第41話 クマーズ

 全裸土下座のアルティオと別れ、小山の入り口に戻ってきたマロン達。


 今度こそ魔物と戦おうという事で、探索を続けた。


「魔物も家で寝てるのかな。」


 マロンがそうぼやくくらいにはエンカントしないのである。


「逆に言えば、エンカウントしまくりな方が、森に住む者としてはそれはそれで不安にならない?」


 トリスの言い分ももっともではある。


 一行は小山を出た後もさらに北進していた。木々を掻き分けながら進めていくと、やっと魔物の影を発見する。


「あれは……熊?」


「熊クマね。」


「なんでやねんっ!」


 洒落を言うトリスに逆水平チョップを喰らわせるマロン。 

 しかしフレンドリーファイアのない設定のため、ダメージとしては通らない。

 現状での例外は闘技場などでの大会とか、友人バトル(修行)のみである。

 つまり第一回イベントまでは互いの攻撃はただのエフェクトにしかならないのであった。


「なな、なんか血が滴ってますよう。」


 熊の口からはおどろおどろしいまでの血が付着していた。


 熊の足元を見ると、シカのような魔物か動物かはわからないが、捕食されたと思わしき生き物の残骸があった。


「う~ん食事中だったのね。」


 トリスは冷静に状況を説明していた。


「ちょちょ、こここ、こわっこわいんですけど……そ、それと……ちょっとだけ漏ら……」


 一方アクアが恐怖とお漏らしを宣言していた。


「ってやつら、こっちを見てるんだけど。どうする?」


「さささ、三十六計逃げるに如かずっていいますよよよよっよ。」


 ガクガクガクと足が左右に開いては閉じてを繰り返すアクア。

 間からは何かが滴っている。


「やるしかないかもね。」


 マロンは何度も襲われる事で若干恐怖に対して耐性が出来ていたのか、迎え撃つ気満々である。


「うーん。未知の魔物4体を相手に数で劣る私達というのは、少し分が悪いかもね。」



「数の問題なら解決だよ。さっき洞穴で女神様から良いものを貰ったんだ。」


「なんだか嫌な予感……いや、良い予感なのかしら。」


 トリスがまたか……またマロンが何かヤりそうだと思っていた。


「それじゃぁ召喚するよー。シルベン!ブラウ!」


 マロンが右手を掲げると、マロンの前に黒いクマさんと白いクマさんが現れた。

 前方にいる4体の熊とは違い、なんとも愛くるしいクマさんである。


「ってそれはそれでアウトじゃないの?」


 トリスがマロンにツッコミをついに入れた。

 名前でNGが出るなら、シンシアの時点で警告が出ているので、恐らくはセーフだとマロンは思っている。


「大丈夫、私が寝ながら打てる弓を作らない限りは!」


 マロンも冷静にツッコミに返していた。


「それじゃぁ二人(?)共、あの凶悪そうな熊さんをやっつけてきて!ゴー!ジャパ~ンッ!」


 ペル●ナでも出てきそうな掛け声をかけると、召喚された黒と白のクマさんは熊に向かって走り出した。


 効果音があるならば、「ドスンドスン」なのだが、2体の足取りはとても軽やかで巨体である事を忘れてしまいそうである。


「きゅー」

「きゅっきゅー」


 とてもクマが出す声ではないのだが、可愛いのでマロンは聞き流した。

 「やっちまえー」「お嬢の言うとおりだー」とでも訳せば適当なのだろうか。


 その想像が真実であるかのように、シルベンとブラウと呼ばれた黒と白のクマさんの右手が光って唸った。


「きゅー!」


 シルベン(黒)が拳を奮うと、ドゴーンと手前にいた熊にクリティカルヒットし、吹き飛ばされた熊は後方の熊に直撃し吹っ飛んだ。

 文字通りスプラッターになって吹っ飛んだ……首から上が。


「きゅっきゅー!」


 ブラウ(白)が残った方の手前にいる熊に拳を奮うと同じようにもう一体を巻き込み吹き飛んだ。


 中々にショッキングな映像となるが、マロン達が命拾いしたのは事実である。


 マロン達には探知系のスキルはない。

 だから見逃していたのだが……


 シルベンとブラウの戦いに見惚れていると、マロン達の後方から昆虫型の魔物が襲来してくる。

 血の匂いに引き寄せられたのか、アクアのお漏らしに引き寄せられたのか、マロンの魅力に引き寄せられたのかは定かではない。


 羽音に気付いた時にはマロン達のすぐ傍までソレは来ていた。


「なにやつっ」


 クワガタが大きくなったような魔物が羽を広げて襲い掛かって来るところだった。


 

「まじかるしゅーっ」


 元々戦闘態勢ではあったが、瞬間的にトリスが魔法矢を打ち込む。

 羽に当たったのか、何かが当たりに飛び散る。


「れっぷぅせいけんづきぃ!」


 マロンが溜めた拳を突き出してクワガタの胴体に正拳突きを打ち込んだ。


「キテハァ!」

 

 人っぽい声を残してクワガタは霧散する。


「ちょっ、マロンあんたなんで物理でそんな事出来るのさ。」


 キャラクター製作当初、マロンに攻撃手段はなかった。

 最初に装備していた扇子はどこに行ったというやつである。


 しかし、これまでマロンは色々な称号等で筋力があがっていたため、とりあえずボコるを実行してみたとの事だった。

 だめだったらその時考える……つもりだった。


 シルベン達が熊とシカの残骸を引きずって、マロンの元へと戻って来る。

 それはそれで中々ホラーな光景であるが、マロンとトリスは気にしている様子はない。

 アクアだけはガクガクと震えている。


 首から上がなくなっているのは魔物であっても恐怖でしかない。

 アクアの反応が正しいのかもしれない。

 

「後で熊鍋だね。ってこれブラッディベアーって魔物なんだ。それにシカの魔物はウマシカなんだ……」


「それとクワガタはそのままクワガタマンなんだ。マンて事はオスって事なのかな。」


 シルベン達が引きずっている残骸を鑑定すると、魔物の名称が表示される。

 残念ながら死んでいるためステータスは確認出来ないのだが、シルベン達が倒した事とクワガタを倒した事でレベルが2も上がっていた。


 レベル差による補正なのか、特になにもしていないのだが仲間にも経験値が割り振られるのか、マロンとトリスが2上がったのに対しアクアは3もレベルが上がっていた。


「召喚獣だからテイムのシンシアと違うのかなと思ったけど、扱いは一緒みたい。経験値は貰えるって事なんだ。」


 しかしマロンはイベントの時にクマーズをいきなりだそうとは思っていなかった。

 自分の力だけでどうしようもなければ召喚しようかなと考える。


 それはシンシアに関しても同じだった。

 

 手の内は簡単に見せるな、奥の手を見せるならさらに奥の手を持てと、どこかで目にした事があるからだ。


「じゃぁ周辺を探索してみよう。」

 

 ブラッディベアーのような少し怖い魔物がいた時はクマーズに任せる事にする。


 アクアの心情が大変そうだというのが主である。


 しかしその後に現れた魔物は、マロンが出会ったマツタケもどきのような植物系が多く、ベアーズの出番はほとんどなかった。


 トリスは変わらず魔法矢による攻撃。これは属性を乗せる事が出来るため使い勝手は良い。


 懸念としては単純な火力(攻撃力)不足ではあるが、属性による優位性により多少はペイ出来る。


 マロンは基本的に踊るか拳で殴るの二択だった。4桁になる魅力に魅せられ寄ってきたところをドゴーン!である。


 自分自身では1すら振っていないのだが、既に50を超える筋力。


 そりゃ殴りたくもなるってものである。


 アクアは……


「こっちへこないでくださいっ!」


 中々にアクアのキョウチクトウの鞭が極悪であった。


 その鞭で打たれると毒を喰らい、然程時間を置かずして身体が痺れ、HP次第ではあるがやがて死に至る。


 アクアは自身の能力で自らの毒は受けない。つまりはどれだけこの鞭で攻撃しようとも、謝って燃えたとしてもその毒で死ぬ事はない。


 そしてもう一つの鞭、ツルニチソウの鞭であるが……


 身体に巻き付くとその繁殖力で身体から喰い破るように増える。


 まるで身体の中に在る血を栄養にしているかのように。


 もはやイメージとしてはなんとか白書の妖狐さんみたいである。


 熊撲滅の後、さらにマロンとトリスは1レベル上がり、アクアは3も上がった。


 この日だけでマロンとトリスは3、アクアは6もレベルが上がった事になる。


 攻撃に関しては3者3様ではあるが、中々の多様さを見せる事となった。


 問題は防御力であるが……


 誰も攻撃は喰らいたくないという事で、ぶっつけ本番で良いかという事になった。


 そして本日の集大成として、南西へと歩を進める。


 実際の位置関係としてはマロン牧場からほぼ真っ直ぐ西に向かった地点。


 つまりは例の触手トレントのいるであろう場所へと向かっていた。


「女神様からも仕返しのお許しを得たからね。」


 一応ピンチになりそうならトリスとアクアも手を出す算段となっている。


 場合によってはクマーズの2体も出撃可能である。


 それと全然触れて来なかったが、シンシアはイノブタ一家と一緒にマロン牧場の番をしていた。



「あ、あれかな。なんとなくそれっぽい。」


 周囲の木々とは姿形が違うため、それとなく10m程先に見える木が触手トレントだと言う事が分かる。


「リベンジマッチだね。もう私の貞操は二度と奪わせない!」

 

 マロンはヤる気に満ちていた。そしてこの場合のヤる気とは殺す気と書いてヤる気である。

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