第47話 知らずにラマン商会

「第二次予選は午後、多分夕方だよね。」


 イベント中ログアウトする事は可能である。

 その場合再ログインする時には、イベントに向かうか向かわないかの選択肢から選ぶことになる。

 第二次予選に進んだ者は、自分の試合の時にログインして尚且闘技場都市に居ないと、不戦敗となるので注意が必要である。


「今日はこのままインしておきます。」


「そうだねー。迷子探しでそんなに街を探検出来てないし。」


 闘技場都市の中心に最初皆が集められた大闘技場はあった。

 大闘技場を中心に東西南北に聖地された各施設が並んでいた。


 マロン達は一度解散した後に、南側へ向かいその先でアーリンと出逢った。

 露天はイベント中は東西南北大体どこに向かっても並んでいるが、普段はそれぞれ●●街のように分けられている。


 南は庶民街と呼ばれ、一般的な住宅や様々な店が多く並んでいる。

 噴水も南側エリアのものであり、その先には城門があり街の外に出る事が出来る。


 残念ながらイベント中は外に出る事は叶わないが、イベント終了後はここから外に出る事が可能である。


 つまりは、冒険出来るエリアが増えるのである。

 城門や城壁が高いため、外がどうなっているかすら確認出来ないのは残念であるが、月曜日になれば外出が可能になるのだから誰も不満は漏らしていない。


 北側は貴族街となっており、色々と高級感漂う街並みとなっている。

 これまた街の外と同じで、イベント中は入る事が出来ない。

 厳しい門兵たちによって取り締まられている。


 ここはイベント終了後もおいそれと立ち入る事は出来ない。

 クエストの匂いがプンプンである。


 西は軍事街となっており、主に軍の主要施設や教育機関等がある。

 ただ、西以外にも駐屯地はあり、各地域の治安は維持していた。


 東は主に学校や商業区のようになっている。

 冒険者ギルドなどはこの商業区の中に存在していた。

 

 貴族街は一軒が無駄に大きく、土地を広く利用している。


 一般人の半分以下しか存在しないのに、倍以上の土地を使っているのだからその無駄は明らかであった。

 しかしそれはどこの世界の貴族も似たようなもので、金と権力の前には仕方のない事だった。

 

 その代わり、この闘技イベントのお金は貴族が提供している事になっている。

 賞金や賞品のお金の出どころは国や貴族のポケットからである。


 しかし、このイベントのために様々な店を出店し、外からも人が集まるため外貨も含めかなりのお金が動くため、結果的にはみんなが美味しい思いを出来るというわけだった。


 

「たこ焼きうま~」


 結局屋台で買ったたこ焼きを再度噴水の縁に腰を掛けて食べていた。


 ちなみにお金の存在を失念しているマロンとアクアは、トリスにツケという形で済ませている。


 トリスとしても装備を充実させてくれたりしていたので、別に良いという感じではあった。


 マロン達は顔バレ防止のため、口元だけ開いている仮面に変更していた。

 

 新しい仮面を取り出した時、「あんた、一体どれだけ作ったのさ。」とトリスからツッコミを受けていた。


 

【16時から第二次予選を開始します。一度ログアウトされる方は時間までにログインしていただきますようお願いします。】


 マロン達の脳内アナウンスに第二次予選の告知が流れた。時間までにログインしなければ不戦敗という事だった。



「まだまだ時間あるね。北の貴族街はいけないからこのまま東側行ってみようか、露店とは違うお店があるだろうし。」


 マロンの提案に二人は賛成する。

 仮面の力か、仲間がいるという強みか、かなり人酔いなどは感じられなくなっていた。


 露店とは違う、普通の商店に片っ端から入ってみる。


「へぇ、ポーション(弱)が1本で500モエかぁ……モエ?」


 マロンが通貨について今更ながら気付き、その名称に驚いていた。


「あぁ、うん。モエ。ニューワールドの国際通貨はモエだよ。」


「感覚的にはポーション(弱)1本5千円って感じかな。そこそこの宿1泊も同じくらい。ちなみにたこ焼きは20モエでチョコバナナは15モエだよ。」


「ポーションが高いと感じるならば、それはきっと薬師などのポーション作製出来る全体数が少ないのかもね。」


 トリスが通貨やポーション事情について説明する。


 工程が難しくてもきっちり確立出来て設備等が整っていれば、ビールや味噌のように専門知識等は必要だとしても様々な人が作製出来るはずである。


「魔力やスキルが関わって来る以上、地球と同じ考えは通じないのかもね。それと、そういうのってギルドとか協会とかの利権とかが絡んでるかも知れないし。」



「ど、どの世界も一部の権力者が美味い汁啜ってるですか。」


 アクアのツッコミは元も子もない。否定出来ないだけに、どう返していいのかマロンもトリスも苦笑いが精一杯だった。


「安定した供給が出来ればもう少し売値は下げられそうだね。原価とか利益がどうとか考えなければ。」

 

「マロンが製作者となれば、超安価で売っても売れるだけ利益でしかないけどね。尤も、媚薬効果入りになっちゃうけど。」


「それね。気長にがんばるよ。」


 マロンはその後も製作を怠ってはおらず、今では(弱)で最低100前後回復する。

 当初の20~100の粋はとっくに脱していたのである。

 そのため、ポーション(弱)となっているのに説明には100前後回復と変更されていた。

 もっとも媚薬効果(弱)も健在ではある。


 このマロン印の媚薬効果入りポーションではあるが、冒険者には需要がなさそうだがある特定の分野では役に立つ。

 既にフラグは立っている。後はその時が来るだけなのだが、もちろん現在のマロンは知らない。

 運営も想像していない。


 誰が闘技場イベントでクエスト発生させて、それをきちんと達成してしまうと想像しようか。

 第一段階だけならともかくである。


 市販されているポーション(弱)の説明にはやはり20~100の回復となっている。

 マロン製作のものは同じ(弱)でも100前後となっているのだけれど。


 それは既に別のアイテムという扱いでもあった。


 ある店に入った時、マロンは商品の前で立ち止まる。


「あ、ビーズとかあるんだ。あ、テグスもある。」


 地球にあるような小さなサイズはないが、小指の爪よりは小さなサイズから親指大くらいまでいろいろ揃っていた。


「羽織紐とか作れそうだ。」


 マロンはビーズに使っている石を付与効果のある石で製作すれば、それだけで立派なアイテムになると考えていた。

 ゲーム内では、抑ファンタジー世界ではドレスやスーツはあっても、着物の類は殆ど見かける事はない。

 正月限定がちゃとかで追加衣装として登場するくらいである。


「お嬢ちゃん、お目が高いね。それ魔除け効果のある石だよ。そっちのは精神安定効果のある石だしそっちは……」


 店員の女性がやってきて突然マロンに話しかける。

 

「ん?」

 

 マロンは初対面であるはずだが、見た事あるような人物に既視感を覚えた。

 マロンの見た感じでは、午前中に出会ったムルより少しだけ年上くらいだろうか。

 15~6歳の少女に見えた。

 

「色々効果が付いてるから少し値段は張るけど、身近なアクセサリーに付けられますしいくつかどうです?」


 マロンは値段を見て吃驚する。石一個でポーション(弱)がいくつも買えると。


「えっと、お金あまりないので物々交換でも良いですか?」


「……基本的にはダメですが……ちなみに何と交換しようと思ってます?」


 それは値段が釣り合うなら交渉の余地はあるよと言っているようにも受け取れた。

 

 マロンはここで少し冒険に出る。


「このポーション……3本で石一個はどう?」


 店員は手渡されたポーションを見ている。

 恐らく鑑定の類を掛けているのだろう、凝視していた。


「ナニコレ……この街で市販されてるものじゃないよね。」


「1本試飲しても良い?良いよね。答えは聞く前に飲んじゃうけど。」


 んぐんぐと封を開けて飲み干す店員。


「んまーい。そしてなんか変な気分……あぁお嬢ちゃん可愛いねえ。」


 仮面をしているのに可愛いもクソもない。たこ焼きを食べたりしていたので口元だけは開いている仮面ではあるのだが。


「抱きしめちゃうっ。」


「にょわっ。」


 宣言通りがっつりとホールドする店員の女。



「ちょっ、やめなさい!」


 別の店員がやってきてマロンに抱き付く店員を引き放そうとする。

 この店員は別の場所でトリスと会話をしていたのだが、声が聞こえたのでその方向に目線をやるとマロンに抱き付く同僚の姿があったというわけだった。


「きゃわいこちゃん私のピーをピーしてー。」


「ちょっ、マロン!」


 マロンを引き剝がすトリス、アクアはあわあわしていておろおろしていた。






「申し訳ございませんでした。」


 別室に案内され、先程の駆けつけてきた店員が謝罪をする。

 件の店員はロープで縛られ床に転がされていた。まだ媚薬の効果が切れていなかった。

 お股をモジモジとさせているのでそれは明らかだった。


「まぁアレを出したのは私ですし、いいですけど。」


「そういうわけにも参りません、このラマン商会の信頼に関わってきます。」


 ラマン商会という言葉に聞き覚えがあった。それもそのはず、午前中にクエスト達成のアナウンスで聞いていたのだから。


「ラマン商会?」


「あら、当商会を御存じない?もしかして、闘技大会があるからこの都市に来られた遠方の方達でしたか。」


 NPCには闘技大会には多様な種族が来訪する事を知っている。

 そういうものだとプログラムされているのだから当然であるのだが。


 そしてこういう都市だから、他の都市に比べて住んでいる住人の他種族性も多い。

 そのため外国からとかは気にしていないのである。


「この都市で1・2を争う規模の商会だと自負させております。色々な商店を取りまとめております。」


「申し遅れましたが、私はミーツェ・ラマンと申します。こちらの簀巻きになってるのはアロマ・ラマンと申します。」


「ラマン商会とは先祖が興した商会であり、当代は私達の父となります。そして3人の妻がおりまして、私とアロマは異母姉妹という事になります。」


 ミーツェは17歳、アロマは15歳との事。ミーツェの母は宝石・アクセサリー部門、アロマの母は服飾・繊維部門の取り纏めを行っているとの事。


「今回はご迷惑をおかけしました補填としまして、先程お手に取っておられた石二つとテグスをサービスさせていただきます。」


「流石にそれは……ポーション自体は私が出したものですし。」


「いえいえ。そういうわけにはいきません。お客様が勝手に暴れたというのなら話は別ですが、鑑定してどういうものかを視た上で試飲をあの場でして起こした事ですから、100%%こちらに非があります。」


 ミーツェの言う事は商売人としては尤もである。中長期的に見てこうした事の積み重ねが大きな信頼、ひいては将来の商売にまで関わって来る。

 



「その代わり、良い商品だなと感じましたら今後とも御贔屓にお願いします。」


 ミーツェもしっかりちゃっかりはしている。少なくともマロンの意識の中にラマン商会という文字が脳裏を過る事になるからだ。


「それなら、ポーション5本出すのであと3つ石をどうにか出来ませんか?大きさは同じ小指の爪サイズので統一したいのですが。」


「まいどあり!商談成立よ。」


 ミーツェはポーションの有用性に何か気付いたようである。

 色々な商店を持つ大きな商会だからこその有用性だろう。


 再び店内に戻り、マロンは3つの石を選ぶ。トリスとアクアは後ろから見ているだけに留めていた。



「ミーツェさん。あのポーションの使い道は?」


「それは……ひ・み・つ・デス。」


「ですよねー。」



 店を出て一歩目を踏み出すと脳内にお馴染みのアナウンスがマロンの脳を刺激する。



【ラマン商会との面会を達成しました。】


 やった覚えのないクエスト完了のアナウンスが流れた。


「ってか私にもアナウンス流れたけど?」


「わ、私もです。」


 どうやらマロンだけでなく、トリスとアクアにも商人への道が続いているようだった。



【A3グループの皆様、転移2分前となります。】


「おぉ、第二次予選の転移アナウンスきた。」


【C3グループの皆様、転移2分前となります。】


「あれ、私にも来たよー。」


【H3グループの皆様、転移2分前となります。】


「私にも来ました。」


 第一次予選と同じように、ほぼ同時に案内のアナウンスが3人に響いた。

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