第40話 全裸土下座の主は……

 森の緑を連想するやや緑かかった髪をしている全裸土下座の主。

 長い髪のせいで、身体の全てが見えているわけではなかった。

 それでも衣服を身に着けていないという事だけは、マロン達には確認出来た。


 土下座のため背面側しか確認は出来ないが、某スライムに転生するラノベに登場する、森の精霊を幼くしたような見た目だった。


「それで、あなたは……」


 最初に開口をしたのはマロン。何となく誰かと雰囲気の似ている事から微妙な親近感を覚えていたため、覚醒が早かった。

 もっとも、これまでに会った事のある人物などたかが知れているので、マロンがそれが何なのかは薄々気が付いていた。


「はっ。私の眷属こどもが貴女様に大変失礼かつ非道な事を致しまして……謝罪を……」


 何の事かわからずマロンが問いただすと……


「私の名前は、森の女神……アルティオです。一応別名義で林業の神も併せ以っております。」


 いやいや、あんたは別名熊の神でしょと、トリスは脳内で今でしょポーズでツッコミを入れていた。

 ハロウィンで馴染の深い、ケルトの神を調べればすぐに検索できる事ではある。


「貴女からは豊穣の女神、農業神でもあるオプスの気配を感じますし……多分に神に愛されて?ん?愛とは違う……まぁいいか。」


 この時、彼女は何かに気付いたがそれを口にする事はなかった。

 自分もその状態であると気付いたからである。


 神にも一応は暫定ステータスのようなものが設定されている。

 それは一度マロンがオプスの事を鑑定した事からも、神にもステータスがある事を示していた。

 

「それでですね。私は森の女神なので、眷属こどもとして木なんかも取り扱ってるんです。」


 子供を取り扱ってるとか言っちゃってるよこの女神様……とトリスは再度脳内でツッコミを入れる。


「その眷属こどもの一人が……その……貴女を……」


 そこまで言ってマロンとトリスは気付く。


 木を子供と良い、言い辛そうに恥ずかしそうに顔を赤らめて言い淀む女神の様子を見ていれば、あの触手トレントの事を指していると言う事に。


「あのハレンチトレントの事ですよね。」


「あ、ハイ。」


 トリスの問いにアルティオは答える。


「そういうわけで、大変失礼な事をしてしまいましたので、親である私が誠心誠意謝罪をと思いまして……」


「全裸土下座待機していたと?」


そういうことでございますいぐざくとりー。」


 森の神……林業の神には色々ある。当然神話の数だけ色々、それは国や地域が変われば神なんて人の数ほど存在する。


 今回の触手トレントの件を挙げれば、新潟県にある見附市の山の神は……性神としても祭られている。

 だからと言って、あのトレントがそれを受け継ぎ、象徴として触手……プレイというのはどうも話が飛躍し都合の良い解釈へとされてはいるが。

 まるでとってつけたような後付け設定のように取られようとも、実際起こった事を当てはめてみればあの触手トレントのやっていた行動は裏付けとも受け取れる。


 本当はただの触手プレイ好きなプレイヤーが、ランダム種族設定で得た種族なのだが……


「そういうわけで、オプスのように私からも……この場にいるお友達の皆様含めまして謝罪としまして対価をと思いまして。」



【称号:林業の寵児(森の女神の加護)を入手しました。】


 3人の脳内に響いた。


 林業の寵児のステータス補正は、筋力+20、体力+5、魅力+30であった。


 少しだけ農業の寵児より多いのは、謝罪の意味を込めたためだとアルティオから説明される。


 どうやら付与ポイントは各神の気まぐれのようだった。しかしどうやら一度与えるとその数値は変更出来ないようで、最終アンサーと言う事になる。

 オプスも別のところで、もう少し高めにしても良かったかもと思っているかもしれない。


 筋力を多めに付与しているのは、単純に木を伐採するのに必要だよね?という事である。


「あと、貴女……エリニュスにも好かれてるね。何となく気配を感じるよ。」


 とある神話で復讐の女神を意味するその名は……


 おそらくはマロンがトリスに仕返しをした事で何かのフラグ立て、若しくはフラグ回収となっていたのだろう。

 そして、マロンが最初に北に行った後西に行こうといった言葉……


 つまりはマロンは修行の最終成果発表として、既に奴を見据えていたのである。


 なんだか色々ごっちゃ混ぜだなとトリスは聞いてきて感じていた。

 結局名前なんてのは、現実や神話などから拝借する事が多い。

 元も子もない話ではあるが、それは致し方ない事でもあり本家を害さない程度に借用している作品は多い。


 女●転生シリーズあたりを参考にしているのではないかとトリスは睨んでいる。


 理由はマロンの種族にある。多くは思わないようにしているが、あんな種族他で見たことがあるだろうか。

 80年代90年代を青春時代に捧げた人達であればなんとなく想像出来るかも知れないが、平成後期以降に産まれた人にとってはナニソレという感じだろう。


 運営会社の人間にはあの年代にゲームをたくさんプレイした者がそこそこいるに違いないと、トリスは考えていた。


 抑、日本においても様々な分野で「和洋折衷」なんて言葉を使う時があるほど、異文化・多文化を取り入れている節がある。

 つまりはそれがゲーム内でも起きている……ただそれだけと言ってしまえばそれだけの話でもあった。 



 そして度重なる称号などから、着実にラスボスへのフラグが立っているな……トリスは思っているが口にはしない。

 それが事実と感じるには第一回のイベントが終われば、みな実感する事になるだろうなと思っているからである。



「あ、別に仕返しソレを成しても私は何も口を挟みません。本来であれば私達神は表に出る事がない存在のはずですから。」


「それに……『やられたらやり返せ、やられる前にヤレ。』これは生きとし生けるものの業というかサガですものね。」


 アルティオは続けて言った。


 神公認の復讐なので、マロンは修行の成果発表としての最終試練は確実なものとなった。


 終始全裸土下座で話していたアルティオは、顔を上げると満面の笑みでマロン達に微笑んだ。


(あ、女神様可愛いです。でも全裸……)


(女神様、可愛いけど……体型が私達と変わらない。)


(女神様なのに……胸がない。あと隠さないといけないところの毛も。) 


 アクア、トリス、マロンの心の内はこうだった。


 運営は恐らくは貧乳スキーが多い事が推測される。それはマロン達の誰一人として大きい人と出会った事がないからだ。


 辛うじて子持ちのイノブタであるイノ子が少しだけ丸みを帯びている程度である。

 しかしそれは育児のために少し張ったものがそのまま残ったと言わざるを得ない感じであった。


 純粋な巨大なお乳は現状確認出来てはいなかった。


「今度こそ狩りに……いくぞー!」



 そんなノリノリなマロンの脳内に響く声があった。


(あと、貴女にはこれを授けます。これらは森の守り手として存在しますので、戦力としても友人?としても役に立つでしょう。)


 マロンのストレージの中に見慣れない二つの存在があった。


は好きなタイミングでどうぞ。そして名前はお好きにつけてください。)


 マロンが脳内でイメージをすると、それらが召喚獣である事を理解する。

 そしてそのシルエットがどう見ても……黒いクマさんと白いクマさんにしか見えなかった。


(女神さまーありがたいけど、色々大丈夫ですかねー)


(名付けに気を付ければ大丈夫ですよ、多分……)


 アルティオは脳内で宣言した。多分という曖昧な返事として。


 森の女神……別名を熊の女神。何も間違った事はしていない。

 もし運営は訴えられても、神話を参考にしたんでと逃げる気である。

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