第66話 決勝戦を終えたら告白するんだ。(フラグ)

【称号:GLを取得しました。】というアナウンスがマロンとアクアの脳内に響いたのは3位決定戦の前。


 アクアはともかく、マロンは少し解せなかった。


 その称号を取得するならもっと前、トリスとした時ではないのか?と。


 しかしよくよく考えてみれば、あの時は復讐という名目だったなと思い、納得するしかなかった。




 決勝戦前という事で控室は個室となっていた。


 既に敗退したプレイヤーは専用の控室が用意されているため、鉢合わせする事はない。


 喧嘩になる事を恐れてではなく、単純にこの後の試合を想定しての事である。


 マロンが控室で3位決定戦のモニターを見ていると部屋をノックする音が響く。


 マロンが「どうぞ。」と返事をすると、鍵は開いていたため来訪者は遠慮なく進入してくる。


「げ、トリス……」


「げってなにさ。」


 先程のアクアとの事があるので妙に後ろめたいマロン。


 腰が引けているのか僅かに後ずさる。


「なんだか、アクアてっかてかじゃない?」


 モニター越でも伝わるものなのか、それとも乙女の感か。



「そそそ、そう?」


 マロンはどもりながらも誤魔化そうとする。


「……マロン……したね?」


 マロンに近付くトリスの歩行には恐怖感を煽るものがある。

 

 ホラー映画などで、被害者に近付くゾンビや殺人鬼のような何かをトリスは醸し出していた。


「うううう、うわ、浮気じゃ……浮気じゃないよ?何で聖絶で障壁張ってるの?」


 そしてトリスはEポイント100を全て注ぎ込んでふたなり化を実行する。


 そこに聳え立つは、以前思わず襲ってしまった時よりも狂暴だった。


「マロンは私のなのに。私はマロンのなのに。」


 闇を纏ったトリスがマロンに迫る。


「ちょちょ、ちょっと……」



「違うメスの匂いがする。私が上書きしてやるんだから。」


 ゲーム内で親友であっても、アクアは違うメス扱いをされていた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 マロンの叫びは聖絶によって阻まれる。MPが1000超のトリスだからこそ可能な事だった。


「くすんっ。もうお嫁にいけない。」


 マロンはとても見せられない程の汁塗れとなっていた。


「ごめんね。ここまでする心算じゃなかったんだけど。でもマロンが悪いんだよ、私という者がありながら他の子としちゃうんだから。」


 錬金術で速攻で作った風呂の中に浸かるマロンとトリス。


 色々洗い流して身を清めた。


 マロンの経験と再生は当然1ずつ上昇。




「……ハーレムとまでは言わないけど、そういうのはダメ?」


「……私が一番なら……ギリギリ赦す。」


 実際にトレントを始めマロンは様々な種族と性交をしている。


 何を今更感が満載だが、そこに気持ちや感情が乗って来るなら別なのである。


「証が欲しいなー。」


 マロンの肩に頭を預けるトリスの呟きに、マロンは頷いた。


 風呂からあがってバスタオルでお湯を拭くと、今度は攻守交替しピンク色の情景が広がり経験と再生が1ずつ増加した。


 親友が3位決定戦を行っている最中に何をしているのか。


 決勝戦前にする行為ではない。


 これでもこの二人はこの後決勝戦を戦うのだから。


【称号:GLを取得しました。】とトリスの脳内にアナウンスが響いた。


【称号:GL上級者を取得しました。】というアナウンスがマロンの脳内に響いた。

 




 試合開始5分前という知らせを受け、マロンとトリスは闘技場へと向かう。


 向かい合った二人は……


 互いに顔を赤くして「ボンッ」となっていた。


 試合開始までのカウントダウンが耳に入ったところでキリっと向き直る。



「勝っても負けても恨みっこなしって事で!」


 トリスが舞台の上でマロンに宣誓する。


「それはお互い様。恨みっこなしだよ。」


 

「両者とも圧倒的実力で決勝戦まで昇り詰めてきました。まるで最強の矛同士の対決です。その言葉自体既に矛盾しておりますが、果たしてどちらが勝つのか!。」


「第一回武闘大会決勝戦んっ!開始っ!」



「まじかるしゅー!」


 トリスが構えた弓矢のポーズからが放たれマロンを襲う。


「魔防の舞」


 に装備された扇子が7本の矢を払う。マロンには直撃する事はなかった。


 これはラマン商会でこっそり読んだ、舞に関する書物の中に描かれていたものを、即席で覚えて見様見真似で使ってみただけである。


 しかし、思いの外きっちりと効果の程は現れていた。踊るというスキルが補正していたのかもしれないが、マロンの武器となっていた。


「対マロン用に用意した7つの属性魔法矢だったのに。」


 あっさりと防御された事に軽くショックを受けるが精神的なダメージは殆ど受けてはいない。


 切り札であっても躱されたり防がれたりする事は想定済であった。



 トリスが感心している間にマロンは次の行動に移っていた。


「こけこっこー、しゃー、ぴーひょろひょろ、がおー、がぉぉー」


 鶏、蛇、荒ぶる鷹のポーズ、熊、虎の真似をしていくマロン。


「マロン……それはやっちゃいけないやつじゃぁ……」 


 マロンの動きを見てトリスはツッコミを入れる。倫理というよりは著作権的に、コンプラ違反になるのではというツッコミである。


 既に平仮名でしょーりゅーけーんと言っていた一回戦の事もあるので、今更どうなのかという問題も浮上してくるが。


 ツッコミの合間にマロンはトリスとの間合いを詰める。


 本来鈍重なマロンにそれは不可能であるが、指に嵌めた指輪の効果で敏捷地は10上がっている。


 ミーツェと最初に会った、ラマン商会のお店で貰った石の一つで作った指輪である。


「たつ……てん……しょー!」


「だ、だから言っちゃいけないやつぅ!」 


 咄嗟にトリスはMPを防御に費やした。


 上空に巻き上げられるトリスであるが、その衝撃と風圧で体操服が捲れていた。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 成人指定で最前列付近にいるプレイヤーには見えたはずだ。


 断崖絶壁に見えるその平野に僅かに聳える小山が。


 着地した時には体操服は戻っていたが、一部観客は鼻血を出して倒れていた。


 鼻血を出して失神したプレイヤーには漏れなく【ロリコン】の称号が贈られていた。


 効果はプレイヤーによって様々だが、合計でステータスが10前後上昇している。


 そして体操服は元に戻ったが……


 紺色ブルマーが少し捲れて中に収納されている白い布地が見えていた。所謂はみパンというやつである。


 このゲームの運営は一体何を考えてこういう仕草等まで用意しているのか。


「トリス―。はみパンしてるよ。」


「……!?」


 視線を逸らすと自身の目にも白い物が見えていた。もちろんマロンは様子を見ているだけで攻撃をしてはこない。


 ヒーローや魔法少女の敵キャラのなんとやらというやつである。


 トリスは人差し指を突っ込みはみパンを直す。


【称号:紺色ブルマーにおけるはみパン直しの称号を取得しました。】というアナウンスがトリスの脳内に響いた。


 絶対コアなマニアが運営にいる、昭和4~50年代の人間が絶対いると思うトリスだった。


 尚、この瞬間盛大なくしゃみをしたスタッフがいたとか……


 ※紺色ブルマーにおけるはみパン直し……男性キャラの攻撃力と防御力は1時間半減、魅力+100 ※効果は一部GL女子にも適用される




「ねぇ、私の攻撃力とか半減したんだけど。」


「今の仕草が称号になったんだけどさー。基本男性にしか有効じゃないみたいだけど、例外で一部GL女子にも効果あるみたいよー。ってそれ今言っちゃっても良いの?」


「私とトリスの間だし良いんじゃないかな。半減しても私の魅力の効果は実質半減て程でもないし。」



「バケモノめっ」


「酷いっ、幼女に向かって。」



「えー何やら和んだ会話をされているようです。どうやらこの二人は親友のようですので仕方ないかも知れませんが、今は戦闘中ですっ!」


 審判のツッコミが入り、再び気を引き締め直すマロンとトリス。


 

「この戦いが終わったら……私告白するんだ。」


「奇遇だね。私もそれ思ってたところだよー。」


 それは既に出来レース。どちらが勝ったところで事象に差異はない。



「おおっとぉ。両選手が妙なフラグを立てたぞー!」



 トリスが弓を構え一際一点に集中し始めた。


 マロンも阿波踊りのような踊りを始めた。


「ボディコニアンはおどっている。」


 マロンは某ゲームをプレイしている。つまり自分の種族についても知っていた。


 

「一発一中!ライジングアロー!!」


 マロンはツッコミを入れている余裕はなかったが、それもあまり言ってはいけないヤツでは?と思っていた。


 だが、電光石火の一発攻撃なのだから、似た名前はそこかしこに存在している。


 これがダメなら、ファイアとかウインドカッターとかスラッシュとか魅了とかすら使えない事になる。


「反転の舞!と倍加の舞!」


「ひ~らりひひらりひひらりら~!」


 トリスの放った巨大かつ強固そうな矢はマロンを襲う……が、マロンの扇子にぶつかると力が拮抗する。


 しかしその拮抗も僅か数秒で、反転と倍加の効果によりトリスへと返っていく。


「なんっ……」


 トリスは避ける事叶わず自らの放った矢をその腹に受けた。


「こ、これも……マロンの……愛……GAKURI」



「おおっとぉ、トリス選手のHPが全損!死亡確認!勝者マロン選手ゥ!!優勝はマロン選手に決まりましたぁー!」


 観客が一斉に大歓声を上げた。馬券ならぬ人券を撒き散らしながら。


 単勝はともかく3連単を当てられた者はそうは多くないだろう。故に多くの観客から紙吹雪が舞った。


 

「ふぅ。昨日無理して作ったかいがあった。」


 対トリス用に新しい扇子を作っていた。魔法を反転するための扇子を。


 ラマン商会様様であった。ポーションと引き換えに購入した、魔法反転効果のあるマカラカンという鉱石から作り出した宝石を付与した扇子である。

 

 もちろん物理反転効果のあるテトラカンという鉱石も購入しており扇子に組み込まれている。


 しかし、効果は任意で1日1回、リキャストタイム12時間という代物なので多用は出来ないのである。


 完全にこの大会用に作製された、マロンの浪漫アイテムであった。


 尤もマロンの本名は浪漫というオチもあったりするがどうでもいい話である。


 何はともあれ、マロンの右手には魔法反射、左手には物理反射の扇子を持っていたのだ。


 両方とも反射を持つあの瞬間は一時的に無敵状態だった。


 そして倍加の踊りを踊った事で、トリスの称号により半減した攻撃力はなかった事になり元の等倍の攻撃力に戻っていた。


 尚、決勝戦が始まった時点でのマロンの魅力値は1682である。


 これを物理であれば筋力値56から換算される攻撃力に上乗せ、魔法であれば魔力20から換算される魔法攻撃力に上乗せされる。


 今回の場合、トリスが放った魔力160からの魔法攻撃力にスキル特有の倍率による追加効果でかなりの攻撃力となっていた。


 それをマロンの魅力値1682と微々たる魔力20の攻撃力が倍加(実際は元に戻っただけなので等倍)して乗っかり、トリスに還っていった。


 喰らっただけで即死なのは当然の結果であった。


 それをマロンの愛と受け取るトリスの思考はさておき、レーザーキャノンのようになった反転攻撃を見てプレイヤー達は冷や汗を掻く。


 対戦しなくてよかった……と。


 審判がしゃがむと、マロンの右腕を持ち上げ優勝者を讃えた。



【称号:第一回闘技大会優勝者を取得しました。】


 なお、トリスには準優勝者、以下自分の順位に合わせた称号が贈られていた。

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