな声を出す。


「援護する!」


 草むらの揺れが止まり、ゴブリンの動きが止まった。一瞬だが静寂が訪れ、時間が止まったような気がする。


 その静寂をルーク達が破る。光と供にサンダーボルトが放たれ、3ヶ所からバチッと音が聞こえると、3体のゴブリンが倒れる。同時にゴブリンから放たれた弓矢が、マジックシールドにあたる。


 マジックシールドの良い所は、透明に近い色味。微かに青みがかって、大きさや形は分かるが、草むらの中ではシールドの存在は分からない。それに盾を構えた状態でも、視界が妨げられない。


 ウィスプ達が明滅して、ゴブリンを倒したと合図を送りながら、残り2体のゴブリンに向かう。


 俺はルーク達が倒したゴブリンに止めを刺す。ウィスプ達のサンダーボルトでも、ゴブリンの小さい体では効果が大きい。止めを刺した瞬間、ゴブリンの体は魔石を残し消えてしまう。

 動物も殺した事が無い、初めて経験。一瞬で消失してしまい死体は残らない。罪悪感が薄く、少し怖い感覚はある。

 もっと選択肢はあったかもしれない。だが、今はお互いの命をかけた殺し合い。葛藤を押し殺し、次のゴブリンへと向かう。


 3体目のゴブリンの止めを刺し終わった時、ルーク達が戻ってくる。残りの2体も終わったようだ。


 単純作業を繰り返すように、ゴブリンの止めを刺してまわっていると、オニの1人が近付いてくる。


「ご助力、感謝します」


「待ち伏せされてるぞ、話は終わってからだ!」


 先頭を走ってたオニを追いかけるが、間に合わずに、姿が急に消えてしまう。


「メーン・カンテ、威嚇射撃。ルークは待ち伏せのゴブリンの牽制!」


 間に合わないか?


「伏せろ、体を隠せっ!」


 なるべく注意を引き付ける。クオンが、潜んでいる場所を教えてくれる。不意打ちされる可能性も少ない。


 もっと近付け、もっと早く。


 精霊と融合した俺の体は、身体能力が上がっている。最初は気付かなかったが、筋力や持久力・敏捷性が上がり、半日山の中を移動しても、疲れは感じるが動けなくなる事はない。多少息切れする程度。

 体が小さくなった分だけ、体重が軽くなったと思っていたが、これは違うらしい。精霊と融合した影響で、単に筋力だけではなく魔力という力で体が動いている。


 こんなはずじゃなかったと思いながらも、体が勝手に動き出す。最前列のオニの前に出れば間に合う。


 クオンが、ゴブリンの位置だけでなく、弓を引き絞る音まで教えてくれる。ゴブリンの姿が見えなくても、攻撃するタイミングが分かれば、避けることは簡単になる。


 そして、マジックシールドを地面に突き立てる。踏み板にして、一気に跳躍する。


 10m級の跳躍、その下をゴブリン達の放った矢が飛んでゆく。

 何とか倒れているオニの前に出る。射たれたオニは肩口に矢を受けているが、まだ生きている。


「落ち着け、数はこっちが上だぞ」


 ゴブリン達の攻撃が止まる。同時にルーク達がゴブリンに襲いかかる。挟み撃ちにしたはずが、今度は形勢逆転。

 ルーク達のサンダーボルトで、2体のゴブリンが倒れると、ジリジリと後退していたゴブリンが逃げ出す。

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