第49話 第二次予選② 二つ名

「まじかるしゅーっ!」


 トリスが構えた魔法弓から放たれた屋が戦士風の男と魔法使い風の女のこめかみを貫く。


 

「ばっ、ばかな……」


 こめかみを貫かれたのに言葉を発する事が出来るのは、現実ではなくゲームだからか。

 HPで命を管理されている事からくるのか、最後のプライドなのか。


 頭を貫かれたにも関わらず即死をしなかったのは、ある意味では褒められる点でもあった。


 もう一人は既に事切れたのか姿が消えてなくなっていた。


「俺達はトップクラスなんだ……」


 恐らくはまだ続きがあったのだろうが、男は力尽き姿を消失させてしまう。



「これで決まったー!C3の勝ち抜きはぁ。トリス選手ゥ!」


 C3会場の実況、アデ・ランス・ナカノが叫んだ。



「うおーーーーー碧き龍★あおきりゅうせい碧子へきこと萌える闘魂のバスレロをヤっちまったー!」


 観客から大歓声があがる。

 アクアと同じように、聖絶で開幕ぶっぱをかましたトリスだったが、数人耐える事が出来ていた。

 対馬達と同じように、防御力にかなりのリソースを使った事により耐えられたのだが……


 H3会場と同じように回復アイテムで減ったHPを回復し、残った全員でトリスを狙ったところまでは良かった。

 しかし、トリスの方が一枚以上も上で魔法矢を使って、見える的から順にトドメを刺していった。


 そして最後に残った二人を同時に仕留めたところで大歓声が上がったのである。


 観客の歓声にあるように、碧子やバスレロはアクアに負けたロリコン対馬九郎と同様、攻略最前線のチームだった。

 つまりは優勝候補に名を連ねていたプレイヤー達だった。


 二つ名やグループ名には色や動物等を付けたがるのだろうか。

 攻略組のグループ名が中二感漂わせている。


 そもそもバスレロは意味を知っていて自分の名前をつけたのだろうか。


※バスレロ=スペイン語でゴミ箱の意。萌えるゴミ箱とはこれ如何に。


 



 A3会場。


「な、なんで……」


 マロンの目の前には、あの触手トレントの姿が背を向けて立っている。


 その腹?と思わしき部分には深々と剣が突き刺さっており、剣身からは黒い炎が立ち上っている。

 やがて触手トレントの全身を黒い炎が覆って行く。


「こ、これで借りは返せた……かな?」


 触手の口調はまるでロールプレイをしていない、素の言葉のように思えたそのセリフは、マロンの頭を余計に混乱させていく。


「これでも、無理矢理……そのぅ、18禁行為触手プレイしちゃったこと……悪いと思ってたんだ……」


 そして触手トレントの姿は藻屑と消えた。


 マロンは手を掴もうと伸ばそうとすが、虚しく空を切るだけだった。




 時間を遡る事2分前。

 

 開幕ぶっぱである聖絶で、大方の敵を倒すところはトリスやアクアと同じだった。


 そして数人の敵が生き残るところも。


 第一次予選の映像を見ていると、全員が地面に叩きつけられた後に死亡している事が確認出来る。


 そのため物理的な防御力を上げて第二次予選に臨む者が多かった。


 その判断は間違いではなく、実際に第二次予選では耐えてる者が数人存在のはそういう事だった。


 しかし、地面に叩きつけられただけで死亡してしまうという事は、プレイヤー全体の防御力とHPの低さを伺えさせる。

 そこに気付いている者がどれだけ存在するかはわからない。


「むむ。現在4人のプレイヤーが生存しております!第一次予選同様全員秒殺とはなりませんでしたな!それにしても摩訶不思議。一体どういう攻撃だったのか、このワンター・レンにも皆目見当もつきませんな!」


 A3会場の実況、ワンター・レンが叫ぶ。


 そしてマロンの元に集まって来る残った3人の戦士達。


 マロンから一番離れていた全身黒づくめの細身の男が歩いて来る。


 男から一番近い岩に覆われた人型の魔物の前に来ると、黒づくめの男は躊躇なく持っていた剣を突き立てる。


 すると剣身から黒い炎が立ち込め、岩魔物の身体を暗黒に包んでいった。


「あぎゃあぁっぁあぁっ。」


 熱いのか、闇に飲まれた別の恐怖か、苦しみ悶えた挙句岩魔物の姿はHPが全損し消えてなくなった。



「おー、あいつ。闇炎の暗殺者マルクフランマじゃんか。優勝候補の一人がこんなとこにいたぞ。」


「さすが優勝候補の一人だな。あのわけのわからん攻撃に耐えてなお攻めようとしてやがんぜ!」


 日本語で闇炎はノルウェー語で『Mørk flamme』

 ほぼ発音そのままである。


 そしてA3闘技場にはマロンとこのマルクフランマとあと一人……いや、一体というべきか。

 もう一体はマロンにとっても多少なりとも因縁のあった相手。

 その身体である触手の枝を利用してマロンの穴3つを奪ったにっくき相手。

 

 しかし先日その恨みを晴らすべく復讐を果たした相手、触手トレントだった。


 三つ巴の戦いが始まるかと思われたが、実際にはそうはならなかった。

 マルクフランマが飛び出し、マロンに一突き入れようと腕を伸ばしたところで思わぬ邪魔が入った。



 それが触手トレントがマロンの盾となり、庇うという行動を取ったためである。

 マロンも決して戦闘を疎かにしていたわけではない、闇の炎に見惚れてしまってはいたけれど。




「なんで……」


 自分を強●して、その復讐で死亡させられたというのに、なぜ自らの身を挺して庇ったのか。

 マロンには理解出来なかった。


 しかし自分の非を認めて庇ったという行為が、マロンの中で美化されていく。

 死者は得てして美化され英雄化されていく。



 無意識で触手トレントの中の人のひととなりに触れたのかもしれない。


 それがマロンにとっては友情化へと繋がっていく。


 あいつ、実はいいやつだったのかも、いいやつなら話せばトモダチになれたかなと。


 そう思うと目の前の男に怒りが湧いて来る。


【復讐の女神・エリニュスの加護を得ました】



 マロンは無意識で踊る。


 死者である触手トレントを追悼するために、葬送するために。



【中級踊りを取得しました】


葬送の踊りレクイエムが使用可能となりました】


 死を漂わせる踊りは見る者をも魅了させていく。

 目の前のマルクフランマも、実況のワンター・レンも、観客も。


【死の女神・キノトグリスに愛されました】



「あなたは、友達になれるかも知れない人を無残にも殺した。」


 本当の意味で死んではないし、HP全損による闘技場から退場しただけなのである。

 HPが全損すればみんな同じ末路なのだが……


 抑、聖絶で初見殺しをした人物が吐くセリフなのかはさておき、マロンにとっては大魔神怒るくらい激しい感情となっていた。


 魅了により誘発された死への香り。そして死を踊る事で崇拝と見なされ。


 死の女神までをも魅了する。

 

 踊るマロンの背後から一本の片腕が浮かび上がる。


「壊れた……マリオネット。」


【操糸術を取得しました。】


 マロンの指からは昼間買ったテグスが解き放たれる。


 魅力でコーティングされたテグスは、切れる事無く男の身体に刺さり張り付いた。


 そして男はマロンと同じ動きを繰り返す。


 召喚されたキノトグリスは神話通りならば崇拝者思いの神である。


 マロンの前で崇拝の踊りをする男は、自らのために死を捧げている……と判断される。


「な、な、な……」


 召喚された片腕は男の身体を握り……そのまま死を与えた。


 HP全損により消失。この瞬間マロンの本戦出場が決定する。


「エロいひとトレント……仇はとったよ。」


 結局、マロンの前にはどんなプレイヤーも、等しく糧でしかなかった。

 マルクフランマが余計な事をしなければ、マロンはこの試合で二女神からの祝福は得られていない。

 操糸術のようなスキルはいずれ取得したかも知れないが、今ではなかったかもしれない。


 マロンには隠しステータス、運MAXでもあるかのような愛され方をしていた。




 この試合を観戦していた観客達は、恐怖により魅了される。そしてマロンに付けられた二つ名は……


【魅了の死神・マロン】または【復讐の幼女神・マロン】、【死の傀儡幼女・マロン】など様々だった。


 後にトリスから二つ名の話を聞いたマロンは……


「せめて魅惑の踊り子とかにして欲しかった。」と語ったという。


「死を振りまく美幼女」とかの間違いでしょとトリスに返されたとか。



 なお、時系列ではマロン、トリス、アクアの順で試合は終了している。

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