第6話.模擬戦
『もう疲れてきたかな?カショウよ!』
ライが左手に持った杖を突き出す。
『それ、ウォーターボール』
『もう1つ、ウィンドカッター』
「まだまだ、へばってないって!」
俺は左手を前にかざしてウォーターボールをマジックシールドで防ぐ。今の俺のマジックシールドは直径50cmほどの丸盾で、手の先30cm程で宙に浮いている。
マジックシールドは体から2mくらい離れても操作出来る。俺の魔力は体の中だけではなく、俺の周りにも漂っている。この魔力が届く範囲ならマジックシールドは操作出来るが、離れれば操作も難しくなる。
ちなみに体の周りの魔力を、薄く広範囲に拡げる事が出来れば、探知魔法へと応用出来るみたいだ。
一長一短になるが物体化魔法は、魔力そのものなので重さはほとんど無い。軽く操作はしやすい反面、威力のある攻撃を受け止めたり吸収するのは不向きになる。
だから必然と体から離れた場所で受ける必要がある。なるべく離れた距離で受け止めたいが、今の俺では操作性を考えると30cmくらいが限界になる。
俺へと一直線に向かってきていたウォーターボールを直前で弾くが、ボール状の水は今度は霧状となって、俺の視界を塞いでくる。
「チッ、ウォーターボールの狙いはコレか。それならば、クオン!」
クオンの気配探知で、周囲の様子を把握する。展開したマジックシールドを回避するように、左から、ウィンドカッターがとんでくる・・・。イヤ、右からももう1つ!
「喰えない、じいさんだな。2つ目のウィンドカッターは無詠唱か」
「マジックシールド·ディビジョン」
マジックシールドを2分割する。50cm程の盾は前後で2つに分かれ、1つをウィンドカッターの防御に、もう1つの盾は正面に残したまま。
物質化魔法は発動に時間がかかるが、顕在化した盾を分割したり、結合するのは早い。ただ、どんな大きさで分割するかのイメージが出来なければ、魔法は消失してしまう。
右からくるウインドカッターは、ウィスプ達で迎撃。
「ルーク、メーン、カンテ」
3つの光る球が明滅して、了承の意を伝えてくる。
青い光のルーク、白い光のメーン、黄色い光のカンテの3体のウィルオウィスプから、それぞれサンダーボルトが放たれる。
まだそれぞれの魔力は弱く、個々のサンダーボルトでは、少し麻痺させる程度の威力しかない。それを3つ合わせて、威力の底上げをする。
俺はサンダーボルトと同時にライに向けて突っ込む。
サンダーボルトとウィンドカッターが衝突し、魔法が飛散する。飛散した魔法にマジックシールドを叩きつけるようにして突き破り、右手に持ったマジックソードで切りつける・・・はずだった。
ライの姿が視界から消え、急に地面が近付く。そして、綺麗に顔面からの着地が成功する。
飛散した魔法に突撃しようとした時にはすでに、ライのもう1つの武器であるムチに足を絡めとられていたからだ。
『ライと呼べと言ってるだろうが、この半人前の半人間が!』
「白髪頭のじいさんに、じいさんって言ってるだけだろ!」
『私のは、銀髪で白髪ではないわっ』
『まだまだ目だけに頼り過ぎ!同時にクオンの気配探知を使えないようでは、半人前じゃ』
「マジックシールドとマジックソードを維持したまま、クオンと連携しろって。」
『それだけじゃない、同じウィスプでも性格や個性がある。お主は、まだまだ理解しておらん!』
『まだまだ、他にもあるわい。そもそも年長者に対する・・・』
ライのダメ出しというか小言が延々と続くかと思ったが、突然修行の終わりを告げられる。
『この祠で出来る事も、今日で終わりじゃ。後は自分自身の足で、アシスを見て回るがよい』
「まだまだライに敵わないし、ここでも出来る事も多いんじゃないか?」
『お主の成すべき事は、数多くの精霊を集める事じゃろう!』
精霊の性格も様々で、ウィル・オ・ウィスプのルーク達のように好奇心あふれる性格のものも居るが、そういったものは極僅かな存在。
大抵は顕在化した場所を好み、変化を嫌うものが多い。それ以上の何かを示さないと、精霊達は力を貸してくれはしない。
『ここ辺りでは、死なない程度の力は身に付いているわい』
「生きていけるとは、言わないんだな」
『ワシに簡単に捻られる程度の若造だからのう』
・・・じいさん、いつか一発入れに戻ってきてやる!
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