第78話 緊急で起こるから緊急クエスト

 1時間かけて、道中の魔物を倒しながら街道を進んで行く。


 基本的に魔物は街道ではなく脇の叢や草原、森や林の中に潜んでいる。


 街道に出てくるのはエモノとして襲ってくる時が殆どである。



「あ、レベル20になったよ。」


「わ、私もです。」



 マロンとアクアがほぼ同時に進化可能なレベル20へと到達したようだ。


「まぁ分かっていたけどボディコニアン幼体から少女体になるだけみたい。」


「私は水の精霊から水の大精霊ですね。」


 周辺に人や魔物がいない事を確認すると、早速進化開始のため進化選択をするマロンとアクア。


 トリスの時同様に身体が光り輝き大空高く光が立ち上る。


 発光時間こそ長くはないものの、天使が舞い降りてくるのではという印象をトリスは受けた。



「さぁ、どうなった?」


「どうなりました?」


 

「どうせすぐに分かる事だから素直に言うけど……マロン、どこが変わったのかわからない。」


「アクアは……幼女から少女になったねとしか言えない。それと二人共体型は変わったようには見えないから、私と同じように二人共沈め。」


 マロンに関してはトリスの言うようにどこが変わったのかわからない。


 しかし、アクアに関しては表情が若干変化を来たしている。小学校五学年から中学一年くらいへの変化ではある。


 マロンとアクアは目線を下げ、自分の胸元付近を確認する。


「あぁ、身長が139cmから140cmに、体重が29kgから30kgになってる。」



「私は155cmから157cmで、32gから37gになりました。」



「一人だけグラムっておかしくない?」

 

 トリスはアクアを指差し断固抗議している。精霊体なのだから仕方がない。



 なお、進化した事でレベルアップ時における個人の固有ステータスアップ値は倍となっている。


 そしてスキルも何かしら覚えたりしていた。


 例えばトリスはハイエロフになった際に遠視のスキルを覚えた。これは集中する事で最大200m先を鮮明に見る事が出来る。


 これを近くを見る時に使用すれば、実は透視が可能となるのだが、裏技でもあるためトリスはまだその事実を知らない。


「それにしても2cmとか伸びたくらいじゃそんな極端には見た目変わってないかも。」


 トリスがアクアを上から下までを確認するように見て呟く。 


 現実との差異をどうすれば埋められるのか、3人共の心の叫びだった。


 身長体重以外は現実と然程かわらないのであった。




 街道を進んで行くと、三人は木に寄りかかって座っている人のようなものが目に入る。

 

 スカートを穿いているため恐らく女性である事がわかる。


「大丈夫ですか?」


 警戒もそこそこにマロンは近付いた。


「み……みず。」


 声を掛けられゆっくりと目を開けた女性は掠れた声で答える。


「残念ながらこの辺りではミミズは見かけませんね。」


「いや、マロン。そんな昭和の小学生みたいなネタは良いから。」



「水はないけどポーションならありますよ。」


 マロンはストレージから一本の瓶を取り出し、目の前の人物に差し出す。


「ちょっ、マロン……」


 見ず知らずの相手に無条件に出した事、それからそのポーションは大丈夫なやつか?という二つの懸念からトリスは止めようと手を伸ばした。


「大丈夫だよ。これは元気になるだけの奴だから。ふぁいといっぱつ的な?おろ……的なやつ。」


 媚薬効果は殆どなく、HP回復とやる気向上(卑猥な意味ではない)効果しかないからと、マロンは返答する。


 受け取った女性は藁にも縋る思いだったため、貴重な水分を摂取しようと一目散に口に付けた。


「んぐっ、んぐっんぐぅ。ぷはぁ、まずい、もう一杯!」



「そんな青い汁みたいな……」


 結局もう一本飲んで元気になった女性はすくっと立ち上がった。


「私、メディテレーニアン・ベルモットと申します。親しみを込めてメレちゃんって呼んでください。」


 なんとなく聞いた事のある言葉が聞こえたマロン達だが、それよりも女子一人でこんな所にいる事が気になっていた。


「どうして一人でこんなところに?」



「よくぞ聞いてくれました。私ソロの冒険者なのですが、手持ちの水がなくなってしまいまして。歩くのもきつくなってきたから休んでたらいつの間にか寝ちゃってました。」


 つまりはマロンが駆け付けた時には睡眠中だったのである。


 いつ魔物に襲われるかわからない状況である意味肝っ玉が据わっていた。


「魔物避けの香は焚いていたから多分大丈夫だよ。」



 ボディコニアンは一応魔物に分類されるのだが……


 プレイヤーは別なのだろうかと疑問が湧く。


「さっきので元気100倍出たので町まで持ちそうです。ありがとうございましたー。」


 会話を打ち切るのも早いメレちゃん(自称)の姿を目で追いかけた。


 一人だと大変だろうから一緒に行こうかと話を持ち掛ける暇もなく。



 


 気を取り直して街道を進んで行く。


 既に以前進んだところよりも先に進んでいた。


 街道故に周辺は整っているものの、少し離れたところは草などで隠れていて見えない。


 常設依頼に薬草類があるものの、納品すべき草はほとんど見えていなかった。


「ブラッディラフレシアとかいうのはいたけどねー。」


 闘技場都市故に住人達が血に飢えているからか、魔物まで血に飢えているのだろうか。


「あ、なんか戦ってる。」


 遠視を使って先をたまに見て警戒をしていたトリスであるが、その約200m先では何者かが戦っているのを捉えていた。


「遠くはちんまくてあまり見えない……けどなんか大きいのいるね。」


 決して敏捷値が高くないため、急いでも早くは進まない。


 仮面幼女とか三美幼女とか色々言われてはいるが、闘技大会のトップスリーは鈍足三人娘であった。


 なお、商業ギルドでの登録時、さくらんぼくらぶでの受付業務時を除き町の中では仮面を被っている三人であるが、都市から外に出た後は仮面を外している。


 つまり闘技大会トップスリーの素顔を知っている人物は数えるくらいしかいない。


 

「あ、ドラゴン……」


 周囲にはとても見せられない残骸がいくつも転がっていた。


 生き物だったもの、馬車だったもの、様々な残骸が転がっており今にも死にそうな女性が誰かを庇うように立ち剣を構えていた。


 庇われている女性は良い所のお嬢様といったところか、身なりを見ればやんごとなきお方だと言う事がわかる。


 そしてその人物の前に立つ女性騎士は恐らくは護衛の騎士か冒険者だろうけれど、恰好からは護衛の騎士と思われる。


 残骸となって転がっているのは身なりが様々なため、護衛と冒険者と両方なのだろう。


 ドラゴンがめんどくさそうに腕を振り上げ女性騎士に対して振り下ろそうとする。


「ちょっとまったー。」


 告白に割り込む男性のように、マロンは駆け寄った。


「聖絶!」


 マロンを中心に後ろに庇う女性二人からドラゴンの爪を防ぐ。



「ぎゃんっ。」


 ドラゴンの腕が結界に触れると、ドラゴンの口からとてもドラゴンとは思えない声が漏れた。


 しかもその声はなんとなく可愛い声だった。 


【緊急クエスト:エンチャント魅力ドラゴンから姫を守り切れ】


「は?ふざけんな。」


 トリスが思わず呟いた。

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