第55話 ラマン一家
可愛く豪奢な馬車から降りてきたのは、綺麗な衣服を纏い髭の似合う髭おじさんだった。
金持ち感商人然とした姿は、高級感を漂わせながらも嫌味は決して感じさせなかった。
それはこの男性から滲み出る所作と、本人の人間性が漂わせるからだろうか。
「あなた。」
「テレト……無事で良かった。プリュネも大事に至らなくて良かった。」
夫が妻を抱きしめる。ただそれだけのシーンだというのに。
バ●ン城でセ●ルがロ●ザを抱きしめるシーンが浮かんだマロンだった。
「あ……」
人前だというのに、ぶちゅぅっと濃厚ベーゼを交わす。
これが本当のフレンチ・キスである。
「そういうのはご自宅で用法容量を守ってお願いします。」
マロンの本音がぽろりと漏れた。第一・第二夫人もいるのだから用法容量を守ってとは当然である。
慌ててテレトから離れた旦那様は、我に返ったかのようにマロン達を直視する。
キリっとした表情から、何もなかったかのようにしてやり直すようだ。
(第三夫人なのに、きっちり愛してる証でもあるんだけど。)
「改めまして、妻と娘を救っていただきありがとうございます。申し遅れたが、私はフォルテ・ラマン・アマンテと申します。」
(フォルテ?たばこかな。ラマンとかアマンテとか、多分愛人?凄い名前だなぁ。)
マロンの心の中の声の方が凄い発想だが……
「ラマン商会の現会頭を務めております。」
その言葉を聞いて「ぴきーん♪」と脳内で電球が輝き、色々と繋がっていくこの一日の出来事。
アーリンを迷子から救い出し姉であるムルと再会させた事、ミーツェ達との店舗での出来事、テレトとプリュネの救出と極悪商売人アダモスファミリーの壊滅。
マロン達は軽く自己紹介をする。名前と先程冒険者登録をした事くらいしか言う事がなかったが。
「立ち話もなんですし、まずは馬車にどうぞ。屋敷に着いたら是非お礼をさせてください。」
組み合わせ抽選が行われる時は、脳内に再びアナウンスが流れる。それまではラマン会頭のお礼に甘える事にした。
あくまでイメージの問題だが、マロンは馬車の振動でイっちゃうかと思ったけれど、決してそのような事はなく快適な馬車道だった。
一度貞操を失ってから、少しえっちな思考に陥る事の多いマロンである。
屋敷に着くなりあれよかれよと、流れるように物事が進む。
メイドに促され入浴。人に服を脱がされ人に洗って貰うなど子供の時以来だろう。
むず痒さと背徳とで少し気持ち良かったとは言えない3人だった。
その間にテレトは他の家族と無事を喜び、その後プリュネを風呂に入れた。
その時アーリンとプリュネが同じ仮面をつけている事に、数人の家族や使用人は気付いていた。
ムルはその仮面をマロンが作った事を知っている。
ミーツェはあのポーションをマロンが作った事を知っている。
ラマン商会側としても、マロン達の事がどんどん一つに繋がりつつあった。
風呂上りでほくほくしているマロン達。
着せて貰った湯浴み着一式が肌に優しく、とても気持ちが良くなっていた。
良い繊維を、良い生地を使っているのだろう。
やがて旦那様がお呼びですと、食卓に案内される。
そこにはフォルテを中心に、第一夫人とその子供達、第二夫人とその家族達が並んでいた。
そしてマロン達が座る直ぐ近くに第三夫人であるテレトとプリュネが……
正確にはマロンの隣にはアーリンが、アクアの隣にはプリュネが座るような席順となっていた。
これはアーリンとプリュネが駄々を捏ねた事による。
「マロン殿、まずは着席願います。」
全員が着席すると、フォルテが再び自己紹介から入る。
そして第一夫人とその子供達、第二夫人とその子供達と紹介していく。
この時それぞれの商会での役割も軽く紹介される。
昼間店で顔を合わせた二人もいるのでマロン達としても、妙な気恥しさがあった。
主に、世間狭すぎだろ!という。
最後に第三婦人とその家族が紹介される。
ラマン商会側の挨拶の後、マロン達が軽く自己紹介をして晩餐会は始まる。
肉と野菜と茸類しか食べたことがなかったので、出されたメニューに感動するマロン達。
これは何の肉?これは何の魚?これは……と確認する事も忘れない。
少なくともマロンがこのニューワールドで知らない、入手した事のない食材だった。
食事がある程度落ち着くと、まずはテレトとプリュネを救出した事に関するお礼から始まり、全員の武勇伝話で盛り上がる。
その話の間中、プリュネはアクアに付きっ切りであった。娘を取られた悔しさからか、少しだけテレトの唇が尖っていた。
その後、最初の出会いであるアーリンの迷子話に移る。
まさかこの時からこのラマン商会イベントが続いているだなんて思ってもみなかったマロン達である。
マロンが製作すると、魅力のせいでおかしな食材と料理になってしまうので参考にするのもどうかとは思うが、晩餐会の食事はとても美味なものであった。
「ナニコレ、アワビ?」
3人が自分の股間を一瞬見る。夫人たち含めノーコメントを貫いた。
「特定の流通がありましてな。海の物も当商会では仕入れる事が出来るんですよ。」
周辺の地理は現状ではマロン達はわからない。
海が近いのか遠いのか、何の幸が豊富なのか、何が不足気味なのか。
食事の中にも商売に通ずるものを模索していた。
マロン達からすれば、主に調味料と、森では入手できない素材が興味を惹かれる。
現状だと湖はあるが、川すら見つけられていないのだ。
秋刀魚どころか鮎すら手に入らないのだ。
海にしろ川にしろ魚分が不足していたのだ。
「海の倖、川の倖は簡単にとは言いませんが、手に入りますか?」
家庭で食べるというレベルであれば、店で販売している。
マロン達はイベント後はこの都市とだけは自由に行き来が出来るようになる。
販売している事がわかるだけで食卓に変化はあるのだ。
これだけ色々なメニューが出てきてはいるが、マロンが森で採取出来たようなイノブタやマツタケもどきは出て来なかった。
尤も、小屋で食した事のない食材ばかりの方がありがたいのではあるが。
「当商会が経営する店であれば可能です。後は当然海や川のある町、近い町であれば商会問わず可能ですね。」
マロンは調味料や魚介類を、イノブタや野菜、きのこ類を以って取引出来ないか考えていた。
「希望があるのですが……今度、出来ればこの都市でお店を開きたいと思ってるんですけど、それって可能ですか?」
若しくはラマン商会に商品を卸す事が可能かどうか。
マロンは商人ではなく職人になりたいと思っている。
自分の店を持つ事でも良いし、卸し先があるだけでも良かった。
「可能ですよ。商業ギルドに登録申請は必要ですが、露店から店舗まで自由に。もちろん最初から大規模店舗は持てませんが、私が紹介状を書き後ろ盾になれば、露店と小規模店舗であれば二つ返事で承認を貰えると思います。」
【ラマン商会の後ろ盾を得ました。】
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