第53話 ヤベェNPC 若い人妻は怖いの巻

「おうおう、お嬢ちゃん達ィ。どこの誰かは知らねえが、ここがアダモスファミリーのボスの部屋だと知っての狼藉だろうなぁ。」


「というか、お嬢ちゃん。せっかく見逃してやったのにノコノコこんなとこに来て……幼女は売っても金にならないから見逃してやったというのに。」


 このボスには仮面の幼女の一人が誰だか分かっているような口ぶりである。


「おう、お前ら、出あえいっ!曲者だ!」



 ボスは現実に戻ってくると、マロン達を威嚇し部下たちを呼んだ。


 しかし何も起こらない。側近として同じ部屋にいる男二人もきょろきょろとしていた。


「……ん?何故部下達は誰も来ない。」




「この部屋に来る途中にある薬を蒔いた。効果は淫らな気持ちを抱く、同性に対してのね。」


 左手の親指と人差し指で作った輪っかに、右手の人差し指をずぽずぽ出し入れしているマロン。


「あんたなんてモン作ってるのよ。」


「これも副産物だよ。」


 ボスの部屋に至る廊下にはマロン印のポーションが巻かれていた。


 扉を閉めたので、この部屋に充満する事はないが、廊下は……


 ボスの部屋から遠ければ遠いほど濃く巻かれているので、阿鼻叫喚なのはボスの部屋から離れている程酷い事になっているだろう。


「リアルBLですか?」


 アクアが目を輝かせてマロンに訊ねる。


 仮面をしていても、その目の輝きはマロンとトリスには見えていた。


「BLはね、2次元だから良いんだよ。せいぜい舞台とかの2.5次元までが許容範囲じゃない?」


「イメージの問題もあるけど、百合は許容されてもBLはちょっと……て感じだよね。」


 トリスが現実の厳しさをアクアに伝える。



「お前らっ俺達を無視するんじゃねぇ。この女が、テレトがどうなっても良いのかっ。」



「あんたが御執心で攫ったんじゃないの?それなのに傷つけるの?」


「うるせぇ。お前ら生意気な幼女だな。お前らみたいな店で使えない幼女など、四肢を捥いでそういうのが好きそうな貴族にでも売っぱらってやる。」



「大層ご丁寧に説明をありがとう。あんたがこれだけ長い間話に付き合ってくれたおかげで、ほぼ全てカタは着いたも同然なのだよ。」


 トリスが緑色の髪の毛の高校生バスケ部員みたいな口調で説明する。


 マロンが両手を広げると、操糸術により3人の動きを封じる。


 現状マロンの術レベルでは3人を操るのが限界であった。


 そのため、援軍が来ないというのはマロンの独壇場を意味する。


「うぐっ、口以外動かねぇ。」


「水球。」


 アクアが水魔法により、護衛二人の顔の周りに水の玉が襲う。


 こういう拷問があったなと、トリスは思い出しゾっとしていたのは他の人には内緒である。


「ぶがっががが。」


 喋ろうとしたりすれば酸素を失う。


 そのことを知らないのか、それとも焦っているのか、護衛の二人は自ら寿命を縮めていた。


「しゅーっ」


 トリスの魔法矢(雷)が護衛の二人を襲う。


 ものすごく力を押さえた一撃のため、一撃死は免れたが瀕死だという倒れてピクピクしているのは明らかである。


 倒れた時に水球は霧散していた。


「陸に上がった魚みたいだね。それになんか床オナしてるみたい。」


 魔法矢を放ったトリスが見下しながら言い放つ。


「あ、あとはアナタだけです。」


 アクアが指を差して叫んだ。


「さぁ、お前の罪を……」


 数えたかどうかはともかく、ボスはマロン達のあまりに鮮やかで確実な攻撃に身動きが取れなかった。


 尤も、マロンの糸により動けはしないのだが。


 トリスがボスの手をテレトの胸から離す。


 いつまで揉んでるんだという話であった。


 そしてその足でテレトを縛っていた縄を解いた。


「あ、ありがとうございます。」


 テレトは手を何度か握っては放しを繰り返し、何度か手首を振って感覚を確かめる。


「あ、どちらかのお嬢さん、娘の目を塞いでくれるかしら?」


 アクアがプリュネの目を塞いだ。


「さて、ここまでの事をしたんだから……裁判はいらないよな。」


 テレトのトーンが下がり、口調が突然男勝りになっていた。


 テレトは周囲を見渡しある物を見つけると、その場まで歩き手に取った。


「安物ね。でもあんたの最期には丁度いいか。」


 手に取った見た目だけ豪奢な、切れ味はイマイチの安物の剣の素振りをするテレト。


「アダモス・ファミリーがドン、ベンジョミン・アダモス。あんたには婦女暴行、強姦、誘拐、恐喝、恫喝、強盗、放火、殺人、不当な低賃金、サービス残業、従業員へのパワハラセクハラ等など、数々の容疑が掛かってる。」


「よってあんたには死刑が相応しい。というより死刑以外何があると思ってるの?」


 いきなりのパワーワードの数々に今度は動きが止まったのはマロン達だった。


「少なくとも私を誘拐し、可愛い娘を泣かせた罪は万死に値する。」


「ままままあまま、待て。っここここここけ、これからは心を入れ替えて真面目になる。従業員にも正当な賃金を支払う、有給も認める、今日も可愛いねとか言って乳を揉んだり尻を触ったりもしない。」


「福利厚生もしっかりする、ノー残業デーも設ける。ヘッドハンティングという名の誘拐もしない。気に入った女子を攫ったりもしない。気に入らないからって暴力も振るわないし、客を脅して料金を割高にしたりもしない。」


「証拠隠滅だからと、バラバラにして燃やして死体を魔物に喰わせて骨を灰にしてばら撒いたりしない。」


 中々酷い事をしてきたんだな、こいつ……と一同は思う。


「どれもこれもギルドも軍も調査済だ。私を……私達を誰だと思ってるんだ。」


「ある時は冒険者ギルドの人気受付嬢……ただし子持ち、またある時は巨大商会の第三妻、またある時は元Aランク冒険者、またある時は可愛い娘達のママン。」


「そしてその正体は、今言った全てが本当の、テレト・ラマン・ベージョ・エテルノとは私の事だ。」



「ギルドも軍も次の確たる証拠が出た際には、その生死は問わないと結論付けている。つまり……死刑!」


 ガキ●カのようなポーズを取る、テレト・ラマン・ベージョ・エテルノ(24)。


 少しだけスカートが捲れて太腿が露わになっているが、ツッコミを入れて良いのかわからず全員が黙っていた。


「私は可愛い娘の笑顔のためならば……鬼にもなる。」


 いやいや、充分鬼神の表情してますよママンと心の中で思ったマロン達3人であった。



「くどくど長くなったけど、貴方に不幸にされた人達の恨みも込めて……」


「ラ・ヴィ・アン・ローズ!」


 テレトの剣技でどんどん衣服が剥がれていくベンジョミン。


 La Vie en Roseとは日本では詩的な意味で『バラ色の人生』と訳されるが、フランス語をそのまま直訳すると『ピンク色の人生』である。


 つまり……ベンジョミンのピンク色……全裸が出来上がる。


 これ、誰得なの?汚いモンが視界に入っちゃったじゃんと、マロン達3人。


 アクアに至っては吐きそうな顔をしているが、プリュネに汚いモノを見せるわけにもいかないので我慢している様子だった。


「私が衣服だけしか切らないわけないじゃない。」


「ひでぶっ!」


 ベンジョミンの叫びと共に沢山のパーツとなって身体が崩れ落ちる。

 原型を留めているのは首から上と、真珠の入った本人自慢のイチモツだけであった。


 テレトは箪笥を漁り厚めのタオルを抜き出してくる。


「ほら、これがお前の大好きなモノだよ。」


 真珠入りのやべぇヤツをベンジョミンの口の中に突っ込んだ。


「……」


 テレトは右足を振り上げベンジョミンの頭の上に構える。


「あ、それは流石にやったらいろいろまずいと思います。」


 トリスがテレトに向かって言った。


 いくら元18禁ゲーム会社とは言っても、成人設定しているとは言っても、エログロに許容範囲というものは存在する。


 リョナと片付けて良い問題と良くない問題が存在する。


 これは確かにプリュネの目を塞いでないと出来ない事だった。


 テレトはスっと、頭の横に踵を付けた。どうやら思い留まったようである。


 真珠入りを摘まんだタオルを無造作にベンジョミンのスライスミンチの上に被せた。

 

 一応目隠しを解いたプリュネの視界に入らないようにという処置だろう。



 テレトはマロン達の方へ身体を向け、深く頭を下げる。


「貴女達は娘の恩人です。出来ればお礼をしたいのでこの後是非家に寄ってください。」


 これもきっと何かのクエストだ、断ると面倒くさそうだという思いが3者で一致したため首を縦に振る。


 やがて建物内が騒がしくなる。


 怒声や怒号がこの部屋にも入って来る。


「あぁ、ギルドか軍が乗り込んできたんじゃないかな。」


【ラマン商会の信頼が格段に上がった。】


【テレトに超気に入られた。】


【エテルノ王家の信頼が向上した。】



「ぎゃーーーーなんだこれはーーー!」


「ここは男色の館だったのかーーーー!」


 駆けつけたギルドか軍の男達は、男達が突き合う現場を目の当たりにして……


 マロンがこっそり中和剤を投げつけばら撒く。それ以上の阿鼻叫喚の地獄を遮断する。


 それからしばらくして、マロン達のいるボス部屋に数人の男達が乱入してくる。


「おう、テレト。こんなところにいたのか。」


「あ、ギルド長。こいつ、娘を盾に私を攫ったから……斬っちゃった、てへっ。」

 

 タオルで隠された元・ベンジョミンを指さしてテレトはてへぺろしていた。


「相変わらずだな、元Aランクの実力だしただの受付嬢じゃないんだけどな。」


「闇社会の人間なのにそんな事も知らずに手を出したのか、それとも誘拐してまでも欲しいくらいのマジ惚れだったのか。」



「やめてっ、気色悪い、あいつにおぱーい揉まれた事思い出しちゃったじゃない、このツルリン丸っ。」


「相変わらず口悪いな。受付嬢の時の姿しか知らない冒険者が不憫だ。それに揉まれたって……お前揉むほどな……」


「うっさいわ。旦那はこの胸が良いって言ってくれてるんだ。このパゲ、残り少ない毛むしるぞっ。」 

 

「先に身体的特徴を言ったのはテレトなんだがな。結婚して出産して子育てしてもその性格だけは治らなかったか。」


「何を言う、これでも丸くなったぞ。娘達は可愛いし、旦那は仕事続けて良いって言うし、渋くて素敵だし、愛してるし。」


「お前がおじさん趣味とは思わなかったぞ。一緒にパーティ組んでる時は誰にも靡かないからおかしいとは思ったが。」


 ギルドマスターはおじさん趣味と言うが、テレトの旦那様はギルドマスターよりは若い。

 

 死臭漂う部屋でいつまでもプリュネを置いておくわけにもいかないので、早々に退出しようと歩み始めた。


「そんな事より、恩人を待たせてるんだからそういう話はここいらで良いでしょ。それに早く帰って娘とぺろぺろしたい……じゃなかったお風呂入りたい。」


「いや、ホント。冒険者達に見せてやりたいよ。冒険者ギルドのアイドル受付嬢(子持ち)の本当の姿を。」


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