第2話.この世界の名はアシス

 老人に連れられて祠の外に出る。ここは洞窟の中に作られた祠。山の中腹に横穴を掘り、人工的に作られた洞窟らしい。


 祠の中の部家や通路は、石畳や石壁で特別な装飾は無く、質素な造りではある。それでも、洞窟である事は感じさせない。そして何よりも、明かりがあり暗くはない。

 石壁の上部には台座が設けられ、明かりが揺れていというよりは動いている。手の平ほどの丸い球のウィル・オ・ウィスプという精霊のようだ。これだけ見ても、ここがファンタジーな世界だと納得出来る。


 扉を開け、外の世界に出る。


 目の前には、見渡す限りの大森林。雲より高くそびえ立つ大木。黒い霧のようなものが立ち込める場所もあり、その姿を隠そうとしている。

 クレーターのような穴が数十ヶ所と点在し湖となっているが、赤や黄色、虹色と鮮やかな色を見せる。さらに遠くには、存在を見せ付けるようにそびえ立つ山々。かなり遠くにあるはずなのに全貌が見えない。


 そして極めつけは、月のような星が見える。見える範囲で3つ。まだ他にもあるような気がする。昼なのに白く浮かび上がり、覗かれているような不気味な気配がする。


「不思議な世界だな」


『近付けば近付くほど、危険で過酷な世界じゃよ』


 この世界の名は、アシス。

 創造神によって創られた世界。


 創造神は最初に、このアシスという世界と、生物を創造する。

 また、8人の神に命じてアシスの理を作らせた。

 8人の神によって作られたのが、火・水・地・風・光・闇・空・無の8つの理(ことわり)。


 そして、それぞれの理を司る8体の精霊を産み出した。これが原初の精霊と云われる存在たち。

 精霊たちは、アシスにそれぞれの魔力を満たした。混ざった魔力からは、様々な物質が出来上がり、また様々な精霊も産まれた。


 これがアシスの世界の成り立ち。


 そして、様々な種族が集まり、混ざり、幾つもの町や村、国が興り繁栄した世界となっていく。

 しかし突然、赤い眼を持つ魔物や魔族と呼ばれる者達が現れる。アシスを支配しようと目論み、争いが生まれる。さらには種族間や国家間にも、争いの規模は拡大し、混沌とした世界が始まる。


 なぜ魔族が誕生したかは分からない。神々が与えた試練とも云われている。


『生きていくのも過酷な世界じゃ』


「その世界によそ者が混ざるのか。他にも俺みたいな転移者は居るのか?」


『極希に現れるな。今居るかは分からん。全てを知っている訳ではない。』


「他の転移者は、どうなった?この世界で無事なのか?」


『勇者と呼ばれた者が居るのは確かじゃが、その他の者は分からん。分かるのは名を上げたものだけじゃて』


「・・・普通に会話してるげど、俺はこの世界の言葉が分かるのか?」


『問題ないの。それも教えてやらんとな』


 この世界で転移者は、迷い人と呼ばれる。アシスは8つの理から成り立つ。異世界からの迷い人は、アシスには無い理を持ち込む事は出来ない。

 その為、アシスに無い理を持っていた場合は、その箇所の記憶が置き換わったり、喪失してしまう。

 言葉や文字は、アシスの言葉に置き換わり、転移前と同等に出来るようになる。


「俺の記憶が曖昧だったり無い部分には、何かの理が関係しているのか?」


『お主の体は、一部が消滅している影響じゃろ』


「・・・そうか」


『この世界を見ても考えは変わらんかな?もう一度考えてみるがよい。その時間は十分にあろう』


「ああ、分かった」


 二つの世界に拒絶され、死にかけたところを、無理やり助けられた。そして、半分人ではなくなった俺に、生きるのかと問う?


「どうかしてるな、無茶苦茶だろ!」


 だけど、なぜ助けたのか?たまたま?藁にもすがる思いの藁以下の存在だよな・・・。


 それでも何か意味があるのか?


 同じ思考がループする。答えは出ない、積んでは崩しての繰り返し。


 すると、足元に違和感を覚える。俺の足に体を擦り付けてくる黒猫。ただ違うのは、俺の影から出たり潜ったりを繰り返している。


「これが異世界ってやつか」


 そして、俺は黒猫に声を掛ける。


「お前に飼い主は居るのか?」


 黒猫は俺の足の甲を、前足で踏み踏みし始める。

それって何の意味があるんだ・・・。

 そうだな、意味なんてないよな。そんな事が分かるなら、俺はここに居ないか。


「独りぼっちなら、俺についてくるか?」


 黒猫は俺を見て、少し笑ったような気がした。


「ついてくるなら名前が必要だな。お前の名前は、クオン。ヨロシクな!」


「・・・俺は、カショウだ」

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