第65話 準決勝第二試合 ラブコールとだいたい当たる

「それでは準決勝第二試合、水の精霊アクア選手は予選はトリス選手と同じような見えない何かで圧倒。類稀な水の魔法で他者を圧倒して来ました!」


「一方、ボディコニアンのマロン選手は予選は以下同文。並居る強豪プレイヤーを不思議な力と腕力とスキルで他者を圧倒。放送コードは色々とぎりぎりだぁ!」


 旧スク水のアクアと、ヴィクトリア朝なメイド服のマロン。先に着ていたメイド服とは別のものだった。


 そしてその中には紐みたいなボディコニアンスーツが着用されている。


 もちろんスカート丈は長い。所謂見世物的なミニスカートではない。


 マロンが昨晩せっせと夜なべをしてこっそり製作をしていたのだ。


「せっかくなので出せるものを全て出します。」



「そして私が勝ったら……もう一つ上のトモダチになってください。」


 アクアの言うもう一つ上というのがマロンには理解出来なかったが、恐らくはマブダチとか親友とかの類だろうと解釈する。


「今でも充分仲の良い友達だとは思うけど、それでアクアの闘志が湧くなら良いよ。」


 マロンは大会を進めていくに当たり、若干戦いに目覚めつつあった。



「それではァ、準決勝第二試合ィ開始だァ!」


 妙な熱血テンションの審判の合図により試合は開始される。



 アクアはキョウチクトウの鞭を取り出し、マロンは狂牛の鞭を取り出し右手に装備する。

 

 マロンの持つ鞭であるが、昨日こっそりとラマン商会で買い物をしていたのである。


 操鞭術を使うならそれなりのモノを作ろうと、鞭に適した素材を探していたのである。


 狂牛という魔物の尻尾を錬金術と合わせて合成作成する事で狂牛の鞭(装備中バーサク(小)状態、魅力+30)が出来上がった。


 尚、ある意味常に狂ってるのでマロンにバーサク効果はほぼ無意味であった。それで良いのか特殊追加効果という結果である。


 ほぼ……であるため少しは影響が出ている。その証拠に少し好戦的に変貌している。


「ほらほらぁ、鞭で打ちあいしようよぉ。」


 二人の鞭がぶつかり合う。何度も何度も決定打に欠けている攻防は女王様がただ鞭を打ち合っているだけの図になっていた。


「水陣」


 水の壁を作る事でアクアはマロンの狙いを逸らす。


「あんっ」


 ちょっと艶やかな声を漏らしたのはマロン。


 一瞬の隙を突かれ、アクアの鞭がマロンを締め付ける。


 鞭打ではなく巻き付けであった。マロンの身体は両腕を巻き込むように締め付けられている。


 メイド服越での緊縛……観客席から「おおおおおおおおおお!」という野太い声が響いていた。


「そ、そのまま負けを認めて……」


 キョウチクトウの鞭は言わずと知れた毒の鞭。このままでも毒は発生しているが、燃やす事で加速度的に毒は濃くなっていく。


 しかしマロンはケロっとした顔でアクアを見ていた。


「それが毒は無効ではないけど、あまり効かないんだよね。」


 それもそのはず。マロンは色々な物を作成していた。媚薬効果のあるポーションに始まり様々なものを。


 中には失敗作だって当然作成されているわけで、それらを身に浴びていれば耐性も付くというものである。


 マロンにはそうした効果から、現在毒耐性中が取得済なのであった。


「んんっ」


 しかし鞭で締め付けられるのが思いの外気持ちいいのか、マロンは合間に嬌声を漏らしていた。


 身体は幼女でも中身は20歳の大人。感じるものは感じるのである。


 成人設定していなければ、ダメージと毒を受けるだけだったはずである。



 これ以上は無駄と悟ったのかアクアは拘束を解いた。


 しかし少しはダメージを与えただろうと思われた攻撃であったが、マロンのHPは1すら減っていなかった。


 カラクリは勿論存在する。マロンは両手に指輪をいくつか装備しているた、それが答え。


 その中の一つ、変換の指輪……1日に1回だけダメージを魅力に変換する。


 ある意味でチートであるその指輪、一時的にではあるがマロンの魅力値が本来受けるダメージ分だけ上昇する。


 もう使えないと分かっているためマロンは指輪を外しストレージに仕舞うと新しい別の指輪を装着した。





 そしてさらにマロンはストレージからナイフをいくつか取り出すと、両手のそれぞれの指の間にナイフの柄を挟む。


 一方アクアも自分で錬成していたのか、小盾を装備し膝から下にはレッグアーマーのようなものを装備していた。


 スク水とのバランスはよろしくはないが、守るという観点においては悪くはない。


 マロンは右手を左手を順に振り、合計8本のナイフをアクアに向かって投げつけた。


 アクアは装備した小盾でそれらを防ぐ……が、並のナイフであればそれで充分であるがこのナイフはマロン産である。


 アクアの錬成した盾も現在作成出来るものとしては充分秀逸なものではあるが、マロン産のナイフがただのナイフであるはずがない。


「暗闇、混乱、眠気、呪い、錆、劣化、摩耗、鈍重の効果がそれぞれ付いてるよ。」


 友人に対しても遠慮がないマロン、それはそれこれはこれという考えであった。


 ただ、憎しみや寿命が減るものや、死に直結するものは交えていない。


 盾に阻まれたナイフであるが、盾に刺さるとナイフは


 軽い煙幕に包まれアクアはマロンの姿を見失う。


 水の《《精霊》だからか、眠気に対しては抵抗が可能だった。


 しかしそれ以外に関しては効果を発揮する。


(見えない、感じない。うぅ、こ、怖いよう。また一人ぼっちだよぅ。)


 暗闇により視界を奪われ、混乱により不安を煽られ、呪いによって抵抗力を剥ぎ取られる。


 そして見えないからこそ自身のが理解出来ない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 観客席から大歓声があがっている。しかしアクアにはそれが怨嗟の声に感じ取れて余計恐怖していく。


 両耳を塞ぎ首を左右に振り払拭しようとするが、無駄に終わる。


 するとそこに天使の陽が差し込んでくる。


 恐る恐る見上げると其処には漆黒の12枚の羽を背負った幼女が現れた。※あくまでアクアの視点です。実際に羽など生えてません。


「アクア……私に身を委ねなさい。そして負けを認めなさい。」


 この声は紛れもなくマロンの声である。マロンはアクアの頬を撫でながら敗北宣言を促していた。


 外野である観客には、ナイフの効果により全裸になり膝立ち状態の幼女アクアの頬を優しく撫でるマロンの姿が映っている。


 尚、この時マロンはメイド服を脱ぎ、本来のボディコニアンスーツとなっている。


 そのせいか観客達には物凄くやらしく映っている。成人指定していないプレイヤーにはモザイクが掛かっておりアクアの顔くらいしか見えない。


「ま、負けを認めます。ま、参りました。私がマロンさんに勝とうだなんて烏滸がましい事考えて申し訳ありませんでした。私の全てはマロンさんのものです。」


(そこまで言わせる心算はなかったんだけど、まぁいいか。大会とはいえ親友を殴る蹴るって出来ないし。)


 違う意味で死体蹴り以上に酷い攻撃ではあるのだが、マロンは気付いていない。


「おーっとぉ、アクア選手が敗北宣言!勝者はァマロン選手ゥ!!」


 審判はきちんと仕事をしていた。少しだけ前屈みになりながら。 


 担架がやってきてアクアを寝かせ、布を一枚被せた。


 マロンは媚薬効果が最大限に抜かれたポーションをアクアに被せた。


 暗闇等のバッドステータスを治すためだった。


 状態異常を治すポーションはまだまだ完成はしていないが、緩和はする事を期待しての行為。


 ポーションの効果かは不明だが、アクアの状態異常は快方に向かっていくようで表情は穏やかになっていた。


 アクアが見上げる先には先程の堕天使……マロンが映る。 


 そこは既に医務室の中、医師(NPC)の診断を終え今はゆっくりと寝かされている状態だった。 



「ごめんね。結構極悪な事しちゃったよね。」


 ふるふると首を横に振るがアクアの表情は、マロンにはどこか寂しそうに映っていた。

 

 しかし庇護欲をもさらに掻き立てる表情に、マロンは思わずきゅんっとしてしまう。


 アクアに気取られないよう、僅かに首を左右に振って邪念を捨て去ろうとするが、それが無意味な事も思い知る。


 ステータスのバーサク(小)はまだ切れていなかったのだ。


(トリスに悪い。トリスに申し訳ない。いやいや、小串に合わせる顔が……)


 葛藤と戦っているが、バーサク(小)で若干イケイケになっている事、薄めているとはいえポーション効果を発揮しているアクアのアラレモナイ姿。


 これで何とも感じない方がおかしいとさえマロンは感じてしまう。


 アクアの姿は布一枚被せられているだけで全裸。マロンやトリス同様布は真っ平。膨らみはほぼなかった。


 そして今は試合のため実体化している。精霊状態だったらまた違った結果だったかも知れない。


 さらに庇護欲をそそる薄ら涙で不安げな表情。これで据え膳喰わぬはなんとやらである。


「ア、アクア……」


 ごくりと唾を飲み込みマロンの呼吸は早くなる。


「試合前に言ってたよね。アクアが勝ったらもう一つ上のトモダチになりたいって……」


 アクアは顔を赤らめながら小さく頷く。


「私が勝った時の賭けは何も言ってなかったけど……」


 マロンは聖絶を使い他者の部屋への侵入を完全に遮断した。


 そしてマロンの経験は1増加し、アクアにも経験1という項目が追加された。


 さらに能力を話して、再生も1追加された。


【称号:親友殺しが付与されました。】


 殺すという意味の殺しではなく、たらし込むという意味の殺しである。もちろん二重の意味で親友殺しが追加されたのだろう。


 本来親友の前に友人殺しという称号もあるのだが、トリスに復讐えっちした時に条件は満たしていたようで1階級飛ばしで取得したようである。


 解釈の違いこそあれ、マロンの称号は増えていく。


 ちなみにアクアには【称号:ちょろいん】が増えていた。


 マロンは二人の女性と関係を持った事になる。これが意味する事をいつかは理解する時が来るのか。


 着実に運営の18禁要素を総なめに近い事をしそうなマロンだった。








 準決勝二試合が終わった後、》を挟んで3位決定戦が行われた。



「水牢!」


 

「ごぼぼぼぼっぼぼぼおおっぼぼっぼ。」


 相性の問題もあるが、幻炎とはいえ獣人より精霊の魔法の方が色々とランクが高かった。


 3位はアクアがもぎ取り、これまでマロン達同様無名だった狐人のパンサーぴんくが4位となった。


 3位をはっきりする理由は二つ存在する。


 一つは景品や賞品の明確化。5位以降は敗退した試合、予選を含めたポイントによる。

 

 触れてはいないが、予選時に一人倒すごとに1キルポイントを付与されている。


 範囲攻撃で多くの敵を倒した者が有利とはなってしまうが、それもプレイヤーの実力なのだから卑怯とかは言わせなかった。


 そしてもう一つの理由。殆どのプレイヤーはこちらがメインではないだろうか。


 どうせ優勝なんて無理だからと諦めて参加したプレイヤーは多い。


 観戦してるだけでは面白みが足りないというものである。


 そこで運営が考えたのは……


 3連単5頭ボックスならだいたい当たるゥを参考に、決勝トーナメントを賭けの対象としていた。


 決勝トーナメントの組み合わせ抽選の後1時間後から第一試合開始の1時間前まで馬券ならぬ人券が発券されていた。


 尚、単勝オッズは人気順に……


 ⑬伊集院光陰 1.5倍  ⑨備長たん 2.5倍 ⑤もるぼるの甘いイキ 3.1倍 ③もこもこくもこ 3.7倍


 ⑮みこぬこなーす 4.3倍 ⑭マロン 5.4倍 ④りにあ 5.8倍 ②トリス 6.2倍 


 ⑪アクア 6.9倍 ⑩キョウカ 7.1倍 ①エルトシャン 7.7倍 ⑫飲酒王子 8.3倍


 ⑦パンサーぴんく 8.6倍 ⑯8931 9.3倍  ⑧スーベニール 9.6倍 ⑥引っ越しおぢさん 10.5倍


 予選の結果を踏まえて尚、伊集院光陰は1番人気だったのである。


 また当然3連単の人気も⑬ー⑨ー⑤が一番安い配当となっているのだが、単勝1番人気2番人気が1回戦でコケたため配当的に美味しくなっていたのである。


 ただし、競馬と違いこの掛けは単勝と3連単しか販売されていない。


 必ずしも単勝の人気=3連単の人気とはならないが、概ね人気順に倍率は低い。


 当然優勝がマロンになるかトリスになるかでも変わる。どのみち儲けるプレイヤーが変わるだけで誰かが笑い誰かが泣くだけなのである。


 尚、最高掛け金額は10000モエまでと決められていた。金融破壊を恐れての事である。


 もっとも残った3連単の中ではマロンートリスーアクアとなる方が配当は安いのだが、それでも100万馬券である。


 単勝で6番人気8番人気9番人気なのだから、それは当然でもあった。


 競馬などで実際に用いられている払い戻し率や支持率というものは考慮していない。


 なぜなら……配当金を支払うのは運営で、それは全て只のデータだからである。


 ちなみにマロンは単勝⑭、3連単⑭ー②ー⑪にそれぞれ10000モエを賭けている。


 トリスも自分を軸に単勝②、3連単②ー⑭ー⑪にそれぞれ10000モエを賭けている。


 そして何故かアクアは単勝こそ自分の⑪に賭けているものの、3連単はマロンと同じ⑭ー②ー⑪にそれぞれ10000モエ賭けていた。


 何故3人にこれだけの資金があるかといえば、ラマン商会のイベントにより謝礼として金銭を受け取っていたからである。


 クエストイベントであるため強制的に受け取る形となっていたのである。

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