第4話.初めての魔法
アシスで強くなる。単純でもあるし、難しくもある。
強さといっても様々。純粋な物理的な力もあれば、魔法を行使する力、賢さのような知力、権力的な力、経済的な力、多種多様の力がある。
「まあ、魔力がある世界なら、力は魔法って事になるのか?」
『安易に拘る必要はなかろう。国の王が常に最強の力を持つわけではないし、その必要はなかろう』
「俺が迷い人のぼっちって分かって言ってるのか?」
『単純に魔力があれば、契約できる訳ではない。強さは、それぞれの精霊の価値観で決まる。最初から視野を狭める必要もなかろう』
「俺が生き延びてたら思い出すよ。今はそんな手に入らない力は意味がない」
『まず必要なのは、ここで生き残る力なのは間違いないがの』
「残酷な異世界だよ、全く」
アシスでは生き物は体に幾つもの属性を宿して生を成す。砂のように小さな粒の属性もあれば、石ころくらいの大きさの属性もある。この粒はスキルと呼ばれる。それを一掬いして、産まれてくるといった感じだ。
一掬いした属性の中でも、スキルの粒の大きなものがあれば適正が高いと言われ、小さな粒は適正が低いとなる。このスキルに魔力を込める事により、魔法を行使することが出来る。
ただスキルの粒自体が無い場合は適正が無く、どんなに魔力があっても、その属性の魔法は全く使えない。
それは迷い人であっても同じになる。アシスの理に従い、属性を持って転移することになる。
ただ、俺の適正は無属性しかない。正確にいうならば、一掬いした中に無属性のスキルしかなかった。天文学的な数字の確率をもってしても不可能なことを起こしている。
「無属性って何が出来るんだ?」
『下位魔法なら魔力を形にする物体化魔法、中位魔法で気配探知魔法、上位魔法は魔力吸収魔法といったところじゃな』
「炎とか嵐を起こすとか、王道の魔法ではないんだよな?」
『お主は魔力を吸収し続ける体質。魔力吸収魔法が使えれば、その体質を制御出来るかもしれんの。それに着ている服は、精霊の物体化魔法によるものじゃぞ』
俺は思わず服を触る。高級感はない見た目だが、柔らかくて着心地が良い。薄くはなく丈夫な質感。
「このチュニックみたいな服が?」
『その服の一本一本の糸自体が、物体化魔法によるもの。お主の魔力吸収を防ぐ封印の役割も果たす』
「どんな精霊なんだ?」
『ワシ以上の力を秘めておるかもしれんの。そして気配探知は、クオンとも相性が良い。使えれば、さらに性能が跳ね上がる』
俺は言葉が出ず、ただ立ち尽くす。
『無属性魔法は、お主との相性は抜群に良い。無属性に特化していれば尚更、生きる可能性は上がるわい』
「俺に合ってる事は分かったよ。で、どうするんだ」
『まずは、見た方が早かろう』
ライが左手を前に出して、手の平を向ける。
『マジックシールド』
左手の手の平にうっすらと光が集まり、直径1m程の丸盾が現れる。
『魔力を集めて物体化する。これが無属性の物体化魔法』
「このシールドが、魔力の塊ってことか?」
『そういうことになるな。イメージする事が出来て、再現出来るだけの魔力があれば、何でも再現することが可能じゃ』
ライが左手を下ろすと、マジックシールドが消えて、今度は右手にムチが現れる。
ライの手は動いていないが、ムチは蛇のように動いている。地を這うように動いたかと思えば、空中に舞うよう動いたりもする。
『まずは、お主の体の中の魔力を感じ取ることからじゃがな』
魔力の事は何となくではあるが分かる。半分は精霊の体だからなのかもしれない。血液とは違う、体の中心から手足へと流れてい感覚。そして、溢れ出た魔力が俺の全身を覆っている。
「体中に溢れている。これが魔力だろう」
『では手の平の上に載る丸い球を想像して、そこに魔力を集めてみるのじゃ』
手の平の上に載るピンポン球を想像する。
ピンポン球を想像した空間に、魔力が流れ出す。徐々に光が集まり形となって現れ出すが、急に弾けて消えてしまう。
『魔力の込めすぎじゃな!その球もお主の一部と思ってみよ。最初はゆっくりとな』
もう一度、手の平に球をイメージする。球も体と一体化したイメージで。
微かに光が集まり球が浮かび上がってくる。今度は弾けない。
「出来たっ」
この小さな球を作る魔法。俺の生きるための異世界生活が始まる。
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