ざまぁ皇太子だって生き残りたい

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話愚かで傲慢な公爵令嬢に、俺は婚約破棄を痛快に言い渡す

 偉大で強大な帝国の第一皇子である俺は、婚約破棄を言い放つ。


「エリザベス! 貴様のような結婚はできない! 婚約破棄だ!」


 相手は帝国の4大公爵家の令嬢エリザベスだ。


「そ、そんな、殿下⁉ どうしてですか⁉」


 突然の宣言にエリザベスは言葉を失っている。

 漆黒の髪を振り乱して、理由を聞こうと俺に詰め寄って来る。


「どうしてだと? 貴様の悪逆非道で狡猾な行為を、この俺が知らないとでも思ったのか⁉」


 だが俺は多くの証拠で突き放す。

 エリザベスは公爵令嬢であり、第一皇子婚約者という高い地位を使い、宮廷内で多くの悪事を働いてきたのだ。


「そ、そんな、殿下⁉ 誤解です! 私はそんなことは……」


「黙れ! まだ白を切るつもりか⁉ こちらには証言者もいるんだぞ! なぁ、マリアンヌよ?」


 後ろに控えさせていた子爵令嬢マリアンヌに声をかける。

 純真無垢で聖女のような彼女は、裏でエリザベスにイジメられてきたのだ。

 彼女からの告発によって、俺は今回、婚約破棄を決断したのだ。


「マ、マリアンヌ⁉ 貴女という人は……」

「こ、怖い……殿下……」


「下がれ、エリザベス! これ以上、俺の婚約者に近づくな!」


「えっ……新しい婚約者……⁉」


「ああ。そうだ。俺はこのマリアンヌと婚約を結ぶことにしたのさ!」


 勝ち気で難しい性格のエリザベスに比べて、マリアンヌは俺の心を癒してくれる存在。

 ここ1か月の交流を経て、俺はマリアンヌを新しい婚約者にすることに決めたのだ。


「で、殿下、お待ちください、その女は……」

「黙れ! これ以上、皇太子妃候補を侮辱するのなら、不敬罪で牢屋に放り込んでやるぞ!」


 エリザベスの実家は4大公爵家で帝国内でも権力を有している。だが次期皇帝候補である俺にとっては、いち貴族の一つでしかないのだ。


 ――――バシャ!


 俺は手に持っていた赤ワインを、エリザベスにかける。まだ理解できていない傲慢なエリザベスに対する宣言だ。


「――――っ⁉ くっ……ぜったいに……」


 赤ワインをかけられたエリザベスは、苦悶の表情で立ち去っていく。パーティー会場には居られなくなって逃げ去ったのだ。


「はっはっは……いいざまだな! よし、演奏団よ。祝いの曲を奏でるのだ!」


 邪魔で目の上のたん瘤だったエリザベスを追い払い、俺は最高に気分が良かった。

 今の自分に逆らう者は帝国内に誰もいない。

 自分こそが最強であり思考なのだ。


 まさに人生の中で最高に幸せな瞬間だ。


(……ん?)


 だが、そんな時だった。

 俺は“ある真実”に気がつく。


(……ああ……そうか。俺のこの物語の登場人物の一人……だったのか……)


“ある真実”は信じられない内容。


 ここは『悪役令嬢ですが今世は自由に生きます!』の物語の世界であり、自分も登場人物の一人にすぎないのだ。


 あらすじと話の大まかな展開を、俺は思い出していく。


(あのエリザベスが痛快に逆転していく物語なのか……)


 物語の主人公はなんと公爵令嬢エリザベスだった。

 婚約破棄をされ帝国内でもドン底に落ちた彼女が、知恵と行動力で大逆転を成しとけていく痛快ストーリーなのだ。


(そして俺は……)


 自分の大まかな設定も思い出されていく。


 ――――◇――――


《第一皇子ラインハルト》

 婚約破棄を言い渡し、主人公エリザベスをどん底に落とす張本人。再起をかけた彼女の前に何度も立ちはだかるが、最終的にエリザベスと仲間たちによって討たれる。


 ――――◇――――


(ああ、そうか……俺こそが悪役で、断罪される側だったのか……)


 その結末を自覚して俺は立ち尽くす。

 何故なら自分は数年後に、主人公エリザベスによって処刑されてしまうのだ。


(そんなのは嫌だ……なんとかして運命を変えないと⁉)


 こうして死の運命から逃れるための悪役皇子ラインハルトの物語は幕を開けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る