第42話 リベンジマッチ(触手トレント編)
「こーんにーちはー!」
マロンは50歳でM-1チャンピオンになった、おじさん芸人のようなあいさつで触手トレントに近付いた。
当然ザワザワと相手からは返って来る。
「今は昼だけど態々声高く必要があるのかよっ」
パンっとマロンの頭を叩くトリス。
「どうもー!触手トレントさーん。この前のリベンジに来ました。」
律儀に説明をするマロン。一応の礼儀とでも言いたいのか。ただし、身バレ防止のためか名前は名乗らない。
マロンの言葉に反応して、触手となっている枝がザワザワと動き始める。
その姿は頭を除き、魔王マーラ様を連想させる。
「一応タイマンって事でお願いします。」
マロンはまだ距離が若干あるからか、丁寧にお辞儀をした。
幼女のお辞儀……尊いと声が聞こえた気がしている、後方待機をしているトリスとアクアの二人。
右手に初期装備である扇子を掴むと、マロンなりのファイティングポーズを取る。
「貞操の恨みっ思い知れっ。」
トストストスと敏捷の低いマロンは走ってはいるが、ゆっくりとトレントに近付いていく。
当然、やられたくはない触手トレントは枝を駆使してマロンを牽制しようとする。
「ふんっ」
パシンっと右手の扇子で枝を弾く。実際の効果音は「ボグゥッ」であったが。
「ぎゃんっ」
触手から鳴き声が漏れる。
それもそのはず、枝はあらぬ方向に折れ曲がっていた。
ペンギンの羽ではないが、枝に骨があるとするならば……これはまごうことなき骨折である。
マロンは自分に襲い掛かる枝という枝を扇子で全て弾いていく。
マロンの記憶が正しければ、この扇子は魅力に依存して攻撃ダメージとなる。
そこに筋力の上乗せが若干のプラスに働いているにはいるのだが……それは既に微々たるものでしかなく。
1000を超える魅力値は鬼のような攻撃力へと変換されていた。
「なんか、可哀想なくらいマロンが圧倒してるねー。」
「はわわ……怒らせるとマロンさんオーガです。」
「背中に鬼が住んでるかもねー。」
などと外野で念のため見守っているトリスとアクアは解説そっちのけで感想を述べている。
「まぁマロンの攻撃力は魅力に依存するみたいだから、多分単純な攻撃力という意味では今ゲームしてる人の中でナンバー1だと思うよ。」
トリスの発言は中々に衝撃的なものである。
しかしアクアの反応は存外にさっぱりしたものであった。
「そ、そうなんですか?」
この場にいる存在しか知らないので、この3人基準でしか計るものがないからである。
「アクアは掲示板とか見ない?」
アクアはふるふると首を横に振る。アクアは友達がいないためそういった事に疎いし恐怖を抱いている。
どこかに自分の悪口が書いてあるのではないかと思うと、怖くて手が出せないとの事である。
マロンは攻略などの情報を不用意に入手する事を懸念して、アクアは目に見えない対人に恐怖して掲示板とは縁がなかった。
「攻略組のトップクラスでもまだ4桁なんて聞いた事もないよ。それどころか3桁すらいるかどうか……」
アクアは「そうなんですね。」としか返せない。
そうこう話をしている間にも、触手トレントの枝はどんどんと折れ曲がっていく。
これをもし人間に変換するならば……悶死ものではないだろうか。
全体的にしおしおとしだしている、主たる幹が頭を垂れるようにしだれてくる。
「乙女の痛みー思い知れー!」
マロンはノリノリで右手に電動こけしを装着した。
そしてこの電動こけしは少し違う。
マロンの改善により、振動は上下方向前後方向となった。
それはつまり……
「電動こけしぃピストン豪!」
マロンが触手トレントの根っこ部分……人で言うところの股間部分にピストン豪を突き刺した。
ちなみにピストン豪とはマロンが名付けた名称であり、誤字や勢いではない。
「らめぇぇぇえぇ」
全員が想像とは違った声が触手トレントから発せられる。
彼か彼女かわからないが、その声はとても綺麗なファルセットだった。
マロンは右手をさらに押し込んでいき……
「でぃえす……いれっ!」
直訳すると、「怒りの日」と叫んだマロンであるが、口調的には「なんて日だっ!」のノリであった。
大量の樹液を周囲にばら撒き、マロンはそのほとんどをその身に浴びてしまう。
「うえぇぇ、無味無臭だけど……」
「なんだか物凄く卑猥だねー。」
トリスがツッコミを入れる。樹液の潮吹きとトリスは心の中で思考していた。
人に当たる股間の部分から間欠泉のように大量の無味無臭の樹液。
純真無垢でなければ、卑猥な想像をしても仕方ない。
そうでなければエメラルドなスプラッシュとでも漏らしてしまいそうである。
そして案の定、マロンは脳内に響いた音声で称号と効果を確認する。
【称号:真なるリベンジャーを取得しました。】
※真なるリベンジャー(初級闇魔法レベル5UP、闇耐性(中)、魅力+50)
「姿が一時的に消えたね。やっぱりプレイヤーだったんだ。」
「それで、仕返しの済んだマロンはこの後どうするの?」
汁塗れのマロンの肩に右手を置いて確認する。
「イベントは明日だからね。装備かアイテムを少し作って早めに寝るよ。」
「私もそうします。敏捷が心もとないので少しでも上がるもの作っておきたいので。」
敏捷が少ないのはマロンも同じで、心配の種としては尽きなかった。
全てが未知であるため、どれだけ準備をしても足りない気がするのである。
マロンが直前に修行とその集大成としてのリベンジを思いついたのも、事前準備に他ならない。
イベントの申し込み自体はホーム画面を起動させると、誘導されて簡単に登録が可能である。
前日の24時まで、つまりはあと数時間は参加登録が可能であり、既にマロン達はここに出発する前に登録だけは済ませている。
今現在の参加数は告知され、大体何ブロックになるかなどの予想は立てられている。
最大25人前後1グループによるバトルロワイアルにて予選を行い、8人の本戦出場を決める。
なお、少ない人数のフレンド同士は同じブロックにならないように振り分けられるようになっている。
互い同士でしかフレンド登録をしていないマロン達は、間違いなく予選は別々となる。
「じゃぁせっかく素材も少し手に入ったし試しに何か作ってみましょうかね。」
時間もギリギリのため、思うようなものが出来なくても文句なしという事でマロンは工房で、アクアは錬成場で、トリスはクマーズやシンシア達と戯れた。
それぞれが好きな時間にログアウトし、イベント開始の1時間前に集合という事でそれぞれの道に着いた。
なお、リベンジを果たし小屋に戻ってきた、マロン達のレベルとステータス数値はこのようになった。
一部林業の寵児などで上がった値もあるが、称号やスキルレベルは今回割愛。
マロン達の敏捷値の低さは致命的である。鬼ごっこや缶蹴りをすれば延々と負け続けるだろう。だるまさんは転ぶ前に辿り着かれてしまうだろう。
ベランダに掛けた下着は盗まれ放題であろう。もっとも小屋に辿り付ける人物がいるかはかなり不透明であるし、クマーズやシンシア達がいるのだから、実際にはほぼ不可能ではあるが。
ちなみにクマーズ達はシンシア達にあっさりと受け入れられていた。
もふもふ仲間が増え、小屋の住人全員から即仲間として受け入れられていたのである。
●マロン
種族:ボディコニアン(幼体)
職業:治癒士
139cm 29kg
レベル:15 → 19
HP:489/489 265 → 489
MP:313/313 229 → 313
筋力: 56
体力: 56
知性: 78 78 → 80
敏捷 7
器用: 102(装備+30)
魔力: 20 20 → 22
魅力:1312(装備+95)
手動振り分けステータスポイント 85
※マロンは知性(奇数レベル時)と魔力(偶数レベル時)が1ずつ上がる。
●トリス
種族:エロフ
職業:射手見習い(進化先最終候補:星屑の射手)
134cm 32kg
レベル:13 → 17
HP: 464/464 340 → 464
MP:2105/2105 1435 → 2105
筋力: 62(装備+5) 62 → 66
体力: 31(装備+30)
知性: 45(装備+10)
敏捷: 11(装備+40)
器用: 80(装備+5) 80 → 88
魔力: 160(装備+60) 160 → 180
魅力: 250
手動振り分けステータスポイント 75
※トリスはレベルアップ時に魔力+5、筋力+1プラスされ、器用が1~5ランダムにプラスされる。
アクア
種族:水の精霊
職業:錬成師
155cm 32g(実体化時43kg)
好きな曲:ぼくは32グラム(歌:岩男潤子)
レベル:5 → 11
HP:216/216 120 → 216
MP:760/760 370 → 760
筋力: 38(装備+20)
体力: 16(装備+5)
知性: 57(装備+10) 45 → 57
敏捷: 4(装備+5)
器用: 77(装備+30) 65 → 77
魔力: 72(装備+5) 60 → 72
魅力:122(装備+60)
手動振り分けステータスポイント 55(未振り分け)
※アクアはレベルアップ時、種族特性・職業特性により知性・器用・魔力が2ずつ上昇する。
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