第37話 自宅訪問
マロンとトリスが新たな境地へと達してから30分後。
マロンはログアウトをし、着替えを済ましてコーヒーを嗜んでいる。
「そろそろかな。」
マロン……浪漫は机にコーヒーを置き椅子に座り足を組んでいる。
やがて浪漫の呟きの通り変化を伴う音が静寂を破った。
「ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポピンポピンポーン♪」
2回鳴らした後に連打をする人物は浪漫の周りには一人しかいない。
浪漫は部屋を出ると階段を降り玄関へと足を向けた。
インターホンを取らずに真っ直ぐに玄関へと向かった。
「はいはい。いらっしゃい、小串。」
がちゃとドアを開け、来客を迎えるために挨拶を口にする浪漫。
同時に来訪者は飛び込んできて浪漫の胸倉を掴む。
「いらっしゃいじゃないでしょー。ああぁあぁあーた。一体なんてもんを作ってんのよー。」
そこに現れたのは間違いなく親友の小串である。
ただし、然程時間を要していないので、小串はいつも外で会うようなおしゃれな恰好はしていなければ、化粧もしていない。
浪漫の普段のジャージとかと変わらない地味というよりは、所謂喪女のような恰好で小串は現れた。
「余程慌ててたんだね。部屋着のまんまだよ。同級生に見られたら大変だね。」
小串は大学ではそこそこのお洒落で通っている。姫キャラとまでは言わないが、高校などでよく耳にするスクールカーストとやらのトップクラスのようなものだ。
大学においてもそういった根拠のない、誰が決めたかわからない上下関係のようなものは存在する。
小串の周りには人が集まるが、浪漫の周りには集まらない。
浪漫も見た目を気にすれば小串と遜色ないのだが、本人は面倒くさがってお洒落は殆どしない。
ほんの少しの化粧と、せいぜいが洗濯済の衣服を着用するに留まっている。
「どうせこの辺に大学の知り合いなんていやしないわよー。」
ガクガクガクと、以前喫茶店で浪漫が小串にやった事と同じ事を、今度は小串が浪漫に行っていた。
「あーた、感覚は現実とほぼ同じなんだからね。感じ方も痛みもおんなじなんだからねっ。って最初にソレを言って糾弾してきたのあんたじゃないっ。」
散々文句は言っているが、泣いているわけでもなければ本気で怒っているわけでもない。
本気で怒っているならば、性別問わず拳で語っているからである。
浪漫も小串も小さい頃から武術を習っている。最終的に身を守るのは自分自身だと両親から教えられていたため、強制的に習わされていたというのが正確であるが。
尤も中学の途中までしか習ってはいないが、身に着いたものはそうそう忘れたりはしない。
素人よりは確実に強いのである。
「ログアウトしたら……色々濡れっ……色々漏れ……てってて、た、大変だったんだからぁっ。」
少しだけ小串の目に何かが浮かぶ。
「おーよしよし。私が好きなのは小串だけだから、ね。」
浪漫は小串の頭をあやすように撫でる。
「そ、そんなんで誤魔化されないんだか……」
「もー欲しがりさんだなぁ。」
浪漫はぎゅ~っと小串を抱きしめると「よしよし」と背中をぽんぽん軽く叩く。
漸く落ち着いたのか小串の文句は完全に止んでいた。
部屋に小串を案内すると、落ち着き掛けている小串のためにホットココアを入れて手渡した。
「あ、ありがと。」
浪漫は自分の椅子に座り、来客用の椅子を向かいに置くと小串はその椅子に腰を掛ける。
「それで、いくつか称号貰ってまたパワーアップしたんでしょ?」
小串が切り出すと浪漫は頷いた。
「なんかもー少し前から魅力が4桁いっちゃってるよ。筋力と魔力は貧弱貧弱ゥだけど。」
「そう。私はMPが4桁行っちゃってるよ。」
あまりネタバレにならない程度にステータスについて語り合う。
そこで、小串は浪漫が……マロンがバケモノの領域に達していると再認する。
ベータテスト時の事と、掲示板での事を踏まえれば、小串はトリスでさえバケモノの手前である事を認識している。
バケモノは言い過ぎでも、充分強者である事は実感している。
あくまでステータス上での事なので、立ち回りなどを考えれば一概には言い切れないのだが。
それでもトリスでさえ強者だと理解出来るのに、それを上回るマロンのステータスは人外に片足を踏み入れている事が理解出来ていた。
「じゃぁ、今回のお詫びに武器か防具かアクセサリーかまだ決めてないけど何か作るよ。」
それがマロンの様々な経験値となり更なるバケモノ化に繋がるとも想定せずに。
浪漫は自身の経験となれば、他にも色々出来るだろうし良いなとしか考えていない。
「ほんとに?それならゲーム内で言った武器か敏捷向上系か防御系が何か欲しい。ってそうそう、実は公式で第一回イベントが告知されてるんだよ。」
小串は文句を言いに来ただけでなく、イベントの事を伝えに来たと言う。
「第一回は天下一武●會みたいな感じみたい。単純に誰が一番強いかを決める大会みたいだよ。」
「賞金や賞品とかはまだ告知されてないけど、多分唯一無二みたいなのじゃないかなとは思ってる。じゃないとやる気出ないしね。」
浪漫は先入観排除のためにあまり情報を進んで取り入れようとはしていない。
公式くらいは見ても良いとは思っているのだが、色々あって単純に忘れていただけでもある。
それにゲームが開始してすぐにイベントがあるとは想像もしていなかったのもある。
「一応防具というかアクセサリーの算段はあるんだ。試作も実は修行の合間に作ってたりするんだよね。付与効果とか何が出来るんだろうって思って。」
「そうなんだ。そこら辺は浪漫任せになっちゃうから素材とか必要なら言って。少し遠くまで探索してるから若干は浪漫が持ってないものもあるかも知れないし。」
「ふふ~ん、言質は取ったぜよ……」
小声でニヤソと笑う浪漫は、悪巧みを考えてそうだった。
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