第88話 ビルヘンニーニャ開店

「そういうわけで、店頭に並べる武器・防具が出来ましたっと。」


 修行の過程で出来た鉄の剣(中品質)(低品質)、鉄の小剣(中品質)(低品質)。

 鉄の鎧(中品質)(低品質)、狼の皮鎧(中品質)(低品質)、フライパン。





 尚、他プレイヤーが製作した品も当然彼ら、彼女らがスタートした町等で売られているが、粗悪品や劣悪品が殆どで所謂二束三文にしかならない。


 稀に低品質を製作出来る程度である。


 劣悪品100モエ、粗悪品200モエで売られている。それらは数日も持たないため予備を含めて複数本所持していないと冒険にもならない。


 そしてマロン達の作る低品質と彼らの低品質でもまた差異が生じる。


 攻撃力においても武器の耐久力においても。


 町で売られている鉄の剣(低品質)が1000モエとそこそこの金額がするのに対し、マロン達が打った鉄の剣(低品質)は2000モエで売る予定である。


 鑑定が使える者がきちんと鑑定をすれば、その差が理解出来る。


 例えば、攻撃力100~200を低と仮定した場合、他プレイヤーの低品質が100~120程度である事に対し、マロン達作製のものは190~200なのである。


 単純にそれだけではないのだが、マロンが作製した物は毒の追加効果、アクアが製作した物には水魔法の追加効果がデフォルトで付いているのであった。


 そのような追加効果があるならば3000モエしても良いのだが、そこは新進気鋭の店であるため開店セールの意味合いもあった。




 鉄の剣は4000モエ(中品質)、2000モエ(低品質)


 鉄の小剣は3000モエ(中品質)、1500モエ(低品質)


 鉄の鎧は4000モエ(中品質)、2000モエ(低品質)


 狼の皮鎧は3000モエ(中品質)、1500モエ(低品質)


 フライパンは魔法とアクアの錬成でフッ素加工的なものを施したせいか高品質のみで、4500モエ


 こればかりは師匠ズが口をあんぐりとさせていた。一般的なフライパンは500モエだから高級さが窺える。


 現在のお品書きはこのようになっている。開店セールが終わるとそれぞれ+1000モエとなる予定である。


 賞金やポーションの値段がおかしいので、武器や防具の値段が安く感じるがそれはポーション職人が少ない故の事である。


 マロンは薬師見習いをマスターし、薬師となる事でポーションのプレイヤー作の独占販売を密かに考えていた。


 



 

「そして……開店詐欺をします!」


 トリスとアクアがずっこける。


「従業員の教育を忘れてたっ!」


 

 計算は全員が出来た。つまりきっちり帳簿を付ける事が可能という事がわかる。


 何がいくつ売れ、いくつ倉庫から補充したのか把握する事は今後を含め大事となる。


 何より、税金は納めなければならない。現実のように一つ一つの商品から納めるわけではなく、店舗の規模によって税金は決まる。


 財務関係はアクアと王女の護衛の女性の一人であるモリナが担当する事になった。


 最終的にマロンが目を通す事にはなるが、


「これ、絶対護衛に戻す気ないでしょ。」


 トリスがマロンに耳打ちした。


「完全な社畜化まっしぐらだね。」



 レジ、接客、品出し補充、棚の整理など一通り全員に体験させる。


 そしてなるたけ希望の分野に元護衛達を割り振った。


「絶対従業員足りないわ。」


 幽霊二人は普通の人間達には見えないのである。最初から戦力外であった。


「奴隷商会にでもいくか、普通に従業員募集するか。それが問題だねぇ。」


 社畜化まっしぐらとは言いつつも、いつかは元の護衛職に戻る。


 そうなった時に店が回らなくなっては意味がなくなる。


 その前に策は立てておかなければならない。


 尤も、1ヶ月や2ヶ月で返せる額ではない。中長期的に見て、従業員を増やす必要があるという事を意識しておく必要はあった。




 3日間の研修期間を経て、ようやく開店を迎える。


 ゲーム開始から26日目の事であった。


 チラシと呼び込みで3日間店の存在をアピールし、近隣住人には告知をしている。


 冒険者ギルドの告知掲示板にも貼りだして貰っていた。


 元・幽霊屋敷という事がどう影響するかという懸念はあるものの、マロンの店は開店を迎える。


 なお、ドラゴン娘マソキュイスタは「護衛」兼「マスコット」と化していた。


 計算は出来るが、性格の問題で。


 マスターたるマロンの言う事は聞くが、いち人間達にしたてに出るのがどうにも苦手であった。


 特殊な性癖を売りにする娼館でなら働けるだろうが、人間換算すると幼女のため不可であった。


 従業員たる元護衛は男性10名、女性5名。フロル第六王女と側近ノエルは従業員としては従事しない。


 たまに手伝えるように、3日間の研修は行っている。



「よろずやビルヘンニーニャ開店です。」


 日本語とスペイン語が混じった、直訳してはいけないお店が開店する。



「うん。人がまばらだねぇ。」


 一応は宣伝の効果か、若干の来客はある。


 しかし値段を見て難色を示す人が殆どであった。


 鑑定結果を商品の前に貼りだす事で、高額な理由はアピールしてはいるが鑑定持ちでない者には信用には至らない。


 客の中にも鑑定を使える者はいるが、オープン価格とはいえ購入するかは悩ましいところであるようだ。



「実演販売をします!」


 フライパンは高級過ぎる、そのため売れる見込みがないと判断したからだ。


 庭で簡易バーベキューを行う事で、フライパンの有能性を問うのであった。


 ストレージに入っているイノブタの肉を小出しにする。

 

 さいころステーキのような一口サイズの肉を焼いていく。


 そして来店者に無料提供をするのである。


 スーパーなどで見かける時間限定試食会と言うわけだった。


 肉の焼ける匂いが、近隣の人間を誘い出していく。


 元・幽霊屋敷という事を払拭させる意味合いも込めていた。


 ポーションや剣ばかり売っていても人は集まらない。


 美味そうな匂いはてっとり早い集客方法なのであった。


 敷地の近くで店舗に入ろうか迷っている者達がゾンビのようにぞろぞろと、ホイホイつられていく。


 そして人が集まった所でマロンは商品説明に入る。


 既存のフライパンとは違う、メリット・デメリットを伝え、説明が終わると更に焼けた肉を盛り付ける。


 そしてフライパンの面を集まっている来客に見せるた。



「このように、肉がフライパンにこびりつく事がございません。また、この効果は毎日使っても3年から5年は持ちます。」



 木工見習いで培った技術で、急遽爪楊枝をマロンとアクアで製作していた。


 そのため、肉を一摘まみ食べるのに適していた。


 屋台等で串焼き等は売られているが、爪楊枝は存在していなかったため、爪楊枝も注目を受けていた。


 一口大の肉に爪楊枝を刺し、来客に一つずつ配って回る従業員達。


 肉を食べた来客たちの反応は全員が驚愕のものとなる。


「なんだこの肉はっ!」


「頬が蕩けるよぅ。」


「この小さな串?は一体なんなんだ!」


「このフライパン確かに凄いな。」


 フライパンだけでなく、爪楊枝と何より肉が大絶賛となった。


「この肉は売り物じゃないのかね?」


「この爪楊枝?というものは商品として売らないの?」


「このフライパンは革命だ!」


 剣や鎧よりも売れるフライパンだった。


 そんなフライパンよりも人気の出てしまったイノブタさいころステーキ。


 50個だけ用意していたフライパンは肉の試食会を始めた途端売れ始め、あっという間に完売。


 爪楊枝の商品化とイノブタ肉の流通を考えさせられる事となった。



 マロンは午後、商品ギルドに赴き、フライパンの特殊加工と爪楊枝の特許を取得した。


 その時にイノブタさいころステーキの実演をしたら、肉を卸して欲しいとギル後職員は懇願している。


 マロンは再びイノブタ肉の流通を深く考えさせられる事となる。

 


「マロン……これは?」


 

「寸胴鍋の詩作品。」


「トリス、ラーメンを作ってみたいと思わない?」


 マロンの思い付きで唐突に始まるラーメンと鍋作り。


 テレビと本で得た知識なので、美味く出来る保証はない。


 しかし、実演販売第二弾を目指して直ぐに動き始めていた。




 イノブタの骨を使って出汁を採り、豚骨スープもどきを製作する。


「序に白湯スープも作ってみるかな。」


 まるまる肉が付いたままのイノブタのもも肉等を別の寸胴鍋に投入する。



「火の番とアク取り番が必要だね。」


 別の追加報酬により二人の王女の元護衛が交代で担当する事になった。


 また、同時にイノブタ肉を使ったチャーシューも煮込んでいた。




「大変ですっオーナー!」


 従業員の女性、レーナがマロンの元に駆け寄って来る。



「どうしたの?まずは落ち着いて。」


 マロンが慌てるレーナを落ち着かせ、息を整えるのを待ってからその先の言葉を聞いた。


「一番高いポーションが売れましたっ!」


 奥にガラスケースに飾ってあったあの色々とヤバイポーションの事である。

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