第54話 ついでに冒険者登録

 冒険者ギルトのギルド長、ポン・サクレック・カァルボとテレトはかつては同じパーティに所属する冒険者だった。


 他にも魔法使い、僧侶、盗賊と仲間が存在していた。


 ただし、リーダーの通称ポンサクは40代、僧侶は25歳行かず後家、魔法使いは肉体的にも魔法使い、盗賊は21歳。


 この職種の盗賊は技能的なものを差すのであって、人の家に盗みに入ったり馬車を襲ったりする者のことではない。



 姫騎士というレアな職種であり天才的な剣術のテレトは若くしてAランク冒険者となったが、16歳の時電撃的に引退する。

 

 寿退職と言って良いのかは微妙なところではあるが、結婚を機に冒険者を引退する。


 ポンサクはギルド職員として再就職、僧侶は……如何わしいお店に再就職、魔法使いはその客として常連に、盗賊はクラスアップし忍者となる。


 念願の忍者になれたので、引退後は忍者アトラクションを作って経営するのが夢だと語った。


 今も資金調達のためソロ活動をし、ノラパーティを組んで冒険者を続けている。




 そしてテレトは二人の娘を産み、二人目であるプリュネが3歳になる頃、冒険者ギルドの職員となった。


 緊急時にのみ冒険者に戻る事を条件に、受付嬢となった。


 21歳という若さから、冒険者達からの人気は高い。


 冒険者時代を知っている古い者達は一目を置いて接しているが、当時を知らない若い世代からは絶大なアイドル的人気である。


 ただし子持ちである事は知っているので、自分には靡かないとは分かっていながらも接している感じだ。


 アイドルの実生活には踏み込まないと、冒険者達は徹底していた。


 しかしそれでも食事くらいは……と声を掛ける者は少なくはない。


 どこで見られどこで気に入られたのかはわからないが、ある時からテレトはこの街に蔓延る悪の組織であるベンジョミンに惚れられる。


 ベンジョミン・アダモスは娼館や娼婦を取り仕切るアダモスファミリーのボスであった。


 娼館などの裏で、違法な薬物や物品を取り扱い、かなり悪どく商売を続けていた。


 自分の店で働く娼婦達は大半が誘拐や拉致換金(誤字ではなく、自由のためには金を払うという意味)した者達だ。


 それに表示価格よりも高い金銭を客に要求したり、支払えない者には暴力・恐喝などは日常茶飯事であった。


 それでいて部下である男にはともかく、娼館で働く女性達には低賃金で休日は殆どなし、性病の危険を顧みないなど、劣悪環境であった。


 当然客や従業員である娼婦の中で死人も出ている。


 ただし、直接殺害しているところを軍や衛兵などに見られているわけではないので、一斉検挙とはいかなかった。


 こいつ絶対やってる!と分かっていても、映像記録などがない世界のため証拠の提示が難しい。


 誰しもが見ている公共の場でボロを出すか、裏帳簿のようなものが発見されなければ裁判に掛ける事も難しい。


 


 そんな折でのテレトの誘拐。一部のギルド職員はテレトの日常も気に掛けていた。これは過保護と言われても、ポンサクの指示もあった。


 口は悪くとも、無断欠勤や無断遅刻をしなかったテレトが、1時間も出勤してこないのはおかしいとギルド長は気付いた。


 これは何かあったなと……それからはギルド職員を使い、軍にも報告し見做し事件かも知れないがとの事でアダモスファミリーへと乗り込んだのである。


 結果は、マロン達の介入によりあっさり解決済み。


 色々な柵があるからと、救出されたテレトがアダモスを断罪。


 側近二人とその他大勢の構成員は全員逮捕……


 一名だけ逃れたのがいるが、それはボスの部屋までマロン達を案内をしたあの組員は指名手配される事なく逃げおおせた。


 側近以外の構成員は全員仲良く切れ痔となったが、そんな事はギルドや軍の与り知るところではない。


 構成員は裁判の後、かなり重い罰が降るはずである。





「テレトママンのくっころ見たかったかなー。」


 トリスが呟く。


「だってテレトママン、職種が姫騎士だって言うじゃない?そうしたら全ヲタクの憧れ、くっころでしょう。」


「確かに、あの時の姿を見たら……くっころ見てみたい人ナンバーワンかもしれないけど。」


 トリスの憧れはともかく、マロンもそれに続いていた。




 軍の施設は遠いため、冒険者ギルドで一応の取り調べを受けるマロン達。


 30分程度で終了したため、ついでに冒険者登録をさせてもらう。


 その間にテレトの聴取を行っている。プリュネはアクアの背中でおねむだった。


 受付でマロン達の登録をするのは、受付歴3年猫獣人のミューという女性。


 年齢は17歳で生まれもこの闘技場都市だと言う。


 護身のためにねこみみメイド拳という流派を嗜んでおり、既に悪漢を何人も捕縛している可愛い顔した武闘派受付嬢である。


 テレトといい、ミューと良い、この街の女性は逞しいのである。


「では3名の冒険者登録を進めます。ギルド長特権で後のCランク昇格の際の盗賊・山賊・海賊退治は免除となります。」


「登録料は500モエとなります。これはギルドカードの発行料と捉えてください。失くした場合は以前のカードの休止処理と新カード発行のため800モエとなります。」


「冒険者のランクはAランクを最高位にFランクからのスタートとなります。ランクの基準は主に戦闘能力と調和能力と仕事遂行能力の総合判断となります。」 


「その気になれば薬草採取のみでDランク冒険者としてのらりくらりと一生を過ごす事も不可能ではありません。」


「Cランク以上には、モンスターピートや国の指名手配犯の追跡などの際に招集指令がくだります。重病や重傷、遠方にいる場合を除き基本的に拒否は出来ません。」


「Fランクは主に雑用やお手伝い系がメインとなります。魔物との戦いは最低でもいくつかのFランク依頼をこなしてからを推奨します。」


「たまに学校で良い成績を取ってるからと実力を勘違いして、いきなり魔物討伐をして痛い目を見る登録したての冒険者が毎年後を絶ちません。」


「魔物の討伐推定ランクと、推定討伐人数などが載ってる資料なんかはありますか?」


 マロンが質問をする。鑑定である程度の強さなどはわかるが、それと冒険者ランクはイコールも比例もしているかはわからない。


 最弱と言われているスライムやラットとは言っても、何も戦闘訓練していないものが簡単に討伐出来るかどうかはわからないのである。


 尤も、マロンは気付いていないがあの森の魔物はかなり強い部類に入るので一般的な街スタートのプレイヤーがいるフィールドの魔物であれば、小指で瞬殺レベルである。


 実際に小指で倒せる倒せないの話ではなく、そのくらいのステータス差が存在するという事であるが。


「ギルドの図書室にそういった資料はあります。それと、討伐系の依頼表にも推奨ランクは書かれています。自分のランクより上の依頼は受けられませんのでご注意を。」


「また、高ランク冒険者のお付きなどで同伴する場合に限り、二つ上のランクの依頼を共同受諾する事は可能ですが、自己責任となりますのでお勧めはしません。貴重な冒険者を失うのは本意ではないので。」


「これもギルド長特権なのですが、良いランクからスタートで構わないとの事です。あ、Eランクでした。」


 そんな言葉の綾みたいな語呂遊びなんてしなくて良いよ、このおちゃめな受付嬢さんめ……と3人は思った。


「そのため、マロン様達はゴブリンなどの人型魔物の討伐も可能という事になります。」


 現状Fランクからでなく、例え一つでも上の階級からのスタートとなったプレイヤーはいない。

 

 それがどういう事か……



【冒険者ギルドで飛び級スタートを取得しました。】


 案の定なアナウンスが響いた。


「あと、冒険者ギルドで聞いて良いかわかりませんが、家事や薬師などのギルドもありますか?」


「ありますよ。他のギルド情報も図書室にありますので御覧ください。」



「そうそう、ミューさんは猫獣人ですよね?」


「そうですが何かございますか?」


「語尾ってにゃとかみゃじゃないんですね。」


「仕事中は標準語を心掛けてますので。」


 その言葉から、語尾がにゃだったりみゃだったりする事はあるという事だった。


 好感度でも上がれば聞ける日がくるのだろうか。



「それでは、良い冒険者ライフを!」



【ミューと少し仲良くなった。】



 マロン達は早速図書室に向かい資料を漁る。


 今日のところは登録出来ただけで万々歳であるため、テレトの聴取が終わるまでの時間潰しが出来ればそれで良いのである。


 それと、夜に始まる組み合わせ抽選会までの時間潰しと。


 図書室で確認出来た他のギルド情報……


 薬師、鍛冶(鉄鋼含む)、家事(執事・メイド)、魔法、木工(林業含む)、農業、漁業、宝飾(アクセサリー等含む)、魔導具があった。


 ギルドはないが、やはりファンタジー系ゲーム、教会なるものが存在した。


 神は多数存在し信仰されているが、主に教会となると数が絞られる。


 人間が信仰する神と獣人が信仰する神、魔族が信仰する神である。


「教会は面倒くさそうだから関わりたくないね。」


 トリスが脱力したように呟いた。


「そうだね。大体私は農業、林業、復讐、死の女神だから絶対悶着の予感しかしない。」


「ちょっと、ナニソレ。復讐はなんとなく分かってるからいいけど、死って何。死って……」


「第二次予選で勝手に好かれちゃった。以上。」


 トリスとアクアはざっくばらんに説明を受けた。開いた口が中々塞がらない。


「100発100中かわからないけど、多用すると面白くないから闘技イベントではあまり使わない方が良いかも。」


 トリスがしみじみとマロンを諭すように言った。


「まぁそれは私も思ってるよ。まぁ乱立して使ってれば対処法とか見つかるかもしれないけどね。」


「それと、私は場合によっては薬師、鍛冶、木工、農業、魔導具ギルドは登録するかもしれない。」


 マロンのその志は近いうちに破られるのだが、今のマロン達が知る由もない。


 物欲センサーやフラグというのは確かに存在するようで、口に出してしまうとその通りになったり、それだけが手に入らなかったりすることは良くあるのであった。



「あ、ここにいたんだ。旦那が迎えに来るから、一緒に家に行きましょう。」


 聴取の終わったテレトが図書室に現れた。


 ギルドマスターがテレトの旦那様に連絡を向かわせ、事情を説明すると嫁さんと娘と恩人を迎えに行くと先触れが届いたとの事だ。



 間もなく到着するとの事なので、外に出て待つことにする一行。


 途中冒険者登録は無事完了した事を伝える。



「あ、来た来た。アレだよ。」


 白と黒の熊……地球で言うところのパンダの顔が飾られた豪奢な馬車が冒険者ギルドの前に向かってきていた。


 どうやら娘基準で作った馬車のようで、「可愛いだろ?」との事だった。




「ひゃんっ。」


 アクアの可愛い口から艶やかな声が漏れる。


 プリュネの涎がアクアの背中を伝っていた。  



  

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