第57話 ポーションが出回る事になりました

 組み合わせ抽選も終わり転移で客室に戻ってくると、ちょうどフォルテとの会談時間となる。


 メイドが扉をノックをする音が響く。抽選会に出ていたせいか、少しだけ汗?をいていた。


 抽選会のため着用していた仮面を外し、パンパンと軽く衣服の乱れを直した。


 

 メイドに案内され、商談室に入るとそこには既に会頭であるフォルテ、第一婦人、第二婦人、ムル、ミーツェが座って控えていた。


「うわ、私達重役出勤みたい。」


 案内を寄越すと言ったのはフォルテ、時間よりも先に到着していたのもラマン商会の面々なのだから、マロン達に比は全くない。



「そちらにどうぞお掛けください。」


 資金なり物資なりを提供する側ではあるが、フォルテの対応は丁寧であった。



「まずお聞きしたい。マロンさんは商人と職人、どちらが希望ですか?もしくはどちらに重きを置きたいと考えてますか?」


 この回答によって、土地を提供するのか、人員を提供するのか、工房を提供するのか色々変わってくる。


「素直に本音を言いますと、職人をやりつつ自分の店を持ちたいです。」


 ゲームをこのまま進めていけば、仲間は増えるかもしれない。NPCとももっと触れ合えるかもしれない。


 従業員は未来を見据えれば雇う事を考えれば、さほど難題ではなかった。資金や素材の持ち逃げとかの懸念はなくならないけれど。


 それはプレイヤーもNPCも変わりはない、その人物の人間性と運営のおちゃめだろう。


「マロンさんは何を製作されてますか?若しくはしようと思ってますか?」


 強い眼力でマロンを覗くフォルテに、素直に答えるしかないかとつらつらと自分の出来る事を伝える事にした。


「料理、木工、鉄工、宝石を使用したアクセサリー、ポーション(HP・MP)、雑貨、野菜を中心とした農業、裁縫、衣類、染色、錬金……」


 ポーションのあたりで一同こめかみのあたりがピクっと動いていた。


「随分と多彩ですね。いくつかに絞るという事は……」



「特にはないですね。強いて言えばスキルレベルを上げたいから、更なる高見へ至りたいからという理由で何かに集中する事はあるかもしれませんが。」


「定期的に作成するとすれば、ポーションと装備品でしょうか。後は普段の料理を作るくらいで、レストランなどをする予定は今のところありませんけど。」



「私から意見を良いでしょうか?」


 手を挙げたのは昼間店舗で謝罪をしていたミーツェだった。


「このポーションを定期的に卸す事は可能でしょうか?」


 マロンが昼間提供したのは少し薄めたものだった。

 

 トリスが飲んでマロンを襲った時のものよりは効果が薄い。ただし改良を加えた上での事なので、回復量としては100前後を保ちつつ媚薬効果は半分近くとなっている。


 もし、昼間試飲したのがトリスの時と同じものだったら、マロンの経験は1上がっていたかもしれない。


 公然強姦が成立していたかもしれない。


「どのくらいの期間にどのくらいの量が必要かわかりませんが、ストックもありますし可能と言えば可能ですよ。」


 目を大きく見開いて驚愕しているのはフォルテとミーツェだった。


 今日はあの店舗で働いていたが、ミーツェにはもう一つの職場がある。


 正確には運営を任されているというべきか。


「通常のポーション(小)1本の値段が5000モエで販売されている事を考慮すると……2倍~3倍は間違いない。そうするとやはりコストが……」


 ぶつぶつとミーツェは呟いている。もう一つの店舗での事を考えるとできれば欲しいと考えているようだ。


「マロンさん、他のがあるポーションはありますか?例えば病気を治すとか……」


 ミーツェの狙いはこちらの方が大きいかもしれない。こちらの話をする時の口調の方がはっきりと大きく話していた事からもそれは窺える。


「……どこまで話そうか正直悩んでますが……今は無理だけど、将来的には作れたら良いなとは思ってます。」


 おしっこ聖水でポーション(大)が出来たのだから、病気が治るポーションもいずれは出来るかも知れないと踏んでいた。


 例えば、特定のだれか、または複数人の入った後の風呂の残り湯を使用するとか。


 製法を知ったら吃驚するような方法で何かが化けそうだと、マロンは半ば確信していた。



「……ぶっちゃけてしまいますと、昼間のポーションで良ければ原価は安く済むので……10本5000モエで売っても良いかなとは思ってます。」


 全員がムンクの叫びのような大口を開けて驚愕していた。


 マロンはまだ販売ルートがない。商業ギルドを通さずに勝手に売り買いをしてしまうと、それは罪となってしまう。


 商業ギルドに登録して、店や露店を持つ事で双方の利益を守る結果になるのである。


 また、特許というものがこの世界にも存在する。


 媚薬効果のあるポーション、ポーション効果のある媚薬、どちらにしても特許だけでもそれなりの金銭にはなり得る。


「店なり従業員なりを提供して貰えるのでしたら、そのくらいのサービスはしても問題はないかとは思ってます。抑、商品の相場がわかっていないので、そういった面を含めてもですね。」


 ポーション(小)の値段だって今日知ったばかりなのだ。もっと言えば、通貨がモエだと知ったのでさえ今日なのだ。 



「HPを回復するポーションとして販売するのではなく、副作用の効能の方をメインとした売り方をすれば、ポーションの価格破壊にはなり辛いのではないかと思いますよ。」


 マロンはぶっちゃけた。そしてミーツェはそちらの効能の方を欲していたのである。



「販売する前に商業ギルドに登録して、特許を取得して当面はラマン商会でのみの販売にすればそんなに問題にはならないかと思いますよ。」


 フォルテが横から助言を出してくる。


「ミーツェ、お前は店で使おうと言うのだろう?ならば当面は店でのみの使用としよう。新しい媚薬として、少し値段は張るかもしれないが、最初は半額セールとして売り出せば口コミでも広まるだろう。」


 マロンがポーションを卸す事前提に話しているが、マロンも卸す気は満々なのでそこに茶々を入れる事はなかった。



「マロンさん……特許申請後、数日間ミーツェの店で半額で提供するという事で試験販売をさせてもらえないでしょうか。」



 フォルテの提案を飲む事をマロンは承諾した。


 まずは商業ギルドに登録をする、その足で特許を取得する。


 現実とは違い、数分から数時間で申請は通る。


 本戦前に申請してしまえば、本戦後には余程の事がなければ特許取得となる。



 そして当日中、若しくは翌日からミーツェの経営する店……「さくらんぼくらぶ」のオプションの一つとして試験販売するという。


 ポーションの使用は店内のみ。持ち帰りは不可とする。それだけは徹底する必要がある。


 店外で使用されたら、最悪強姦を誘発するだけとなってしまう。


 話をしている段階で、マロンはミーツェの店が所謂風俗店だというのは理解していた。


 つまりは、媚薬・精力剤としてポーションは期待されているのである。



「あ、それでしたら、こういうのも置いて貰って良いですか?」


 それはポーションの次に大量に製作していたマロンの代名詞でもある「電動こけし」だった。





 マロンは電動こけしの説明をする。


 幸い幼女二人は別の部屋で既に夢の世界に旅だっているので、耳を塞ぐ必要はなかった。



「イイねで買う。じゃない言い値で買うからポーションとその電動こけしを3つずつ売ってはくれないか?」


 フォルテがマロンに頭を下げて懇願していた。


 二人の夫人は少し顔を赤く染めていた。


 3人の夫人にもう一人ずつ子供が出来る日もそう遠くないのかもしれない。


 フォルテ36歳、アコンシェル第一夫人34歳、ビータ29歳、テレト21歳。まだまだ産めるのである。


 ちなみに何人かの子供達は学校に通っている。


 日本で言うところの義務教育と同じ15歳までは学生なのである。


 ただし、学校の開始は小学4年生にあたる10歳からとなり、6年間学ぶ。


 それ以下の子供達が学ぶ幼等部も存在するが、これは貴族や大商人など、将来国の重要な機関で働かせようとする親のエゴ機関でもある。


 大体の過程は家の手伝いや自主鍛錬等を行い、10歳で学校に通う。


 学校は寮と自宅通学と自分達で選択出来る。アロマは自宅通学をしており、学校から戻ると店で働いている。


 ミーツェも在学中は同じ事をしていた。


 17歳のミーツェは結婚の道を選ばず、商会の手伝いをする道を選んだ。


 15歳のアロマは卒業する年であり、ミーツェと同じく商会の手伝いをする道を選ぶつもりだった。


 二人共、働きながら良い人が現れれば結婚する道はあるかもねとは伝えてある。


 寮暮らしをしている息子も存在していた。


 14歳になる第一夫人の子、ビジュー。

 

 12歳になる第二夫人の子、アートゥン。


 この二人は、寮生活をしながら学校に通っている。


 この世界は一夫多妻が認められている。


 養えるだけの資産があればであるが、その判定は国に委ねられる。


 そのため、一定の貴族や一定の大商人であれば二人三人と妻を娶っている。


 跡継ぎ足る子供を多く持つためであった。


 妻3人、子供8人。使用人の数は30人以上。


 これだけの人数を養うのは並大抵の事ではない。


 フォルテにはそれだけの甲斐性があったという事である。




 マロンが齎すポーションを始めとした物品は、ラマン商会にとってはまさに金の成る木なのである。


 この契約を続けるにあたり、マロンは自分の店でポーションだけは売らないように決めていた。



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