第75話 初めての進化
小屋に戻ったマロンはステータスを確認する。
碧子との情事のおかげで経験と再生が2ずつ上がっている。
それと丁稚のレベルが2に上がっていた。残念ながら木工職人見習いは1のままだった。
第二職種の方が経験値は少ないし、木工の時間より丁稚をしている時間の方が長かったため、当然の結果とも言えた。
「それで、進化先なんだけど……ハイエロフしかないんだよねー。」
「じゃぁ進化しちゃいなYO!」
せっかくだからみんなの前で進化したかったらしいトリスは、レベルが20になった時に戻る事を決めたようだった。
アクアも4つレベルが上がってちょうど良いという事で時間を確認したところ、マロンの終業時間が近かったのである。
「はぁ進化しちゃうよ。良いオンナになっちゃうYO!それでは進化をぽちっとな。」
トリスの身体が光に包まれ……眩しいがな!と突っ込む間もなく光は収束していった。
「おぉ!」×2
「きらーん♪どう?イイオンナになってる?」
そこには幼女から少女になったトリスの姿があった。服はサービスなのか、背の伸びたトリスに合わせて大きくなっていた。
「まぁ案の定かな。」
美幼女なんだから美少女になるだろうと思っていたマロンの評価とは裏腹に、ステータスを見たトリスはがっかりする。
「どしたの?」
orzの形で地面に項垂れたトリスは悔しそうに声にだした。
「身長134cmから145cm 体重32kgから37kg でもスリーサイズは変わってない……」
体重は晒しているのにスリーサイズは自らの心のうちにしまっているトリス。
「まぁスレンダーな美少女エロフならイイじゃん。身長57メートル、体重550トン 巨体が唸るぞ空飛ぶぞじゃないんだし。」
「そうですよ。横に大きくなる方が嫌ですし。」
マロンとアクアの言葉が慰めになっているかはわからない。
「せめてVR空間でくらいばいんばいんになってマロンを挟んでみたかった……というかその身長体重になるなら超電磁エロフ コン・ドームVを名乗るよ。」
「願望と意味不明な言葉が駄々洩れでっせトリスさんや。」
「って、それはそうと……マロン。違うメスの匂いがするんだけど、説明してもらおうかマロン君。」
「そんな天〇道場のお父さんみたいな言い方……」
鋭いと思ったマロンは誤魔化そうとするが、そうはイカのなんとかというやつで、結局白状させられる事になる。
「碧子?あぁ、予選の二回目で射貫いた相手か。一応トッププレイヤーの一人みたいだけどね。」
トリスはお店での事は別に良いかと思う事にしていた。
マロンがモテ女から経験豊富に変わった事を知っている。つまり経験を増やせばその上の称号を得られるのでは?と思ったからである。
それと、現実的な話でもう一つの理由があるが、これはトリスはマロンには言わない。
こればかりは小串が浪漫に言うべき事であるためだからである。
「それで早速依頼を受けたよ、この絹糸と麻糸で何かローブかマントか作って欲しいって。」
マロンは製作する時は裁縫師見習いを第二職種に変更してからにしようと思っていた。
職種は変更しても、以前の経験値は引き継ぐ。そのため人によってはコロコロ変える事もある。
マロンのように職人系が多い場合、製作するモノによって職種を使いわけるのはアリなのであった。
「まぁ作るのは少し後だけどね。フォルテさんに頼んでミシンと機織り機を頼んでるから、どちらかが届いてからになるよ。」
手縫いでも良いのだが、時間が恐ろしく掛かってしまうのは現実と然程変わらない。
足踏みミシンと機織り機が存在する事は、フォルテの所を訪問していて知っていたのである。
「それと今日一日……正確には半日ちょっとで丁稚のレベルが1上がったからマスターも早そうだね。」
「マロン……多分だけど本当はそんなに早く上がらないと思うよ。」
翌日エテルノ王国ベルモット闘技場都市のラマン商会本部にマロン達は来ていた。
マロンが丁稚をするのは午後2時から夜8時の6時間である。
現在の時刻は午前9時。学校や会社が始まる時刻近辺である。
「マロンさん、一つ残念なお知らせが……」
フォルテの口からその残念なお知らせを聞く一同。
「機織り機は設計図こそあるものの、現存するものが博物館にしかないのです。」
つまりは自分で作れという事である。これは木工レベルアップの良い機会と思ったマロンは設計図で構わないと言う。
「それで構いません。もしかして技術的に難しいんですか?」
一つに現在作れる技師が少ない事と、材料となる木材が少ないという事だ。
理由は先日魔物に壊された橋を新設するために大量に必要だと言う事だった。
修復するよりは、少し離れた場所になってしまうが新たに建造した方が今後の利便性を考えても良いと判断していた。
商売の匂いを感じたマロンは木材の提供を名乗り出る。
九州には杉の木橋、徐福橋、仙人橋等が存在する。現代日本においても木製の橋はそれなりに活躍中であった。
ストレージの存在はフォルテにだけは話してある。
そのため倉庫に案内してもらい、その一部を出す事にした。
「なんと、
フォルテが驚くのも無理はない。件の木は現実でいうところの杉や檜であり……このゲーム内では木の魔物なのだから。
「ここっ、これをどこで?」
入手経路は他言無用という事でフォルテに話す。どのみち橋職人には入手先は兎も角、材質はバレるだろうにと思うマロンである。
「ウチの近所に沢山生えてます。」
正確には色々進んだ先にではあるが、嘘は言っていない。
今やあの惑わしの森はマロンの領地みたいなものなのだから。
なお、マロンは機織り機もこの木を使って作ろうと思っている。
「ちなみにどのくらい提供出来ますか?」
マロンは合計10tくらいと返答するとフォルテは一瞬後ろに倒れそうになった。
単純に100mくらいは建てられる計算である。
件の宮崎県にある杉の木橋は25tで243mである。
「では倉庫内に出して貰っても良いですか?」
商談は成立する。マロンは対価として機織り機の設計図を貰い、ベルモット闘技場都市でマロンが店を出す際には規模に関わらず全額出してくれるというのである。
それは露店ではなく店舗の話であるが、それでもまだマロンの方が支出が多い計算となる。
流石に豪邸となれば別であるが、一般的な店舗であればまだまだマロンの負担の方が大きい。
「まぁこれから色々お世話になるのでその時に力になって貰えれば良いですよ。」
そして商談を終えたマロン達は、試しに都市の外……惑わしへと出る事にする。
せっかくなので冒険者ギルドで依頼を受ける事にした。
「テンプレないかなー。」
トリスが物騒な事を口にする。
「そういうのはいらないです。普通が一番ですって。」
アクアは堅実に行きたいようで、強面のおっさんからの煽りはノーサンキューだと言う。
「午前中で終わるクエストじゃないなら、時間を見て戻るよ?」
マロンはこの後さくらんぼクラブで丁稚の仕事が待っているため、遠出や時間が掛かる依頼は受け辛い。
カランコロン♪と冒険者ギルドの扉を開くと、喧噪が耳に入って来る。
「いらっしゃい。」
マロン達の相手をするのは先日強制イベントを一緒にしたアイドル受付嬢・テレトである。
「2時間くらいで帰って来れるクエストありませんか?」
マロンが尋ねると、テレトは指を差し掲示されている依頼表から選んで持ってくる事を説明される。
「2時間で戻ってくるとなると、常設されてるゴブリン・ワイルドボア・コボルト・ウルフ・ドラゴンの討伐依頼ならありますよ。」
「ってドラゴンが常設であるんかいっ。」
トリスがツッコミを入れる。
「いや、誰も倒さないからずっと掲示されてるんですよ。そういう意味で常設です。」
それに闘技大会の1・2・3がいればランク関係なく倒せるでしょと言われるが……
一応ドラゴンの討伐依頼はCランク依頼となっている。残念ながらマロン達が受ける事は出来ない。
偶然出会って思わずヤっちゃったはありだと言う。
「常設の依頼は討伐だけではありませんが、必要な討伐証明箇所や納品をしてもらえれば依頼達成扱いとなります。」
各種ポーション作製のため、薬草類の採取も常設依頼となっている。
他にも衣類作製のための糸や毛糸、毛皮等も常設依頼から通常依頼まで幅広く存在する。
依頼表を見て一応めぼしいものがないか確認する。
「あ、これ面白そう。」
マロンが指を差したのは……
【最近下着泥棒が多く出て困ってます。犯人を捕まえてください。ベルモット婦人会。】
面白いかもしれないが、2時間の枠では収まらないだろう、トリスとアクアに却下される。
トリスが指さしたのは……
【世界の珍味、レインボースライムのゼリー1kg納品 喫茶古炉奈】
運営が日本人のせいか、ところどころ漢字を使っていた。現地民たるNPC達は違和感なく使用している。
当然どこに出没するかもわからないものに、貴重な時間をかけている場合でもないので却下される。
【妥当な所で、薬草を採取しながら周辺の魔物を狩る……というのが良いのではないでそうか。」
常設されている討伐依頼に関しては一体当たりの値段が決まっている。
ウルフやボアのように、肉や毛皮等使い道のある魔物に関してはそのまま、または解体して納品するというのが主流である。
「じゃぁ適当に散策しながら常設依頼をこなしてきます。この辺のマップも作りたいですからね。」
それだけテレトに伝えるとマロン達は冒険者ギルドを後にする。
マロン達が去ったギルド内はどっと疲れが取れたように空気が変わった。
「誰もちょっかい出さなかったね。」
「闘技大会優勝者達に誰がテンプレかますってんだよ。」
「幼女と思って甘く見ると沈められたり砕かれたりするぞ。それよりも遠くから眺めてるだけで良いんだ。」
「きっと直ぐにランクも抜かれるだろうしな。それよりもファンクラブを作って影ながら応援する方が利口ってもんだぜ。」
「はぁはぁマロンたん……」
その時冒険者ギルドにいた者達の様々な意見であった。
あと、約一名変質者が混じっていた。
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