第79話 運営の呟き

「面白い事になったね。」


 第一回闘技大会の優勝が決まった瞬間、常盤里緒菜が呟いた。


「流石っすねー。常磐さんが面白い事になりそうって言ったら本当に面白い事になったっす。」


 山城が賞賛するように返した。イナバウアーをするように椅子の背にもたれていた。


「女神の数もまだ一週間なのにハンパないですし、ナニコレ珍百景ですよ。」


 給茶器から注いできたブラックコーヒーを啜りながら二宮四葉が山城に次いで漏らす。



「優勝したという事は、アレが景品で行くでしょ?多分……アレを取得するんじゃないかしらね。」



「本来まったりプレイしたいって言ってるログもありましたからねー。でも実際取得するとあれやったりこれやったりで面倒なんじゃないっすかね。」



「そうだけど、軌道に乗ったら好き勝手出来るでしょ。要塞化も夢じゃないだろうし、そうなったら好きにモノ作りに集中出来るし……」



「だからその要塞化がマズイんじゃないですか。常磐さん、この後戦争イベントとかも計画してますよね。」


 四葉が懸念しているのは、惑わしの森が要塞化する事で、プレイヤーがろくに何もせず終わってしまう事だった。


 あの森に生息する魔物は2~3ランク高い。


 それをさらに成長させることでダンジョンボスクラスがうじゃうじゃという事になる。


 結果多くのプレイヤーが魔物に蹂躙される未来しか見えない。


「どうでしょうね。それならそれでもう面白いとしか思えないんだけど。」


 




「やっぱりアレを選びましたね。惑わしの森がプレイヤーマロンのものになっちゃいましたよ。」



「さって今後どうなるかねー。」


「というか、俺もう帰りますよ。いくら家が近くても残業過多になっちゃいますし。」


 山城は帰宅の準備を進める。すると四葉も帰り支度を始めた。


「ちっ、帰っていちゃいちゃするんじゃないわよ。」


 常磐が厳しいツッコミを入れる。


「流石にしませんよー。明日も仕事なんですから。今何時だと思ってるんですか。」


 夜中の2時を回っている。山城達は明日は11時出勤であるため若干のゆとりはある。


 抑同棲しているくせにこの二人は未だにピュアなお付き合いしかしていない。



「あーどこかに良い人いないかなー。もう老若男女問わないからー。」


 山城と四葉のいなくなったテーブルで呟いた。


 他にも社員はいるのだが、誰もが聞き流していた。





「というか幼女キャラなのにエロ要素の回収もハンパなくね?」


 午後になってログを確認した山城が呟く。


 

「エロ担当のスタッフが可笑しいんですよ。いくら元エロゲ―製作会社だからって……マニアックすぎますって。」


 これまであまり会話に参加していない社員も山城の言葉に参加してくる。


「でも、何度も初体験を経験出来るってある意味すごくね?俺来世美人に産まれたらマロンみたいな事が出来たらって思うよ。」


 同じくあまり会話に参加していなかった社員、藻武出須雄モブデスオが会話に加わる。



「幼女が娼館の受付ってアリなんかな。まぁ成人設定だからギリギリセーフなんだけどさ。」



「しかも客が噂を広げて店は繁盛、娼婦の真似もしてるし……もうマロンがどこを目指してるのかわからんなー。」



 


 それから数日、主にマロン達の動向は運営の注目を浴びて監視されている。


 茶々を入れる事はないが、面白おかしく何をしてるんだろうなという目線だった。


 他にもトッププレイヤー達の動向も注目はされていたが、マロン達にはどうしても劣ってしまっていた。


 最初の進化もトリスであるし、地域を拠点化したのもマロンが最初。


 丁稚としてプレイヤー・NPC問わず人気の出てきた娼館の受付嬢もマロン。


 


「あ、まだ実装するつもりのなかったイベントが開始されてる。」


 一人の社員が画面を見て呟いた。


「は?」


 それに反応したのは山城だった。


「ドラゴンてまだ先だったはずじゃないですか。抑闘技場都市から外に出たマップって敵が強くて先に進めない作りになってたはずですし。」


「それで?」


「一応あるラインまで進めたら起動するようにプログラムしてたんですよ。ほら、ベルモットの領主の娘が登場するとこです。」


「あそこで第一段階のフラグが立って、その先にいるラフレシアとか出木杉とかを超えると第二のフラグが立って……」


「あー。それでドラゴンが姫さん一行の馬車を襲い始めるんだっけか。でもあれ、基本間に合わないはずだろ。」


「それが間に合っちゃったんですよ。幼女三人組が……」



「あ、遠視で見えちゃったから急いで向かっちゃったのか。まぁ全滅しても全滅しなくても良いようにはストーリーは出来てるんだから問題ないだろう。」



「まぁ姫さんに関してはそうですけどね。問題はドラゴンの方ですよ。」


 言われて席に着いた山城は画面を覗いてみる。



「は?誰この美少女?美幼女?」



「いや、だからソレがドラゴンですって。」


「は?どゆこと?」


 山城は疑問に思ったため聞き返した。山城が藻武に顔を向けると、溜息を付きながら藻武は説明する。



「マロン……またやりやがった。それにコレ、某ラノベ作家やファンに怒られませんかね?」


「まぁ性癖はそれぞれだし、ゲーム内には結構変態がいるみたいだから否定をしちゃいけないんだろうけど。」


「うーん。姫を守るイベントではあるけど、全滅するか、ある一定のダメージを与えて追い払うってはずだったんですよね。」


 藻武が長々と説明をする。かちりかちりとマウスをクリックしながら。


「それが何故かテイムした挙句人化して仲間になったと。」



「また常磐さんが来たら報告は必要だけど……絶対笑うネタだな。」


 山城は頭を掻きながら笑みを浮かべていた。



「違う意味で称号:ドラゴンキラーをゲットしてるな。」

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