ヒケンの森のオニ族

第8話.ヒケンの森と初遭遇

 川沿いを下流に下り、オニ族の集落を目指す。洞窟の中の引きこもっているよりは、外の世界の方が気分は良い。山の中を歩いているだけなら、ちょっとした冒険気分は最初だけで、ファンタジーな世界でも実際は厳しい。


 そして今の俺は、マジックシールドの操作に集中するのみ。


「ダイヤ・ディビジョン」


 マジックシールドをひし形状にして、2枚に分割する。それを、山の斜面や崖に突き立てる。交互に階段のように突き立て、そこを登っていく。


 なんて発想だと、自画自賛してしまった。


 最初は生い茂る草や木の枝を、マジックソードで凪ぎ払ってみた。

 悲惨だった、致命的だった・・・。それは、マジックソードの軽さ。

 茎の太い草や枝が集まると、切れない。技量もあるが軽い剣では、切れ味は良くないし、打撃力も落ちる。攻撃するなら、切るよりは突くが主体となるだろう。


 だから、ライはムチを使っていたのかと納得する。しかし、俺の弾力性がない固さが取り柄の魔力では真似出来ず、少し騙された気分になる。


 あの爺さん、間違いなく黙ってやがったと思う!


 この森の中でマジックシールドが有効だと、分かったのが唯一の救いだ。草が生い茂った森、倒木が横たわる山の中でも有効で、汎用性がある。

 マジックシールドを、こんな使い方したのは俺だけだろう。人間の長所は、なんだかんだで順応していく生物!


 それでもトータルしてみると、順調なスタートだと思う。少しだけポジティブに考えれるし、先が見えた気もする。


 ライの話では、歩いて2日程下流に行けば、集落がある。この集落近辺では、強い獣は滅多に出ないし、魔物もゴブリンが希に現れる程度。


 この森で生きていける力はあると言っていたが、俺は安易には信用しない。獣一匹なら大丈夫でも、複数になれば話は大きく変わる。

 だから、なるべく獣との遭遇は避けたい。音や血の臭いが違う獣を呼び、想定外を引き起こす。下位しか居ないといっても魔物も出るなら尚更。戦うなら、なるべくオニ族の住む集落近くまで行きたい。そして情報収集してからだろうと思う。


 そして俺とクオン・ルーク達は、意外と良い組み合わせだった。

 クオンの気配探知の範囲はかなり広い。人間が視認出来る範囲は、探知出来ていると思う。それは、木々が生い茂る森の中でも同じだから、効果は大きい。


 クオンは忙しなく耳が動いている。音で感知するタイプの探知だろう。そこにルーク達の偵察が組合わさる。

 ライが言ったように、ウィスプ達にも個性があった。

 青い光のルークは、素早く接近戦が得意な戦士タイプ。

 白い光のメーンは、遠距離攻撃が得意なアーチャータイプ。

 黄色い光のカンテは、広範囲攻撃が得意な魔法使いタイプ。


 ルークは先行して偵察。メーンは上空からの索敵。カンテは、ルークとメーンの情報を、クオンに伝達する。そして、クオンからカンテへと指示が出る。


 まあ、これはこれで適材適所。索敵のリーダーがクオンで、俺の意図を汲み取って、適切な行動をしてくれる。


 もちろん、基本方針は俺が決めている。


 問題があるのは攻撃力。ウィスプ達のサンダーボルトは、3体合わせてやっと下級魔法くらいになる。個々では、痺れさせる程度で殺傷能力はない。

 狼や猪程度の大きさなら威嚇になるが、熊のような大型になると難しい。それと、俺と離れてしまうと魔力の供給が出来ない。離れると、サンダーボルト3発で魔力切れになる。


 クオンは探知メインで、俺のサポートにまわる。攻撃して探知が中途半端になるより、専門にした方が恩恵がある。専門特化型に複数の役割を与えるのはダメだ!


 戦闘になった場合は、ウィスプ達で痺れさせて、俺がとどめを刺す。だが、あくまでも基本方針は、戦闘を避ける。


 急にクオンが警戒する。そして、クオンが俺の頭の中に、直接話しかけてくる


“弓の音。どこかで戦ってる。まだ遠いけど、こっちに向かってくる”


「魔物?」


“大きい音と小さい音。オニ族がゴブリンから逃げてる。オニ族は5人、ゴブリンは倍くらい。”


「避けれ・・・」


 オニ族と聞いて言葉が止まる。オニ族の集落に向かってはいたが、あまりに早い遭遇。まだ半日しか進んでいない。


どうする・・・。


“ゴブリンは二手に分かれてる。正面と右手”


 さらに、クオンが情報を続けるが、俺は経験した事のない状況で、勘すら働かない。


「正面から来るゴブリンの側面に回り込めるか?」


 絞り出した答えに、クオンが誘導するように動き出す。

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