第10話.初めての接触と違和感

 追いかけるか、どうするか判断に悩む。この先、一瞬の判断が致命的になるかもしれない。だが、まだ判断出来る知識も経験もない。


 森に逃げ込むゴブリン達。

 後ろでは、立ち尽くすオニ達。


「おい、まだ生きてるぞ!」


 オニ達に声をかけると、慌ててオニ達が集まってくる。


「ソーキ様、今すぐ手当てを」


 鞄からビンを取り出して傷口にかけながら、肩口に刺さった矢を引き抜く。一瞬だけ血が溢れ出すが、徐々に傷口が塞がっていく。ソーキと呼ばれたオニは、その痛みで完全に白眼をむいてしまう。たぶん失神しているのだろう。


 俺は森に消えていくゴブリンを見送る。今は行動出来なくとも、どこの方向に逃げたかくらいの情報は必要になる。

 まあ、クオンに任せておけば大丈夫だろうが、それでも、少しくらいは出来ることをしたいという自己満足かもしれない。


「改めてご助力、感謝します。私は、ヒケンの森のオニ族ソーショウ。あなた様は?」


 クオンが影に潜って出てこない。かなり警戒している。


“気をつけて”


と、クオンが俺に訴えかけてくるので、ライに貰った指輪を見せながら、最低限の事のみ答える。


「俺は迷い人のカショウ。精霊化した体を戻す為に旅をしている」


「それは珍しいですね。もし良ければ、是非私どもの村にお越し頂いて、お礼をさせて頂きたいのですが?」


「村は近いのか?」


「ここから、1日半くらいの所です」


「精霊を探しながら旅をしている。もし、近くに行くことがあったら寄らせてもらう」


 少しソーショウの表情が曇る。


「ソーキ様は、オニ族4部族の中でも族長にあたるお方になります。その恩人を何もせずに別れたとあっても、後で私が叱られます」


「ゴブリンが戻ってきたら、どうする?迷い人でアシスについては知らないが、駆け引きは好きじゃない」


「すいません。それでは村まで護衛をお願い出来ないでしょうか?村に戻れば、それなりの対価をお支払い出来ます」


「まずは、対価を示してからじゃないのか?もう1つ、もっと早く助けられたんじゃないのか?族長なんだろ?」


「族長と言っても我らの主ではありません。我らの主は、族長を束ねるソーギョク様。我らの任務はソーキ様の救出になります。詳しくは申せませんが、ソーキ様が目を覚ましてから判断されてはいかがでしょうか?」


 信用出来るのか?都合よく利用されそうな印象しかなく黙っていると、ソーショウが言葉を続ける。


「今日はここで野宿します。ソーキ様が目を覚ますまで一緒にいかがですか?この辺りの事でも、知りたい事があるのではないですか?それに戻ればソーギョク様なら精霊について知っていることも多いでしょうし、協力もしてくれるはずです」


「分かった。取り敢えずソーキが目を覚ますまでは付き合うよ」


 そうと決まると、草むらから森の中に移動し夜営の準備を始める。夜営の準備は、ソーショウと一緒に居たソーイとソーサの2人が行い、盾持ちのオニは離れた所で周囲の警戒をしている。


 その間に、俺はゴブリンの持ち物を回収する。ゴブリンは消えてしまうが、何故か武器や防具、持ち物は残される。


 常にマジックソードを維持できるわけではないし、いざという時の備えは欲しい。そんな淡い期待があったが、結局回収できたのは弓矢のみで、使えるかどうかも微妙な感じとしかいえない。ちなみにクオンが、草むらの中に埋もれた小指の爪ほどの大きさの魔石を回収していた。


 回収を終えて戻ると、夜営の準備も終わっている。蚊帳のようなテントを張って、中ではソーキが寝ている。


 そこに、ゴブリンの弓矢を持っている事に気付いたソーショウが話しかけてくる。


「何か良い物はありましたか?」


「あまり無いな、知ってたのか?」


「良い物があれば、放ってはおきません。ゴブリンが、手入れされてる武器も持っているのも見たことはないですね」


「ゴブリンの弓は誰が作っているんだ?ソーショウ達の弓とは、造りがちがうだろ?」


「私達オニ族は、閉鎖的な環境で暮らしているので、そういう事情にはあまり詳しくありません」


「それでよく情報を教えるって言えたもんだな!」


「カショウ様よりは、詳しいという事で間違いはありませんので」


俺の突っ込みにもソーショウは悪びれずに答える。


「この森には、他の種族も暮らしているのか?」


「ヒケンの森にはオニ族と物好きなドワーフが数人居る程度ですよ。信じてもらうにはオニ族について知ってもらう必要がありますね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る