第86話 なんということでしょう……はゲームにもあった。
「あっと言う間にリフォームが終わったね。」
マロンはこの1週間をまるで短かった事のように呟いた。
トリスはいつもの事と軽く流すスキル(これは現実でいうところのスルースキル)でいなしていた。
アクアは大変だったと脱力していたが、一方で充実も感じていた。
幽霊二人は疲労があるのか見た目では分からない。
この一週間、マロンはまず清掃をした。
不要廃材は外に仮保管する。
清掃が終わると、職人達と一緒に図面に従ってリフォーム開始。
木工職人見習いをマスターしていたために、削ったり組んだりは職人の弟子達と遜色がなかった。
裁縫師見習いを生かし、カーテン等の自作も行っていた。全てが完成する頃にはレベル8/10まで至っている。
様々な材料はトリスが多用な場所で、詐欺師見習いを生かし安く仕入れる。そのため二日でマスターに至った。
また、毛皮や糸等の採取でアクアと狩りに出かけた際に魔法使い見習いもマスターしている。
アクアの精霊魔法使いもマスターに至り、合間でさくらんぼくらぶで受付業務をこなし丁稚もマスターに至っている。
1週間の間にトリスは第一職種を二次職種である射手(4/10)、第二職種を一次職種である盗賊見習い(3/10)にしている。
射手でスキル、集中と命中UP、盗賊見習いでスキル、忍び足を取得している。
集中は文字通り集中する事で一分野に対して威力や効果を上げる事が出来る。
命中UPは文字通り命中力を上げるスキルで、その効果は10~20%程ランダムで上がる。この命中はあらゆる事に精通しているのだが、邪な事にまで考える人は少ない。
忍び足は、足音を限りなく無音に近付ける事が出来るスキルである。また職種の特性により手癖が悪くなったり、罠を仕掛けたり見分け易くなる。盗賊になるとその効果は上昇する。
アクアは第一職種を木工師見習い(7/10)、第二職種を裁縫師見習い(4/10)に達している。
途中からマロンとアクアは裁縫師見習いを生かしてカーテンなどの作業をしている。
また、1週間の間に素材集めのために魔物を狩ったせいか、トリスとアクアはレベルが3ずつ上がっていた。
マロンも少しだけ採取に出掛け、レベルが1上がっている。
マロン26、トリス28、アクア27となっていた。
幸いなのか、この一週間珍しく称号獲得の音声を聞いていない……とマロンが意識したところで――
【称号:リフォームの匠を取得しました。】と、マロンとアクアの脳内に響く。
また、【称号:リフォームを取得しました。】と、アクアの脳内に響いた。
この二種類に於いては、木工系と裁縫系でかなり貢献した証でマロンとアクアには匠の称号が。
木工と裁縫系等以外の分野で携わっているという面からリフォームをトリスが取得したという事である。
リフォームの際の品質に影響が出るくらいで、後は器用が上がるというものであった。
匠アリで+20、匠なしで+5であった。現実の世界でも匠と呼ばれる者はかなりの上級者のため、このくらいの差が出るのは仕方がないのかもしれない。
「称号なにもなしは7日と開かないのか……」
「称号のバーゲンセールだったのだから、そっちの方が本来おかしいんだよ。」
「そうですね、普通であればゲームをやり続けて一人一つか二つでしょうから。」
マロンが嘆き、トリスがおかしいとツッコミ、アクアが正論を返した。
「このゲームの緩さからすると、一人五つくらいで上級者じゃないかな。」
トリスの考察はこのゲームのプレイヤーであれば納得の一言である。
マロンみたいにバンバン称号を取得するのは単純におかしいのである。
トリスやアクアでさえ、取得し過ぎなのだから。
「それじゃ、商品を並べますかね。」
リフォームが終わり、スクショは撮影済み。幽霊達の家具等を配置が終わったため、後は店舗内の整理であった。
蔵である倉庫は棚が並べられており、後は収納するだけである。
蔵の隣に酒蔵と醸造所も追加してあった。将来への投資である。
農家系が進み、酒を造れるゆとりが出来たら酒作りにも挑戦する心算のマロンであった。
その前にまずは製作系をマスターする予定のため、若干後回しにはなるがマロンは気にはしていない。
酒造職人はフォルテに頼めば手配してくれそうなので、米や麦があれば任せても良いとさえ思っていた。
思わず出来てしまったポーション(高品質)を奥に設置したガラスケースに入れて、宣伝用に魅せて置く。
店に入ってレジに近い棚にポーション(中品質)を30本程、ポーション(低品質)を100本程ケースに入れて高所得者用に設置する。
入口左側には飲食類を並べて置く。主にマロン牧場で採れた野菜であり、常温を除きアクアが作製した冷蔵棚に並べてある。
入口右側には工芸品類を置くようにしていた。さくらんぼくらぶに卸しているモノが多数のため、現状はこけし一択であった。
「マロン、どうせなら装備品も作って売れば?服とか防具とか。」
トリスが言う通り、現在は店舗の大きさに対して商品が少ない。
大量のこけしを出したとしてもゆとりがあるのである。(現状こけしは100個だけ店に出している。)
倉庫に大量に保管してあり、現在倉庫にはこけししか置いていない。
野菜などを保管出来るように冷蔵用の倉庫も新築してある。
敷地内は店舗兼住宅が中央に、繋がるように東側に蔵、酒蔵・醸造所、北東に冷蔵倉庫が建てられている。
北西に鍛冶が出来るように炉や鍛冶場が、南西には染織所と蔵、西には石加工所を建設していた。
本宅に作った工房は一体何に使うというのか使途不明になる程、様々な施設を建設していた。
元・幽霊屋敷はかなりの敷地を有していた。
「そういえば、私達って物理攻撃系キャラいないね。」
正確には前衛系がいないと言う事である。
本来であれば、マロンは回復系、トリス・アクアは後方系・魔法系である。
称号のせいで前衛も後衛も関係のない戦闘力となっているが、本来の役割的な前衛がいないのであった。
「盾職か戦士系がいないってのは、パーティとして考えた時に弱点だね。尤も称号のせいでオールマイティになってる気はするけど。」
トリスが言う正論はマロンには耳が痛い話である。もし称号でステータスが上がっていなければ、雑魚中の雑魚なのである。
「私、治癒士で始めたのにクラフト系マスターに向かってるとしか思えないしね。」
「それを言ったら錬成師だったのに目指す先が見えないのは、私が一番だと思います。」
錬成師故に、鉱石等から色々な物を作製出来る。それなのに未来の最終職種スタイルが見えていない。
宝飾系に進めばアクセサリーなどを製作するにはうってつけなれど、そこまでの道は長い。
宝飾師見習いに進むためには、いくつかの見習いをマスターしなければならないのであるが、それはまだ公開されていない。
錬成である程度何でも作製出来るとはいっても、限度はあるのであった。
アクアがかつて読んだ事のあるラノベ程の万能さはないのである。
「店に置く商品だけど、野菜類は牧場のものが置けるとして、やっぱりこけし以外の物もおかないとまずいよね。」
ここで少し前にトリスが言った事に戻る。
装備品などの事である。
「一応鍛冶師見習いになった事だし、何か作ってみようかな。」
現在のマロンは第一職種:巫女見習い(4/10) 第二職種:鍛冶師見習い(3/10)となっている。
「当面は職種のマスターを目指しますかね。戦闘系は私だけだから、依頼をいくつかこなすようにするよ。」
臨時のパーティを組んで依頼をするのもありかもねと、トリスは続けた。
マロンとアクアは完全に戦闘職から離れているため、見習い系をマスターする事に決めていた。
「オープンは1週間先にしよう。」
暫くイベントもない事から、マロン達は現在の職種レベル上げをメインにする事にした。
フォルテに頼み、鍛冶職人と服飾職人を招く。職人は翌日には工房に向かって貰うという事で話が付いた。
鍛冶はドワーフ、服飾は人間の職人であり、それぞれ後進の育成に携わっているため、数日の講師であれば引き受けるとの事だ。
それだけフォルテ、ラマン商会とは良い関係という事でもあった。
そして一夜明け……
「わしが鍛冶職人ドワーフのドドンガ・ドン(53)である。」
フォルテに依頼していた鍛冶職人が来訪する。フォルテが提携している鍛冶屋から、武器防具作製のいろはを教えるためにマロンの工房を訊ねてきたのであった。
「服飾職人のメイアー・ベゲッド(50)です。」
ドワーフの代名詞である顎口の髭と豪快な口調のドンの横には、マダム感を漂わせる女性が立っていた。
そしてもう一人、二人と話を取り付けてくれていたフォルテもにこやかに立っていた。
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