第39話 そうだ、洞穴へ行こう!

「そんなわけで北から西に向かおう。」


 マロンは意気揚々と大雑把な目標を口にする。

 小屋から西と言えば、例の触手トレントがいた方向である。


「あ、そうそう。言い忘れてたんだけど、北に偵察に出た時に洞窟があったんだよ。」


 トリスが今思い出したかのように、以前一人で探索してきた時の事を伝える。

 もっとも、マロンのやってる事が斜め上を行く事が多かったため、伝えるタイミングが難しかったというのがある。



「中はどうなの?」


「その前に外ね。こんな森の中に洞窟?というツッコミがなかったのは驚きだわ。」


「まぁゲームの中でそういう疑問は無意味かなって。」


 トリスは北へ偵察に行った時に小山を見つけた。

 それほど大きくないので不思議に思っていたが、穴が開いているため何かの巣にでもなってると思い、偵察をしてみたとの事。

 幸いゴブリンなどの巣ではなかったが、地下に続いているのを確認すると降りて確認する事に。


 結果、小さなダンジョンになっている事を確認する事が出来た。

 トリスは1層の最初の部分だけ確認をして、一人での探索は諦める事にした。

 残念ながら何の称号も得ていない。


 初めてのダンジョン発見とか、初めての侵入者とかは残念ながら他の人が取得済なのか、それともあれはダンジョンではなかったのか。


「先の方まで確認はしていないから、ダンジョンなのかただの洞穴なのかはわからないけど。称号も何も入らなかったし。」


 

「じゃぁそこを少し探検して、深かったら考える。浅かったら……やっぱり考えるで良いのかな。」


「そ、それで良いです。」


 アクアは若干イエスガールだった。マロンとトリスの意見に対しては肯定しか示していない。

 今まで人生で友人のいなかったアクア……の中の人は、せっかく出来た友人関係を悪くしたくないと思うあまり否定的な事は言わないのかもしれない。



「というわけでやってきました、その小山。確かに森の中に小さいけど山になってるね。」


 マロン達の正面には5m程度の小さな山。

 山の周辺には木が生えており、遠くから見ても小山には気付けそうにはなかった。

 小山そのものにも木が生えているため、まさしく木を隠すなら森の中状態であった。


 ちなみにここまでの間にエンカウントする敵はいなかった。残念ながら修行の成果はまた後程である。


「森の神様とか住み着けそうなとこだね。」


 森が一瞬揺れた。枝が、葉が風もないのに靡いた。効果音を付けるならば「ザワ」だろうか。

 マロン達はそれには気付いていない。


「マロン、それフラグになるから。」


「フラッグは叩き折るためにあるんだよ。」


「それ、砂浜でやったらウケるかもね。」


「ビーチフラッグですか?」


「話変わっちゃったね。でもフラグも叩き折るに限るよ。」


「というか、小屋からここまでそんなに距離はないのに全然気づかなかったよね。」


 マロンは小屋の方向と小山の場所を何回か見て不思議そうに呟いていた。


 いつまでも外でじっとしていても仕方がないと、トリスの案内で静かに穴の中を覗いてみる。


「やっぱり何もいそうにないね。」


 トリスは先日探索した時と同様、中に何もなさそうだと呟いた。


「そう?こういうところって最奥に何かいたりしそうなものだけど。」


 マロンが呟くと再び森が「ザワ」と一瞬揺れる。


 先に進んでいくと、どうしても光源が少なくなってくる。

 入口から差し込む光はそもそもが少ない。

 森の木に遮られているのだから当然ではある。


「あ、この前作ったコレが役に立つかな。ててててん♪ぺんらいと~(型のでんどうこけし~♪)」


 ぶぶぶ……


「なんか振動してるんだけど?」


「電動こけしの改良型だからね。」


 えっへん♪と、マロンはない胸はって威張った。


「なんかえっちです。」


 アクアの反応が正しいのだが、トリスはそこについてはもう突っ込む気はなかった。

 光っている間はずっとぶぶぶと震えているらしく、マツタケもどきが使われている事を説明した。


「変な魔物もいるもんだねぇ。北から東に行った時だっけ?東に行かずに真っ直ぐ北に向かってればここに辿りついたって事なんだけどね。」


「小屋からほぼ真っ直ぐ東に行くと、私のいた湖に辿り着くんですもんね。意外と森というか世間の狭さを感じますね。」


「小屋はたった数日で牧場になってるけどね。牧●物語とゲームを間違えてるんじゃないの?ってくらいには。もしくはプラスしてアト●エシリーズも混ざってるような気もするけど。」


 トリスのツッコミももっともだなと感じる程には、やっている事が酷似していた。


 光る電動こけしを持つマロンが前方を確認する。

 偵察系のスキルを所持していないため、全員が斥候を見様見真似で体感していた。


 あわよくば夜目や気配察知などのスキルが生えないかなという打算がないわけでもない。

 マロンやアクアはともかく、トリスにはそうした打算があった。


 マロンはどうも行き当たりばったりで、上手に出来ちゃいました~♪的なノリがある。

 結果論として称号やスキルが生えるという大きなおまけがついて来ている。


 洞穴に着いた時、マロンには何かを感じていた。

 森のざわめきには気付かなくても、何かどこかで感じた事のある雰囲気だなと。


「あ、何かいるよ。やっぱりここは何かの棲み処だったんじゃ?」


 マロンが奥に何かを見つけ、指をさしてトリス達に伝えた。


「本当だ、何かいる。」


「そうですね。でも何だか小さい?動物でしょうか。」


 トリスがマロンに続き、アクアはその対象の小ささを指摘する。


 マロン達は警戒を解かずにその人影のようなものに近付いていく。


 やがて最奥に進むと、何故か全裸土下座した推定女子がマロン達を迎える事となった。


「申し訳ございませんでした。」


 突然の謝罪にどう返事をしていいのかわからず、マロン達は立ち尽くし、そして必然と見下ろす形となった。

 何となく神々しい感じのする全裸土下座推定女子に対して……


 マロン達の右手で「ぶぶぶ……」と震える電動こけしがとてもシュールなものとなっていた。

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