第76話 闘技場都市の常識、世界の非常識

 都市を出る時には身分証であるギルド証を見せるだけで通行が出来る。


 都市に入る時も同様である。門番の業務は大体5時くらいから始まり22時で終わる。


 24時間誰かしら詰めてはいるけれど、基本的には22時から5時の通行は不可となっている。


 マロン達はギルド証を見せて東門から闘技場都市を出た。


 街道となっており進路はつけ易い。とりえずは街道に沿って進む。


 何もない……街道の脇は草原となっており、魔物は全然見当たらなかった。


「う~ん、前の方に人の姿は見えるけど。」


 15分程歩くと急に景色が変わっていく。


 実際には徐々に木が増え草の長さが伸びてと自然豊かになってきていたのだが。


 街道はそれでもしっかり整備されているが、その周辺の景色はいかにもゲームの世界だなと思わせてきていた。


「そろそろ何か出そうだね。」


 突然の訪問者に備え、マロン達は慎重に歩を進めていった。


 マロンの地獄イヤーが何かを捉える。



「なんかくるよ。」


 マロンは街道の脇から何かが迫って来る気配を察知する。


 ガサガサッと草を掻き分ける音が聞こえると、草の隙間から現れたのは……


 ガルルルルルルルと舌を巻いてるウルフ……にしては目が血走っていた。

 

「鑑定したけどブラッディウルフだね。多分普通のウルフよりは強いよね。」


 鑑定をする事で正体を露わにしたマロンは、糸を取り出し壊れたマリオネットを発動。


 現れた5匹のブラッディウルフの動きが止まる。


「ライトボール!」


 トリスが片方の手から一つずつ、合計二るの光る玉を作り出しブラッディウルフに向かって放つ。


「水槍!」


 アクアが同じように2本の水の槍を作りだしブラッディウルフに投射する。


 トリスの攻撃を喰らったウルフは頭が爆ぜ、アクアの攻撃はウルフの頭蓋を貫いた。


「闇玉!」


 マロンが手を翳すと残ったウルフの動きがフラフラとしてくる。


 正確には身体の動きは止められているため、酩酊しているかのように頭がクラクラしているようにふらついていた。


 恐怖を植え付けられているのか、ウルフの身体は小刻みに痙攣していき……口から泡を吹いてやがて息絶えた。


 解体は面倒なので、後程ギルドでそのまま提出しようという事でとりあえずストレージに死体を収納する。


 一応自分がトドメを刺した分は自分のストレージに仕舞う事にした。

 

 こうして適当に進む事20分、その間にブラッディゴブリン13匹、ブラッディボア6匹、ブラッディウルフ10匹を討伐した。


 どうやらこの辺の魔物は血に飢えているようだった。


「1時間経ったし戻ろうか。」


 マロンの出勤時間に間に合わせるため、ここいらで戻ろうと道を反転して進み始める。


 この1時間と少しの探索でマロンがレベル2、トリスがレベル1、アクアがレベル2上がった。


 

「おかえり。無事に戻ってきてなによりだ。」


 門番の30代くらいの男性が出迎えてくれる。


「ただいま。往復1時間半くらいの冒険だからね。然程強い敵もいなかったです。」


 マロンが軽く挨拶と報告をすると、門番の男は少し首を捻っている。


「まぁ、嬢ちゃん達が大丈夫なら良いか。」



 マロン達は東門から再びベルモット城塞都市に入ると、真っ直ぐに冒険者ギルドに向かう。


 常設討伐依頼の報酬を受け取るため、マロン達はまずはテレトの所へと顔を出す。


 倒した魔物はギルドカードに登録される。仕組みはともかく中々に便利カードである。


 ゲームだからと割り切った方が良い分野である。


「マロンさんがウルフ4、ゴブリン5、ボア3ですね。トリスさんがウルフ4、ゴブリン3、ボア1ですね。アクアさんがウルフ7、ゴブリン5、ボア2ですね。」


 討伐数は細かく振り分けられるが、報酬はパーティとして受けるため、後程3等分するとの事で決まっている。


 ウルフ15、ゴブリン13、ボア6の報酬はそれぞれ7500モエ、6800モエ、3000モエである。


 このランクの魔物は一律500モエが討伐報酬となる。


 尚、素材の買い取りは別金額となる。


 ウルフは肉、牙、毛皮が、ボアは肉、牙が主な素材となる。


 黒魔術的な何かで目玉や舌や睾丸なんかを使う奇特な者もいるので、全く無意味な事はないのだが……


 ゴブリンは残念ながら使える素材がほとんどなかった。


 ゴブリンの有効活用が見つかれば、ひと財産を築けそうではあるが、現状成功した者はいない。


 食用に出来ないかと試した者は色々な種族でいたようだが、一律腹痛を起こしている。


 人間だけではなく、獣人でさえ胃や腸が受け付けないのであった。


 唯一スライムや食虫・食人植物系魔物がエサにする事はあるとの事だった。



「そういえば、皆さん単純にウルフとかゴブリンとか言ってますけど、正確にはブラッディウルフとかですよね。」




「そうですね。ここではブラッディと名の付く魔物が普通ですから、態々言わなくなっただけですよ。」


 他の都市や町ではここの魔物の事をブラッディ○○と呼んでいる。


 ゴブリンを例にすると、①ゴブリン②ゴブリン戦士・魔法使い・僧侶・射手③ゴブリンナイト・司祭④ブラッディゴブリン⑤ゴブリンジェネラル⑥ゴブリンキング⑦ゴブリン覇王とランク付けがされている。


 

 他のウルフたちも似たようなランク付けがされており、ブラッディと名の付く魔物は冒険者ランクに換算すると大体D~Cランク下位に相当する。


 本日あれだけの魔物を狩ったマロン達は既にCランク以上の実力を備えているという事に他ならないのだが、テレトはそこについては触れていない。


 つまり、ここベルモット闘技場都市は、普通にゲームを始めたプレイヤーにとってはまだまだ探索できるエリアにはないという事である。


 それ故に、この都市に所属しているNPCの冒険者は余所では中堅という事になる。




 解体をする場を覗くため、トリスとアクアは解体場へと向かう。


 マロンはさくらんぼくらぶに出勤する時間のため店舗へ向かう。


 褒賞の受け渡しは後程合流してからという事で落ち着いた。



 尚、食用という事でウルフとボアの肉はそれぞれ1kg程引き取り他は売却という事で決定している。


 また、何かに使えるかもという事でそれぞれ牙も5本ずつ引き取る事にしていた。


 


 こうしてマロン達は午前中は探索、午後は別れてマロンはお店、トリスとアクアはレベル上げやスキル上げに時間を使っていた。


 そして丁稚を第二職種にいれているアクアも2~3日に1日の割合で受付を手伝う事にした。


 闘技大会で好成績を残した幼女が二人受付をしている娼館という事で、さらにさくらんぼくらぶに足を運ぶ人達は増えていく。


 正直娼婦が足りない事態にまで陥っていた。


 また、娼館通いがしたくて魔物を討伐しまくる冒険者が増えていた。





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