第60話 嫉妬の女神様はみている。

「あ、何か漏れてる……」


 マロン達以外には見えていないが、エルトシャンの股間周りには水溜まりが出来ていた。


「今のどこにお漏らし要素が?」


 トリスの疑問は解消する事もなく、台に試合の二人が舞台へと向かって行く。


「仕方ないか……」


 トリスは背中に背負ってエルトシャンを運び出す。


 時間にゆとりのあるマロン達も着いて行った。




「目覚めた時に気持ち悪いだろうから仕方なくよ仕方なく。」


 トリスは言い訳をしながら、医務室のベッドに寝かせたエルトシャンのおぱんつを脱がせた。


 背負った時に少し付着してしまったのはアクアが水魔法で綺麗にしていた。


 水魔法の初期にクリーンの魔法がある。ちょっとした汚れであれば除去する事が可能である。


 ではなぜクリーンでエルトシャンのお漏らし跡を綺麗にしないのか。


 そこを失念していた一同なだけである。


 トリスからすれば、いきなり言いがかりをつけられ、試合が終われば急に慕われこういう事をする義理も無ければ、必要もないのだが身体が動いてしまったというのが素直な所だった。


 あの場に放置すれば、他のプレイヤーの目に晒される。そうすると後のプレイに影響が出てしまうかもしれない。


 トリスがそう考えていたのかはさておき。


 アクア印の水を桶に溜め、マロン印の手ぬぐいを浸して絞ると……


「ひぅっ」


 エルトシャンは気を失ってははいるが、身体の反応には敏感だった。

 

「汎用性のおぱんつならあるよ。魅了とかついてないやつ。」


 アーリン達にプレゼントしようと試作したおぱんつだった。


 試作時間も短いので大した出来ではない。下着を作るための練習用なのだから防御(見える見えないの意味)も大したことはない。


 寧ろ少女体であるエルトシャンには小さいはずである。


 トリスはサクサクっと穿かせると、古い方のは別の桶に水を張って徐にぶっこんだ。



「はっ」


 目が覚めたエルトシャンは股間の違和感に気付きながらも、目の前の三人に視線を合わせる。


「み、見られた……」


 ミニスカートのお股の部分を両手で押さえ恥ずかしそうに顔を赤めるエルトシャン。


 それは試合中までとは違うエルトシャンの態度。マロン達はアレがロールプレイだというのはそれとなく気付いている。


 今の口調が素なのであろうことは想像出来た。


「おおねおえのねおえのえねおねおねおねおねおねおえのえのえのえ。」


「煩い。」


「ごめんなささあさささいさい。」


 あまりのテンパり振りにエルトシャンはあわあわしていた。


 両の拳を握って、エルトシャンはトリスの目を真っ直ぐに見据えて力説を始める。


「お姉さまのを子宮と脳天で受け取りました。もうお姉さま以外の人とは考えられません。責任とってください。」


 何言ってるのこの娘は?という顔でエルトシャンを見るトリス。マロンとアクアは関わらないように一歩下がった。


「だって、これまでにステータスになかった経験?ってのが現れて、数値が1ってなってるんです。これはお姉さまが私の処女膜をぶち破ったからですよね。」


「あんな大勢の前でだなんて今思い返すと恥ずかしいですけど、一生の想い出です。」



「はぁっ。」と溜息をついてトリスは肩を落とした。


 ちらっとマロンを見てトリスは重い口を開く。


「私にはマロンがいるから他を当たって。」


 何気に爆弾発言ではあるのだが、トリスは真意を理解しているだろうか。


 少しだけマロンの表情に赤みが差す。


「……二番でも三番でも良いです。お姉さまと呼ばせてください。」


 顎の位置で両手を組んでトリスに懇願するエルトシャン。


 これは何を言っても何をしても引き下がらないなと諦めの念を抱くトリス。


「……マロンやアクアを始め私の周囲に迷惑を掛けないなら……」


 トリスが降りる事になった。試合にはダントツで勝って勝負に負けたというやつだろうか。



【称号:義妹を入手しました。】と【称号:飼育係を入手しました。】というアナウンスがトリスの脳内に響いた。


【称号:お姉さま大好き。を入手しました。】と【称号:ペット】というアナウンスがエルトシャンの脳内に響いた。


「運営が、AIが認めてます。称号のアナウンスがきました!私、お姉さまのいもうとでぺっとなんですね。」


 エルトシャンの尻に尻尾が生えて見えてきそうな一時であった。

 媚びる彼女にあざとさを感じながらも、もう面倒だから受け入れるわという態度で流すトリス。



 その後強制的にフレンド登録をする羽目になったトリス、そしてついでにマロンとアクア。

 友達100人できるかな?とゲームを始めたマロンには、こういう危ない友達でも数を集める上では妥協の範囲内なのである。


 アクアは言わずもがなである。



「過度な接触は禁止。普通にゲームをプレイする事。マロンやアクア達のプレイを害さない事。これが守れなければ


「接触も過度でなければ良いんですよね。マロンお姉さま達の邪魔ももちろんしません。お姉さまのお姉さまもお姉さまですから。」


 友達のトモダチは友達みたいな言い方をするエルトシャンの理屈はわからないが、普通にフレンドとしてプレイする分にはまぁいいかと思わなくはないトリスだった。


 それに、森には来れないだろうし、この闘技場都市でしか付き合いもないだろうとも踏んでいた。


 

「一緒にプレイする上で蟠りを持ちたくはないからねー。




「それではー第6試合、アクア選手対飲酒王子選手の入場です!」



 エルトシャンとのやりとりをしている間にアクアの出番が回ってくる。


 随分と早い間の3試合というわけではなく、エルトシャンとのやり取りはのらりくらりと約1時間半もあったのである。


 先程からうっすらと外の歓声は医務室にも入ってきてはいた。


 第二試合は③番アルケニーのもこもこくもこが、第三試合は⑤番人間の男性もるぼるの甘いイキが勝利。


 第四試合は⑤番狐人のパンサーぴんくが、第五試合は⑩番ノームと人魚のハーフであるキョウカが勝利した。



「んふふ~おねぇさまぁ~」


 お花畑の女の子のようなルンルンステップでトリスに近付いていく。

 そしてそのままトリスの左腕にダイレクトアタックをかませた。


「えぇえいっ離れろーーー!」

 

 トリスの左腕に絡みつくように抱き着き、ない胸を押し当てているエルトシャンだった。

 トリスは嫌がって身体をくねくねと捩るが、一度絡みついた蛇が剥がれないようにエルトシャンはがっつりホールドしていた。


「トリスは私のだよっ。」


 ぶすっ


 マロンは両手を組んで、子供がやる浣腸をエルトシャンに喰らわせた。


「はうんっ。」



【嫉妬の女神が興味深そうにこちらを見ている。】


 マロンの脳内に新たなアナウンスが響いた。

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