第48話 第二次予選①

 H3会場ではアクアが試合開始を控えていた。


 公式が掲載している第一次予選の動画や掲示板などで先の第一予選の様子は既知のものとなっている。

 しかし、ユーザーからの様々な問い合わせには、正当な行為です、チートではありません、データ改竄はされてませんなどの回答しか運営からはしていない。


 聖絶の付与は、運営でも予期せぬ出来事であり、それを安易に認めてしまうと自分達の想定の甘さまでも認めてしまう結果になるからだ。


 尤もあらゆることを想定してプログラムを組む事は実際不可能のため、良くそんな道を見つけたなと感心している運営もいるくらいだ。


 3人のおしっこ聖水を使うなんて誰が考え、誰が実行するかって話である。


 運営の中にどっちかわからないがSかMが存在するのだろう。


 黄金を使って黄金聖闘衣を作るアホも出てきそうだと考えてる運営もいる。実現しようものなら、流石にそれはドン引きであるが。


 しかしユーザーの中にはSやMの世界の調教師や奴隷もいるかもしれないので、絶対にないのかと問われればゼロではないよなと答えざるを得ない。

  


「大人数の時は有効だよね、全員やっつけられなくても残るのが数人なら多分大丈夫。マロンさんのくれたこの仮面のおかげで大分人前に出れるように……」



【H3会場、第二次予選開始ッ!】


 会場内に試合開始のアナウンスが響く。同時に「うおおおぉぉぉぉ」という歓声が上がった。


「完全対策されるまでは……聖絶ッ!」


 第一次予選と同じように、アクアの身体を中心に円形のバリアが展開される。


「うおーーーーまた出たーーーーー」


 観客から大歓声が上がる。またという事は前回も観戦していたか、動画でも見たのだろう。

 開幕即瞬殺という事実は、プレイヤーにもそして現地NPCにも様々な影響を与えていた。



「第一次予選と同じように、不可視の障壁によって全選手が弾き飛ばされましたー。」


「なお、この試合の実況はわたくし、モンタ・ミノ・コテッチャンがお送りします。」


 ※NPCの実況。スルーしていたけど第一次予選会場にも実況は存在していた。


「しかーし、まだ試合は終了していない模様ッ!つまり生存している選手がいるってことダァッ!」


 モニターにはアクアを含めて5人の選手の生存が表記されている。

 HPなどは表記していないので、どのくらいの残量があるかは他人にはわからないようになっている。


(さすがに何の対策もしてないって事はないか。でも仮面があるから大丈夫……)



「だーーーーー手持ち回復薬使いきっちまったぜ。」


 アクアの前に屈強そうないかつい男性キャラが現れた。

 森から出ていないためアクアはわからないが、この男が装備している防具などは現段階ではかなり上等なものであった。

 こってこての重戦士といわんばかりの鎧の男。右手には大きな斧、左手には腕に嵌めるタイプの盾を装備している。

 そしてその盾は決して斧を使用するのに邪魔をしない。実に考えらえた装備だった。


「嬢ちゃんがアレの使い手だよな。そして、第一次予選ではB3にいた嬢ちゃんだな。」


 アクアは目線を動かし他のプレイヤーを警戒する。


「あぁ、他のプレイヤーを気にしてるのか?安心しろ。俺がここに来るまでの間に屠っておいた。」


 男の言う通り、モニターにはアクアとこの男の名前しか残っていなかった。


 アクアの聖絶発動から5人の生存が分かり、この男がアクアの前に現れるまでは、ティキンラーメンが完成するまでの時間も経過していない。


「これでも攻略最前線組なんだがな、世界は広い。だからこそ面白い。こんな強者が名前も知れずに存在しているんだからなぁ!」


「そして……可愛い。」


 会場中から音声が失われる。言われたアクアも「は?」という表情で固まっていた。


 仮面してるのに顔わからんだろというツッコミもなかった。


「俺は猛る燕帝えんてい対馬九郎つば・くろうだ。ちなみに『つしま』じゃねぇ。」


「お嬢ちゃん、この戦いが終わったら俺(達)のところにこないか?」


「おーっと、ここでまさかのナンパだぁぁぁぁぁぁぁぁ。そういうのは試合が終わってからにしていただきたいぃぃぃっ!」


 ミノ氏が大絶叫でアナウンスしている。


 現在クランなどは実装されていないが、実装された時を見越して既に自分達の集団に名前を付けているグループは多数存在する。

 主に攻略組にその傾向にあるのだが、今のは言葉が足らなかっただけで、ただのクラン勧誘だったのである。


 対馬は歩き始め、アクアの方へと進んで行く。

 戦闘体勢は一度解いているため、握手でもしようとしているのだろう。


 しかし、そんな対馬の意図など本人以外に理解出来るはずもない。


「ひぃっ。」


 アクアは対馬のナンパ言葉勧誘に背筋から冷や汗が流れるのを感じた。

 対馬がどうこういうわけではないのだが、アクアはこういう事に対して免疫がない。

 故にただ単純に恐怖だった。


 だから……


 アクアは自重をしなかった。



「こっちへこないでっ!ヘンタイッ!水没ッ!」


 アクアが両手を前に出すと突然大量のが会場を覆う。

 

 同時にアクアの右手に装備してある指輪が光る。


 これが闘技会場でなければ、周囲への被害を懸念したバリアが張られていなければ惨劇は起きなかっただろう。


 アクアが水魔法によって放出した大量の水は、試合会場中を覆い尽くす。


「がぼぼあぼあぼあおばおばおぼ……」


 対馬が水に埋まり3分……ちょうどカップ麺が食べられる時間が経過すると試合の決着がついた事をモニターで確認出来た。


 対馬九郎……溺死。(あくまでこの試合の結果)


 アクアは水の精霊なので、寧ろ水没した現闘技場の状態は庭であり独壇場である。

 対馬が溺死していなかったとしても、マウントはアクアに存在していた。


「H3の勝者はァ、アクア選手ゥ!」


 ミノは一応仕事をこなしていた。



 この試合を見ていた観戦者達によって二つの二つ名が出来上がっていた。


 一つは【ロリコン対馬九郎】、そしてもう一つは……



【水滅のアクア】


 聖絶と違い、誰の目にも見える水はあまりにも強烈だったのである。

 以降、ロリコンには【水に沈んで死ねば良いのに。】と返される事が増えたとか。

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