第62話 象印アッパーカット(審判命名)

「なんだか【毒女】と【幼女王様】という称号を得ました。」


 ハイタッチの後、アクアがぼそっと漏らす。


 毒女は毒攻撃の効果がUPするというもの。


 効き易さや効果時間の増加、毒そのものの効果向上といったものだ。


 つまり、先程の攻撃がもう少しえげつなくなるというもの。


 幼女王様(知力+5、魅力+100 スキル:操鞭術(小))


 操鞭術:戦闘スキルとしての鞭使いや鞭捌きとは別。女王様としての鞭スキルである。



 確実に夜のお店で役に立つ項目でしかなかった。


 さくらんぼくらぶで働くのもありかもしれない。





 第7試合、マロン対伊集院光陰


 マロンと伊集院光陰は闘技場の中心で向かい合っている。


 優勝候補筆頭、伊集院光陰を見るためにS席を買ったプレイヤーは多い。大半は女性プレイヤーであるが。

 

 一方、予選を直接見た者、動画を見た者はマロン達幼女三姉妹(勝手に他プレイヤーが呼んでいる。)を見るためにS席を購入したプレイヤーも多い。


 総じてロリコン予備軍の称号が与えられていた。


 もちろんS席購入しただけでは付与されない。


 全財産注ぎ込んででも最前席で拝んでやるぞー!と意気込んで購入した人にだが。


 体操服にブルマーなトリス、スク水なアクア、衣装に関してのヤジは拾ってはいないがそれなりに叫ばれていた。


 そこにきてマロンの衣装……


 ボディコニアンスーツは……紐みたいなとは言わないまでも、かなり過激なスーツなのである。


 それに加えて現在メイド服は着用していない。マント等も着用していない。


 マロン達3人は仮面をつけている。


 どう見ても西日暮里や鶯谷で女王様をしているとしか思えないのである。


 2000年代中頃、そういう見た目で「きたおか~つみこだよ~」というネタをやっていた女性芸人がいたのだが、そのまま幼女にしたと思って貰えれば想像に易い。



 伊集院光陰は軽く会釈をすると、きらりんっと歯を光らせた。



「お嬢さん、先日は失礼しました。」


「いえ。」


 光陰は先日マロンの両脇を抱えた事を謝罪した。


 良かれと思っての行動ではあるが、肌が多く露出したマロンの衣装故、色々直に触れてしまっているのは事実。


 先端の突起にも若干触れてしまっていた。成人設定のため弾かれる事はなかったが、みようによっては痴漢である。



「それで……お詫びというわけではないけれど、俺(達)のところ(クラン予定)に来ないか?色々充実していると自負している。不便は掛けないと思う。」



「おぉっとぉ、試合開始前に伊集院選手がマロン選手を高々にナンパしているぅ!」


 この試合の審判がマイク越に高々に会場中に広がる声で叫んだ。


「お断りします。」


 マロンはあっさりと拒否の意を示した。


「あぁっとぉ!マロン選手、あっさり拒否したぁ!速攻振られた伊集院選手ゥ、年齢を考えろーっ!」


 審判も中々に辛辣だった。伊集院ファンから刺されるかもしれない。夜道には暫く気を付けた方が良いだろう。


「そう言わずに、どうだろう。迷惑を掛けたお詫びもあるし、俺(達)のところ(クラン予定)は多くの人が集まっているし、毎日が楽しいと思うんだけど。」


 メンバーが充実していれば素材も多く手に入る。レベルも上がる、未知の場所にもどのプレイヤーよりも早く行く事が出来る。


 伊集院光陰は存外にクランメンバーとして勧誘しているだけに過ぎなかったのだが、問題は言い方と受け取る側の解釈の仕方である。




 光陰の話を直訳すると、「俺の嫁になれ、多くの嫁がいるけど、毎日みんな仲良くやっている。君もハーレムの一員にならないか?」


 マロンにはそう直訳されていたのだから。


「お断りします。」




「じゃぁ、この試合で俺が勝ったら前向きに考えて欲しい。」


「お断りします。」


 頑なにお断りをするマロンに対し、聞く耳を持たない伊集院光陰。



「何度も攻め続ける伊集院選手に対し、マロン選手は「お断り」一辺倒だぁぁぁっぁぁぁ。脈がないのに攻め続けるのは現代ではスト……しつこいと嫌われるぞぉぉぉぉ。」



 試合前の舌戦をこれ以上引き延ばすわけにもいかず、審判は試合を開始するため合図で促した。


「伊集院選手対マロン選手~!試合~開始~ッ!」


 審判が開始の合図をするとマロンは決して高くはない敏捷ではあるが、光陰の懐に潜り込んだ。


 そして拳を握って腕に力を籠める。


 光陰はレディファーストの精神なのか、最初の一撃はマロンに譲ろうと軽く身構えただけだった。



「しょーりゅーけーん。」


 マロンが握った右拳を1UPした配管工のように高々と上げてジャンプすると……


「ぎゃがぁっ!あああああぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁんぎゃーーーーーーース!」


 男性の急所を直撃背がサターンしていた。


 会場中から「あああああああああああああ」という叫び声と、男性達がドン引きと共に疑似痛、幻痛が襲った。


 女性ファン達の開いた口は塞がらず、男性達はほとんどの人が自らの股間を痛そうに抑えていた。


「おぉっとぉ。マロン選手、伊集院光陰選手の大事なところと、勧誘の夢を打ち破る見事な象印アッパーカットだぁ!これは男性は堪ったものじゃないぃぃぃぃっ!!」



【称号:睾丸潰しを取得しました】


 一体この称号が何に役立つのか、オークの睾丸が精力剤になるこの世界において、睾丸の需要はあるものの、潰れてしまっていては意味がない。

 運営の意図は誰にもわからない。もしかするとSかMかはさておき、そっちの世界にどっぷりと浸かっている社員がいるのかも知れない。


【称号:幼女王様を取得しました】


※睾丸潰し:筋力+5、魅力+50

 



 身体が上空に巻き上げられ後方に一回転すると、光陰が股間を抑えたまま床にうつ伏せになって倒れる。


 伊集院光陰がピクピクと全身を震わせながら床に接吻をしていると、HPが全損する。


 まるで床にへこへこしているように見える悶絶姿であった。


 本戦に限り、死体が消えるという事はないため、敗者は医務室に連れていかれる等のアクションが起こる。


 担架に乗せられ運ばれていくその姿は……「とても見せられないよ」の看板で顔を覆われていた。



「マロン選手のぉ、勝利です!。」


 こうしてマロンの一回戦が終了する。


 そしてそのまま控室のモニターで次の試合を観戦する事になるのだが、二回戦の相手は組み合わせ抽選の時に見た「みこぬこなーす」に決まった。


 彼女の戦い方は、手に持つその巨大な注射器をぶっ刺す、ちょっとサイコな感じを受けたマロンである。

 

 注射器なんてニューワールドの世界の武器にあったっけ?と思うマロンだった。




「これにて一回戦を終了します。15分の休憩時間を挟み、引き続き二回戦をお楽しみください!」

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