第59話 本戦始まる。トリスは鬼畜。
マロン達の情事はさておき、ゆうべはお楽しみでしたねのフォルテ達ラマン商会の人達。
漏れた声に悶々としていた娘二人と使用人達。
これを期に使用人同士仲が良くなったとか変わらなかったとか。
そしてそんなラマン商会の人間関係もさておき、朝食を昨日のメンバーで摂る面々。
まだラマン商会の人達は席についていない。徐々に現れて席に着いて行く。
アーリンはマロンの隣、プリュネはアクアの隣に座る。
「なんでそこにいるのですか?」
テレトは何故かマロンの机の下で正座をしていた。
机にはテーブルクロスが敷かれているため、マロンの正面側であるラマン商会からは見られる事はない。
自分の側は腿に掛からない程度の位置までしかないため、マロンには丸見えであるし、隣にいるトリスにはバレバレである。
「マロン様……ハッハッハ。」
発情した犬のような素振りのテレト。
昨日某誘拐犯をヤった時とは別人のようである。
「何があったの、マロン。」
「う~ん、後で。」
それだけでとりあえずは察するトリス。
「ハウス!娘(アーリンやプリュネ)の前で変態性は見せない事。」
仕方なく四つん這いでテーブル下から這い出るテレト。
落とし物をしてしまったと誤魔化すが、誰もその言葉を信用する事はない。
少なくとも身近にいるトリスとアクアは信じられない。
幸いなのは反対側に面するフォルテ達にさえバレなければ、どうという事はないのだろう。
アーリン達は全く何の事か分かっていないので除外する。
そして朝食そのものは何の問題もなく摂った。
夜とは違い、マロン達が想像する普通に裕福な家庭の朝食といった感じであった。
貴族や大商人って良いなぁ、そう感じる一時であった。
「それでは私達はこれで失礼します。明日、またお伺いしますね。」
闘技大会のため、マロン達は大闘技場へと向かった。
マロンはさくらんぼくらぶでの事があるので、明日向かう必要がある。
そのための言葉の約束だった。
正確には午前中に商業ギルドで登録、それから特許申請を行う。
そのための約束である。
ラマン商会は大きな商会である。申請が済むまで売り出したりはしないだろう。
マロンは信用してラマン商会に既に商品を卸している。
ストレージの事には触れられる事はなかった。
マロン達が異国からの来訪者である事は伝えてある。
そして自らを含め、この世界には様々なスキルが存在し取得している事も知っている。
つまりはマロンのストレージも、アイテムボックスと思われているのであった。
アイテムボックスのスキルやマジックバックという魔道具もまた、商人にとっては重要なスキルや魔道具である。
観客席は既に超満員となっており、大きな歓声で湧き上がっている。
観客席はそれぞれS席を最高値に、A~C席まで存在する。
C席は安い分、舞台からは一番遠くなる。反対にS席はヤジが選手に届くくらい近い最前列となる。
そのためC席の倍以上の値段がするS席であるが、販売直後に完売していた。
座席はプレイヤーだけでなくNPCも購入する事が出来る。いわゆる必要モブである。
姫騎士であり第七王女でもあるテレトもゲストとして貴賓席で観戦するのだが、マロン達はその事実を知らない。
他にも王(55)と王妃(50)、皇太子たる第一王子(35)、第三王子(28)、第三王女(25)も貴賓席で観戦する。
未婚である第三王女には何か物語があるのかも知れないが、現状では伏せられている。今後何かあるのかも知れない。
王と王妃の間には3人の王子と3人の王女が存在する。
王と第二夫人の間には1人の息子と2人の娘、王と第三夫人の間にも同じように1人の息子と2人の娘が存在した。
王位継承は正妃側からの順となるため、第何王子とかはその限りではない。
そして性別の格差も存在しなかった。生まれた順に優先順位はあるものの
国の名目上、産まれた順に第何王子や王女と付けられてはいるため第二夫人の方が数字が若い事も当然存在する。
第一第三第五王子、第一第三第七王女は正妃の子である。
第二王子、第四第八王女は第二夫人の子であり、第四王子と第二第六王女は第三夫人の子である。
王には【すけこまし】と【性豪】の称号があるのは身内だけの内緒の話である。
これだけ多くの息子・娘を持つ王であるが、現状ニューワールドの物語に影響がある人物は存在しない。
その理由としては、王家転覆を狙う貴族は存在しないし、自分が次代の王になろうと思う子供達もいないためである。
強いて挙げれば、この闘技大会に呼ばれた王と王妃くらいのものだろう。
覚えておく程度の認識でいえば、第一王子と第三王子、第三王女と第七王女くらいのものである。
しかし既にその第七王女であるテレトとは面識があるマロン達であった。
テレトは冒険者になる時に王位は放棄しているため、継承に関しては関わらないものの、こうした王族が絡む催事には顔を出す事もある。
そして冒険者もギルドもテレトが王族という事を頭の片隅には入れているものの、一介の元Aランク冒険者、一介の受付嬢として接してくれているのである。
「それではお集まりの選手の皆様、時間となりましたら番号1番と2番のお二方から順番に1対1の戦いが始まります。」
見た目エルフの二人による第一試合、2番を引いたトリスと1番を引いたエルトシャン・デスラヴィの一回戦。
ミニスカートが似合う15歳くらいの可憐な少女……という見た目のエルトシャン。
先程から目つきがキツイのだけは他のプレイヤー達にも伝わっていた。
控室に集まった16人の本戦出場の戦士……プレイヤー達。
それから審判を務める男が本戦について説明をする。
1対1で戦いHPが全損するか、参ったと言うまで試合は続けられる。
予選の時と同じように、見えないバリアが観客席を守っている。
闘技場には場外が存在するが、落ちても負けにはならない。
ただし、場外は盛り上がらないので、態と落ちたり落としたりすると審判からマイナスポイントを受ける。
審判のマイナスポイントが一定に達するとTKOとなるので注意が必要との事である。
具体的にはマイナス3でその選手は敗退となる。
先程からトリスを睨み続けるエルフのエルトシャン。
森から出たことのないマロン達が他のプレイヤーから恨まれる事はないはずである。
あるとすれば、予選でぶっぱした中に仲の良いプレイヤーがいたかも知れないという事だけだった。
「それでは第一試合のエルトシャン選手とトリス選手。部隊の方へお願いします。」
名前を呼ばれた二人は舞台に向かって歩き出す。
舞台に立った二人は周囲の歓声に耳を傾ける事無く、目の前にのみ集中していた。
向かい合った二人は対照的だ。敵意剥き出しのエルトシャンに対し、めんどくさ~という表情のトリス。
試合が始まるまであと秒読みといったところで、エルトシャンはトリスに対して指を突き付けた。
「エルフの癖に、エルフの里を捨てた貴女を私は赦せない!」
トリスは族長の娘だけれど、エロフという特殊なエルフであるため里を出た……という設定である。
別にトリスが里に迷惑をかけたわけでも、里にトリスが迷惑を掛けられたわけでもない。
しかし、エルフの里を出て行ったという設定のトリスが気に入らないようである。
どうやらエルトシャンはロールプレイキャラのようだった。
エルフの里を出たトリスを許せない……という設定だったのである。
エルトシャンは別にトリスのいた里のエルフではない。エルフの里は各地に多数存在する。
ただ、エルフの里にも里同士で連絡を取り合う手段が存在し、族長の娘(設定)であるにも関わらず、里を出て行ったトリスというキャラが赦せないという事だった。
「だってそういう設定だし。」
トリスは唇を尖らせながら呟いた。
「貴女を倒して、貴女の里を吸収合併してあげるっ。」
エルフの里は多数存在するが、あの森に他のエルフの里は存在しない。
エルトシャンの里がどこにあるかは不明だが、合併する意味がわからない。
知らないだけであの森にもう一つ里があったのか、それとも姉妹都市のような感じで提携している里だったのか。
穴がないわけではない言いがかりではあるが、トリスの感想は一つだった。
(めんどくさい。)
「それではっ試合開始っ!」
「まじかるしゅー!」
トリスは4本の魔法矢を放つと、エルトシャンの四肢をそれぞれ拘束する。
「もう貴女はこれで手も足も出ない。私の成すがままだよー。」
開幕ぶっぱのように、トリスは先制攻撃をする。
ダメージを与えるためではなく、動きを止めるためのものだったようだ。
矢のエネルギーの先はトリスの指へと繋がったままである。
「ひっ」
トリスはエルトシャンの頬を爪で引っ掻く。
そして顎から徐々に爪を下げていく。
首、胸、鳩尾、臍と順に下げられていくその爪は妖艶であった。
それが幼女であっても……
幼女が少女を蹂躙する。その様子が観客達を別の意味で興奮させる。
成人設定のプレイヤーにはそのまま移り、成人設定ではないプレイヤーにはモザイクが掛かっているのだが。
「粋がってたわりには随分……可愛い反応だねぇ。」
「ひっ」
先程までと打って変わり、エルトシャンは怯えている。
足はガクガクと、お股の当たりはなぜかモジモジとしている。
「めんどうだからサクっと終わらせるよ。」
トリスは上空に向かって魔法矢を放つ。
そしてその矢には先程放った4本の矢とも繋がっていた。
魔法矢故の使い方であった。
つまり、エルトシャンは魔法矢と一緒に上空高くに打ち上げられたのである。
「ひやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁ……」
段々と見えなくなっていくエルトシャン女史。
闘技場では既に悲鳴が聞こえなくなっていた。
バリアは観客に対する被爆を防ぐためのものであり、真上に対しては有効ではない。
そのため魔法矢は空高く放たれ、それに連結するエルトシャンも高々と上がっていったのである。
エルトシャンはミニスカートを装備していた。
上昇が一杯までくると、後は落下するだけである。
落下する重力云々により色々と捲れているのだが気にしている余裕はない。
涙と鼻水と他諸々で色々ヤバイ事になっているのだが、それすらも気にしている余裕はない。
このまま落下すれば、転落死するだけである。
「まだまだ甘いな~。つらぬけ~……はーーーーーーッ!」
もう少しで地面とこんにちはするところでトリスはもう一本魔法矢を放った。
「うげっ、えげつねぇ。」
「あれは流石に可哀想だ。」
「魔女裁判!!」
などと観客席からは声が上がっていた。
トリスが再び放った魔法矢は、エルトシャンの股間から脳天を貫いている。
魔法矢故に物理的な矢のようなグロテクスさはないのだが。
貫いた際にエルトシャンのHPは全損している。その瞬間トリスの勝ちは決まっていた。
「勝者、トリス選手ゥ!」
勝ち名乗りを挙げた瞬間、観客席からは大歓声等が起こった。
最初の試合故にどうなるか色々な期待等が含まれていた。
それを打ち砕くようなトリスの攻撃。もう誰も攻略最前線組が優勝すると考えてはいなかった。
試合が終わり、勝利の余韻に浸りながら控室に戻ったトリス。
マロン達がおめでとうと喜ぶ中、医務室で目覚めたエルトシャンは……
控室の扉が開き、そこにはエルトシャンの姿。
誰かを探すよう左右を見渡した後、何かを発見すると一目散に掛けよろうと走り出す。
「おねえさまぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ」
周囲の視線など気にしないのか、トリスに思いっきり抱き着いた。
エルトシャンはどうやら何かに目覚めてしまったようだった。
「煩いっ」
首元に手刀を落とすと、「ぐぇっ」という声と共に崩れ落ちていった。
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