第4界 俺を追放した白騎士パーティーがMajiで爆発する5秒前(3200文字)

 俺は、盗賊である。

 レベルアップの都度、盗みスキルにポイントを全振りしてきた、超絶・盗み特化型である。


 それだから、当然他の能力は低い。


 以前は、魔物からレアアイテムを盗みまくって荒稼ぎしたものだ。

 だが、次第に…………。

 パーティーで行けるエリアに、出現する魔物のレアアイテムなんかは、すっかり相場が暴落しちまっていた。


 それよりは、同じパーティーに居る、水色の髪に赤い瞳の僧侶の少女、彼女のおパンツを盗みスキルで……。


 俺にはそんな事、朝飯前だ。

 しかし、楽しんだ後、キッチリ元通りに返却するなんてスキルは聞いた事がない……。


 んな事を、賢者タイムの都度思い、後悔はするのだが、どうにもやめられそうにねえ……中毒患者エロジャンキーだった。まぁ、自棄にだってなるだろ。


 よって、俺がパーティーから追放されるなぞ、当然の帰結だった。


 それだけじゃ済まず、俺は裁判にもかけられ、有罪。

 去勢刑を免除する代わり、ここ、ウッロの街から遥か東方の国に生息する〈ゴブリン・カミカゼ〉なる魔物をを討伐せよとの判決が下された。



 メンツは俺を含む罪人3名。

 むくつけき野郎ばかりの、非常にむさ苦しいパーティーでだ。

(一人、酷いワキガのヤツもいるし)


 ウッロから30キロほどは歩いたろうか。


 元居たパーティーのあの僧侶の少女が、ユニコーンに乗って駆けてきた。

 何だろうか? まだ、俺をどつき足りねえのか?


「あなた方の中に、ヒーラーが居ないと聞きました。私も同行します」


 は? なんでまたそんな酔狂な。

 俺たち罪人なんかに付き合う理由がどこにある?

 なんせ、未開の遥かな東方の国へと行くんだ。生きて帰れる保証はねえ。

 お家に帰るまでがクエストだぞおとか、そんなことを僧侶に言った。


「苦楽を共にした戦友って言うじゃないですか…………え、えと、ほっとけませんし」

 ……信じられんなあ、まったく。


「……むさい男が三人だ。犯されても知らねえぞ」

「そこは、きっとあなたが守ってくれます」

 どうだかな……。

「下着は、盗らないという約束でお願いします」



 道中、若い娘っ子が居るってだけで、モチベ的にも随分違った。

 回復魔法を使わずとも、常時癒されてるような。


 で、討伐予定のゴブリン・カミカゼとやらは、どんな魔物なのか――。

 聞いた話では、ゴブリンの亜種で、若い女ばかりを狙って、散々おもちゃのように、いたぶった挙句、皮を剥いだり、食っちまうという、相当鬼畜なヤツらしい。

 ゴブリンの上位種か……。



 意外なことに、東方の国に到着して直ぐだ、あっさりとゴブリン・カミカゼは討伐出来た。


 まあ、並のゴブリンよか弱いくらいか。

 少し、肩透かしだったな。



 帰路に着く。

 時折り魔物とも遭遇した。

 ところが、戦闘でダメージを負っても、何故か僧侶は回復してくれないということが、何度か続いた。

 

 何か僧侶の様子がおかしかった。


 試しにおパンツ盗っても、怒らない。返してとも言わない。


 ついには、ウッロの街に無事着いてもなお……。

 おかしい。何かに取り憑かれたように人が変わったというか。



 ――賢者タイムに入り、ふと思った。


 僧侶は、元居たパーティーのリーダー、イケメン白騎士に言い寄られていたっけ。

 僧侶もまんざらでもなさそうに、顔を赤らめてモジモジと。


 僧侶も知ってたハズだがな。

 白騎士のヤツはパーティーに居た、黒髪妖艶な女魔法使いにも既に手を出してた事を。


 女魔法使いは、ユニコーンに乗馬を拒否られてもいたっけ。

 宿に泊まっても、アンアンギシギシが聞こえていたことも。


 イケメン白騎士。

 外面は清廉潔白なホワイトナイト然だが、

他のパーティーの女から冒険者ギルドの受付嬢までと、何かと女に手が早い。

 実は隠し子が36人も居るとも聞いていた。

 それでも、口八丁でやたらと人望があるとか……。

 

 ――けっ、リア充爆発……いや、それがマジしそうだった。


 俺ですら、てんで歯応えのなかったゴブリン・カミカゼ。

 現地じゃアマンジャクと呼ばれてたか?


 ただ、やっかいだったと言えば、速攻でとどめを刺さないと、ヤツらは、戦闘になるとやたらと自爆スキルを使う。

 大爆発を起こすのだ。


 弱いと言っても、それを知ってない事にはヤベえ。


 ――更にゴブリン・カミカゼは、人の姿に化ける能力があった。


 僧侶に化けた時など、どちらが本物かまるで区別がつかなかったものだ……。


 俺とワキガは、当然、攻撃をためらった。

 もう一人が、僧侶の偽者を見極めたのか、その首をはねたが、まだ残ってたヤツらの一匹が自爆。


 間一髪、いち早くその兆候に気付いたワキガに、俺は腕を引っ張られ、直ぐ側にあった滝壺へと共に飛び込んだ。

(ゴツい斧戦士のワキガは、意外にイイヤツだった)


 残った罪人は俺とワキガだけになっちまった。

 僧侶もダメだろうと思った。 

 ところが、巨石の陰から、ひょっこり現れた。

 そこで、爆発の衝撃をどうにか凌いだようだった。


 ──やはり、間違いねえ。

 僧侶はそれから、ずっと様子がおかしかった。

 本物の僧侶は、あの時既に…………。 


 

 ……まあ、いっか。どうなろうと。

 俺を追放したパーティーだしな。知ったこっちゃねえさ。


 

 安酒のせいか、幾ら流し込んでも、ちっとも酔いやしねえ。

 舌打ちをひとつ。

 ギルドの酒場でワキガと呑んでいたが……結局、街外れまでやって来ていた。


 白騎士と女魔法使いに全てを話したが、まさかという顔をして半信半疑だった。


 俺は不意を突いて、僧侶を枯れ井戸の底へと突き落とすつもりでいた。

 その直後には、自爆するだろうから、2人を強引に伏せさせねえとな。


 ……それにしても、見れば見るほど、僧侶に瓜二つ……まるで区別出来ねえな……。

 どうもためらっちまう。


 ところが、そこへ――ワキガが血相変えて飛んできた。


「早まるなよ! フォークトカンプフの鏡持ってきてやったぜ。まずコイツで確かめてみろ」


 そういや、冒険者ギルドには、そんなもんもあったな。

 真贋を見極めるという魔法の鏡を借りてきていた。

 ……いや、どうせ、あの醜いゴブリンの姿が映るだけだ。

 まあ、疑ってる白騎士たちには証明してやれるか。


 ――しかし、そこに映し出された姿は、ゴブリンなどではなかった。


 ……俺のとんだ勘違いだったのか! 


 ――生きてて良かった! 

 心底、そう思った。


 しかし、僧侶の様子がおかしかったのは、ありゃあ何だったのかと聞けば……。

 あのゴブリンの自爆の激しい衝撃で、長くショック状態に陥ってたんだと。



 かくて、俺はワキガと共に新しいパーティーを立ち上げていた。

「…………メンツ足んねえな」

 当然だ。元罪人には世間の風当たりは冷たかった。


 そんな、ワキガと二人して途方に暮れてたところ、僧侶がやって来た。

 冷やかしに来たのか?


「聞きましたよ。大爆発を起こす危機を感じて街を守ろうとしたんですってね。知ったこっちゃないって考えそうなものなのに。お人好しというか、マジメですね」


 結果は、俺の独り相撲だったがな。あの時、ワキガが来てくれなかったらと思うとゾッとする……。

 ワキガにはもう二度助けられたな。


 僧侶は続けた。

「マジメといえば…………ずっと引っかかってたんですが、あなたって、言われるがまま、盗みスキルにポイント降り続けてた節もありましたよね。レアアイテム稼ぎ要員を引き受けるつもりで。私もかつては、それに甘えていたことも否めません」


「いや、良かれと思って盗みスキルにBETしてたさ……」


「私にも非がありました。私、あなた方のお役に立ちたいと思います。パーティーに入れてください」


 人のこと、アホと言うやつはアホだし、『マジメ』って言うやつは、実際真面目だったりするんだよな、僧侶も相当真面目だろ。


 真面目に生きてりゃバカ見ると思ってたけど、そうでもなかったな……。



「もう下着は盗らないって約束することもないですよね。マジメな盗賊さん」

 

 

 

 〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る