第44話 開会式?

「ってわぁぁあぁっ」


 突然大勢の人の中に転送されたマロン達。

 周りには人・人・魔物……と様々な種族のプレイヤーで溢れていた。


「あ、もうだめ……漏れそう。」


 お股からではない、人の多さに酔ってしまい気持ち悪くなってきたのである。


 つまりは嘔吐まで時間がないと言いたいのであった。


「そういうのはバッドステータスとか防ぐとかの概念はないんだ。」


 トリスからのツッコミが掛かる。トリスがマロンの方向へ目を向けるとアクアも同じように苦しみ悶え掛けていた。


「ほらほら、気持ち悪くな~い。気持ち悪くな~い。」


 トリスがマロンとアクアを向かい合わせ、二人の背中を擦っている。


 仮面の幼女が仮面の幼女をあやすその様子は、周囲の人達の目線を集めるには充分だった。



「うおっ小さい子が小さい子をあやしてるっ。」


「なにあれっ可愛い~。」


「尊い……」


 声を拾い上げればキリはないのだが、半径3m以内には近付いては来なかった。



「うおっほん。えーお集まりのプレイヤーの皆さん。本日はお日柄も良く~。」


 運営と思われる司会進行っぽい音声が、スピーカーに乗って周囲に響いたためである。


 トリスが首と視線を動かしざっと見渡す限り、数えきれないほどのプレイヤー達。

 色々な種族がいる事が窺えた。


 マロンの中学時代を知るトリスは、これだけの多くの人がいる中で良く耐えていると感心している程である。


 マロンが作った仮面は少なからず役に立っているという事でもあった。


(こんな状況なのに本当に友達100人作るつもりかしら……)


 背中をさすりながらトリスはマロンを見つめていた。



「事前告知を読んだ人も読んでない人も説明は一度しかしませんのであしからず。」


 野球場で言うところのバックスクリーンに位置するところには巨大スクリーンがあった。

 そのスクリーンに映し出されたのは、司会進行者と思わ識ちょび髭の紳士……

 名付けるなら、ダントツ第一位に「セバスチャン」が連想されるその容姿。

 髭を右手で弄ってからその紳士は姿勢を正した。


「私の司会でありこの第一回闘技大会実行委員長を務めさせていただきます、【孫竹刀ソン・シナイ】と申します。」


(どう考えても偽名ね。)


 トリスは孫の自己紹介で一瞬で判断した。孫は兎も角、竹刀はないだろうと。


「まず皆様には40人1グループで予選を行っていただきます。既に皆さまにはこの大闘技場に集められた際に番号が振られております。」


 当初は25人1グループの予定であったが、参加数があまりにも多過ぎたため1グループは40人となった。

 そこで勝ち抜いた1名が第二次予選へと進むのは変わらない。


「種族も性別も職種に贔屓も忖度もありません。あるのはフレンドとは違うブロックになるべく分散されているという事くらいでしょう。」


 孫は髭を撫でながら説明を続ける。

 マイクで通された声は場内のざわめきを通り越し、全てのプレイヤーの耳に入っている。

 それはたとえ耳のないキャラであっても……


 参加者はこの大闘技場に転移されてきた時、左腕に腕輪が装着されている。

 そこにアルファベットと数字が刻印されており、それがそのプレイヤーのブロック名を表している。


 ほぼ同じ時間にイベント登録をしたが、マロンはS3、トリスはM3、アクアはB3のブロックに振り分けられている。

 


 40人1グループ、AからZで1セット。40×26で1040人。

 それがちょうど26セットで27,022人。最後の26セット目だけは39人のグループが18グループ存在する。


 今回の第一回闘技大会イベントにエントリーしたのは全40,000人のプレイヤーのうち27,022人の参加となった。

 仕事や学業で参加出来ない者、自信がなくて見送った者等様々ではあるが、約67%の参加となった。


 何の因果か、マロン達は数字の3が示す通り3セット目の出番となる。


 AからZの26会場が同時に予選開始され、数字の1から順番に26番まで行われる。


 一つの会場の試合時間は20分までとなってる。


 予選会場となる闘技場は、田舎の高校のグラウンドくらいの広さ。


 野球場がぎりぎり2面取れないくらいの広さである。


 そして各闘技場には周囲への被害防止のために特殊なバリアで覆われている。


 物理も魔法も通さない特殊なバリアである。


 そして試合時間の半分である10分を超えると、徐々に闘技場の周囲に張り巡らせてあるバリアが小さくなり、徐々に中心へと向かってくるようになっている。


 予選終了5分前に至ると、ポートボールのコートくらいの広さまで縮小される。


 裏を返せばさっさと決着つけろ、後が閊えてるんだよという事である。



「アイテムの持ち込みはストレージに入ってるものを含めて全て許可します。その代わり消費アイテムは当然使えば消費しますし、武器や防具も破損や変形すれば当然劣化もします。」



 スキルについては何の説明もなく、それは好きに使って良いという解釈にもとれるため、誰も質問はしなかった。


「身近にいる人と協力しても良し、一人で延々と倒しに帆走するのも良し、何はともあれまずはブロック内の1人に残れるよう健闘願います。」


「そして各ブロックの勝ち残りの方々676名による第二次予選もまた……42名から43名に分かれたバトルロワイヤルとさせていただきます。」


「第二次予選を勝ち抜いた16名が本戦である決勝トーナメントに出場となります。」


「なお、本日第一、第二予選を行い、16名のトーナメント抽選までを行います。そして明日10時から決勝トーナメントをここ大闘技場で執り行います。」


「残念ながら、明日の本戦に都合で参加出来ない場合、1回戦に限り補欠出場とさせていただきます。」


 補欠については本戦に登場予定だった第二次予選の同じブロックの第2位の者が選出される。

 強さなど対比出来る判断材料が曖昧となってしまう事を懸念して、公平を期すため、そして時間短縮のためそのような選出方法となった。

 ちなみに2位の人が参加不可能な場合は、3位4位と同じブロックの次点候補者へとその権利は譲渡される。


 流石に同じブロック16人全員が翌日参加不可能という事は考えにくい。

 万一そのような事があれば、その一回戦のブロックは参加しているプレイヤーの不戦勝となる。  


「優勝賞金や優勝賞品は時間のある時に、大会注意事項をご確認ください。別に確認しなくても問題はありません。」



「言い忘れておりました。闘技場で戦っていない時はこの闘技場都市を自由に探索して堪能なさってください。」


「公平を期すため、本大会中は当都市内での武器やアイテム、新しいスキルの取得は不可能となっております。」


「その代わり、イベント終了後は告知してあります通り、この都市とのみ転移可能となります。その時のための下調べや人脈作り等ご自由になさってください。」


 様々な場所を確認するも良し、NPCと仲良くするのも良し、他プレイヤーと会話するのも良し、物品の相場を調べるのも良し。

 時間は有用に、また自由に使って良いのである。


「それでは、ニューワールド『第一回闘技大会』開催を宣言します。A1~Z1のグループの方は闘技場に転移しますのでご注意を。試合開始は転移完了してから5分後となります。」


 2グループ以降は前のグループの試合終了後2分経過するとアナウンスが脳内に鳴り響く。

 そして闘技場に転移し、以降は転移から2分後に試合が開始される。


 なお、事前告知や注意事項には記載がされているのだが、この大会は実は賭け対象となっている。


 馬券売り場や車券売り場のようなものが、各会場にいくつも設置してあり勝者予想券が購入出来る。


 倍率は運営が自動計算で決めている。これも告知されているのだが、一番小さいステータス数値を元に決められる。


 本戦については競馬や競輪と同じである。賭ける金額が多い対象者の倍率は低くなる。


 今回は残念ながら単勝のみであるが、システムが今後構築されていけば1番2番を当てるような連番等も対応していく予定ではあるようだ。



 最初の1グループ目の人達の姿が消える。


 トリスはマロンとアクアを連れて人込みから出来るだけ離れるため、二人の手を繋いでその場を離れた。


「マロン、アクア。予選はサクっと終わらせるよ。じゃないと二人共人酔いをまた発症させちゃうでしょ?」


 マロンとアクアは無言で頷いた。トリスがサクっと終わらせると言った方法は確立している。アレを使って第一次予選は速攻終わらせるよと言う事である。


 マロンもアクアも対人、特に異性に対して免疫がない。

 マロンは単純に過去の苦しみからくる恐怖。アクアは友人すらいなかったため単純に人が恐怖。


 湖で出会った時、マロンとトリスに対してはよく平気だったなという程の対人力であるが、アクアはこの先大丈夫であろうか。


 少し落ち着きを取り戻したマロン達は闘技場都市内を歩く。

 人の少なそうなところへと向かう。


 暫く歩くと露天が道の左右に広がっている。

 果物や串焼きなど、お祭りで良く見かけるようなラインナップである。


 マロンがしているようなお面も何故か売っているお店があった。しかしトリスはツッコミは入れない。


 周辺のお店の様子を見るゆとりが出来た頃、まばらな人の中から小さな子供が小さな歩幅を駆使して駆け出していた。

 きょろきょろ見渡しながら走っている事から迷子である可能性は高い。

 すると、子供は何かに躓いたのか地面にペタッと倒れてしまう。


「いたっ、うぇえぇぇえぇえぇぇんっいたいよぉぉぉ。」


 小さな子供の声が響く。マロン達の数m先での出来事だった。


 周囲にマロン達以外の人はいないわけではないが、闘技イベントに集中するプレイヤー達は見向きもしない。露天からは「大丈夫か?」という声が掛けられる。

 喧噪に紛れて聞こえないというのもあるかもしれないが。


 マロンが顔を子供の方へ向けると、其処には推定3歳程度の女の子が、膝を押さえて座って泣いていた。


 推移年齢と性別については、スカートを穿いている事から女の子と判断するのが妥当だろう。。

 世の中には男の子にスカートを穿かせる肉親もいるため、パンパンしてみるまでははっきりとはわからないが。


 マロンは流石にパンパンはしないが、駆け寄ると女の子の肩に手を置いて声を掛ける。


「大丈夫?」


 仮面を付けたままのマロンの顔が女の子の眼前に姿を現す。


「ひぃっ。」


 女の子(仮)はマロンを見て悲鳴を上げた。


「あぁごめんごめん。仮面じゃ怖いよね。」


 マロンは仮面を持ち上げ頭に装着する。


「どうしたの?足擦りむいちゃった?」


 小さく頷いて女の子は泣き続けている。


「うぅぅ。ひじゃ……いたいにょ。」


 どうにか痛い箇所をマロンに伝える。推定3歳にしては良く返事が出来ていた。

 

 マロンにはこの子の親はどこにいるんだろうか、という考えは現状浮かんではこない。

 まずは女の子の痛みをどうにかしないといけないと思い、ストレージから見慣れたポーション瓶を取り出した。


「そう。じゃぁいたいのいたいのとんでけ~♪」


 マロンは催淫効果のないはずのポーションを傷口に振りかける。

 

 ニューゲームにおけるポーションであるが……傷口に振りかけても、経口摂取しても効果の程は変化はない。


 そのためマロンはてっとり早く膝に振りかける事にした。


 催淫効果を限りなくゼロにするため、ポーションそのものはかなり薄められている。

 そのため回復効果も当然低下していた。


「傷は大丈夫だと思うけど、念のためこれを巻いてばい菌が入らないようにするね。」


 マロンが昨晩練習で染めた布……桜色、灰色、ピンク色、茶色、紫色のラインが入った布を巻きつけた。


「うわぁ綺麗。それにもういちゃくにゃい。おねーちゃんありがとう。」



【『闘技場クエスト・アーリンの痛み』をクリアしました。】

【初めてのクエストをクリアしました。】

【称号:幼女キラーを取得しました。】


【『闘技場クエスト・迷子のアーリン』が発令しました。】



「は?」


 安定のアナウンスにマロンの口は空いたままになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る