第3話.召還魔法とケットシー
洞窟の中に戻って老人を探す。最初に居た部屋の前に立ち、とりあえずノックしてみる。
「居るか?」
中から返事はないが、扉に鍵はかかっていない。勝手に転移してきて、今さら遠慮する必要も感じず、そっと扉を開け中に入ってみる。
探すような場所や隠れるような所もないが、とりあえず奥まで入って誰も居ない事を確かめる。
「やっぱり居ないか」
引き返そうと振り返ると、そこに老人が居る。何も無かったはずの空間から、姿を現している。
『どうするか決めたかの?』
「あんた、何者なんだ?」
『ワシはライ。迷い人の案内人であり、精霊でもある』
「精霊も人の姿をしてるんだな」
『精霊に実体は無いよ。魔力で姿を顕在化しておるだけ。まあ力が強くなる程、姿は人型になるがな』
「それは、自慢してるのか?」
『迷い人は希な存在。永く会話はしておらんからの。久しぶりの会話くらいは楽しんでもよかろうて。それで決めたのかな?』
「どうしたら良いかなんて答えも出ないし、覚悟もない。ただ俺を助けた物好きな精霊と話してみたいだけ」
しかし、ライは黙って俺を見続けてくる。嘘をついてはいないが、それだけが全てでないことを見抜いている。
「・・・まあ、本音は死ぬ度胸は無い。簡単な傷が治るなら、自分で死ぬのは相当の覚悟がいるだろう。間違ってるか?」
『合格じゃな。それならば生きる術を、召喚魔法について教えよう』
俺の体は、精霊と融合している。限界以上に溜め込んだ魔力で飛散しないように、体を繋ぎ止めているだけではない。
精霊は魔力を糧する為、俺の魔力を糧とし消費している状態でもある。だが、とても消費出来る量ではなく、もっと多くの精霊が必要になる。
そして精霊は自らが身に付けているブレスレットを俺に与えた。
契約のブレスレット、それは精霊と契約を行えるマジックアイテム。契約した精霊はブレスレットに宿り、契約者の魔力を代償として召喚に応じる。
つまり、精霊を召喚して俺の魔力を消費すれば良い。
「どうやって契約するんだ?」
『すでに契約しておるじゃろ』
ライが、俺の足元を見る。
何かを察したのか、クオンが影から現れる。
「お前精霊だったのか?」
今度はクオンが俺のブレスレットの中に消える。
『どこの世界に、影に消えるネコがおるのじゃ』
「ここは、ファンタジーな世界なら、俺の常識なんて関係ないだろ」
『まあ、適応能力だけは高いかもしれんな。お主の記憶しているものと、アシスのものは同じ。記憶が無かったり曖昧なものは、違うという事じゃよ』
「ネコはアシスでもネコって事か?」
『そういう事じゃな』
「クオンは何の精霊なんだ?」
『影の精霊のケットシーじゃ。影に潜ったり気配探知に優れておる。なかなか人前には姿を現さん精霊じゃぞ』
「契約した覚えは無いんだが・・・」
『契約するには、2つ条件がある。1つ目は、精霊がお主の事を同等であると認める事。2つ目は、精霊にお主が名付けを行う事』
『お主、ケットシーと何かしたじゃろ』
「話しかけただけで、何もしてないはず」
『何かしておる。何を話した?』
「お前も、ぼっちか・・・」
『ふっ、ぼっちの仲間と認められたようじゃな。名前も気に入ったようだしの』
「複雑だな・・・。どうやって召還するんだ?」
『ケットシーの事を、意識するだけで現れる。呪文なんかはないぞ』
俺は心の中で、クオンの名を呼ぶ。
目の前にクオンが現れる。
「クオン、精霊なんだってな。凄いやつだって知らなかったよ!」
どうだ言わんばかりにクオンは得意気な顔をする。
「よろしくな、クオン!」
“よろしくね、相棒さん”
声が聞こえたような気がして、周りを見渡す。ライ以外は誰も居ない。
『精霊は直接お主に話しかけてくる。ワシみたいに上位になれば、声に出すことも出来るがの』
「それって、ただの自慢だろ」
『たまの会話じゃ。それくらいあっても良かろう』
「ライは、俺に力を貸してくれないのか?」
『ワシは精霊ではあるが、お主みたいな迷い人を導く役目がある。力を貸すことも、ここから離れる事も出来んよ』
「やっぱりか?そんなに甘くはないな。どうやったら精霊に認めてもらえるんだ?」
『お主とクオンのような相性もあるし、好奇心旺盛な精霊がお主に興味を示す事もあるが、一番はお主の強さを示す事じゃな』
「まずは、強くなれって事か」
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