第32話 ステータス向上料理

 マロンが浴場から出るとそこにはログインしてきていたトリスの姿があった。


 ちょうどインしてきたところらしく、外の農場の事は気付いていない。


「あ、うん。畑仕事して汚れちゃったから。」


「畑?」


 トリスが首を傾げる。外にあるのはイノブタファミリーの広場くらいしかなかったからである。

 あくまでトリスにとってはログアウトする前の記憶でだが。



「二人がログアウトしてる間にね、小屋の北側から探検してみたの。そうしたら、色々あってアクアのいた湖についたんだけど……」


「その帰り道が少しズレてたのか、小屋に戻ってくるわけじゃなくて、農業やってるNPCと出逢って。」


 マロンはそこで農業を教えて貰って、種や苗などをいくつか貰ったと説明する。



「へぇ、それでそんなに……称号とか色々増えてるのってそういう事?」


 トリスも鑑定を使えたりする。スキルや経験や再生は流石に見えないが、称号は誰でも閲覧が可能であった。


 レベルが低いうちはレベルや種族などしか見えないが、レベルが上がるにつれステータスなど鑑定出来る項目は増える。

 なお、鑑定するとHPとMPは他人にはバー形式で見えるようになっている。

 しかし、隠蔽系の魔法やスキルで誤魔化したり見えなくする事もまた、可能であった。




「まぁ魅力ばかりがあがって仕方ないし、称号の効果でステータス上がってさ。ついにはHPがMPを逆転しちゃったよ。」


 結局何故そうなったかをほぼ全て話す事になった浪漫。

 現実では経験0だというのにゲーム内では既に何回も経験している。


 ある意味ファッションビッチ状態となっていた。


「それについては何も言えない。私が最初にシデかしちゃったわけだし。」


 そのおかげでトリスも称号を得たりはしているが、後になって考えるとどうしてもいたたまれないのであった。


「まぁもう私もそれについては吹っ切ってるから大丈夫だよ。トリスも気にしないで。」


「そうは言うけどさー。マロンの事を考えたらやっぱ軽率だったよ。」



「あ、そうそう。せっかく取れた野菜があるんだけど食べる?」


 マロンは無理矢理話を変えた。話題の事もであるが、野菜の事を話しておきたかったのもまた事実だった。


 ストレージから出された野菜を見て驚愕するトリス。

 たった一日でどうしてこんな事に?と。


「そこはゲームだからとしか言えないかも。」


 マロンはいくつかの野菜料理を作ってトリスと一緒にゲーム内夕飯を摂る。


「ねぇ、美味しいのは良いんだけどさー。なんか色々少しステータスが上がってるんだけどどういう事?」



「ん?ナニソレ。」


 マロンは何の事?と聞き返す。


「あんた、野菜とか料理とかを鑑定したりした?」


 マロンはフルフルと首を左右に振る。


「これ、一時的にみたいだけどステータス向上アイテムになってるよ?見てみい。」


 トリスに促されマロンは鑑定を掛けてみる事にした。


『野菜炒め:力+5、体力+5 効力2時間』

『野菜スティック:知力+5、魔力+5 効力2時間』

『野菜スープ:美肌効果、便秘解消、解毒(小)』


 果たして美肌や便秘がゲーム内でどう影響するのかわからないが、様々な効力が備わっていた。 

 ただし、一時的な向上のためレベルアップ時には加算されないらしい。

 レベルアップ直前に食べて、HPやMPを底上げしようという手法は取れない事も判明した。


 しかし一時的にステータスが向上するため、効力時間内の攻撃力や防御力には影響する。

 


「もしかして肉料理も?」


 マロンはストレージにしまってある料理を取り出して鑑定をかけてみる。


『イノブタステーキ:力+15、体力+5 効力1時間』

『きのこソテー:知力+10、魔力+5 効力1時間』   



「検証が必要ね。誰が作ってもステータス向上が付くのか、料理スキルがある者が作ると付くのか。」


 トリスが顎に手をあてて呟いた。

 しかし、これまで掲示板の間でもステータス向上系料理については触れられていない。


 自分が発信して情報収集しても良いのか疑問が浮かんでいた。


 ちなみに野菜そのものを鑑定したが、ステータス向上については表記がなかった。

 その代わり(良)や(並)など品質の良し悪しが表記されていた。


 まだ想像の段階ではあるが、この品質次第で出来上がった料理の品質……ステータス向上にも変化が出るのではと思っていた。


「ねぇ、マロン。料理に関して掲示板に書いても良いかな?名前とかそういうのは当然伏せるけど。ステータス向上系のアイテムとかないかな?的な話題を振ってみようと思うんだけど。」


 掲示板はゲーム内にログイン中でも閲覧・書き込みは可能である。


 戦闘中でも可能だが、戦ってる最中にそんな事するのは自殺行為なので行うものはあまりいないが。




「良いよ。私の事とか森の事とか、あとNPCのオプスの事は書かないでね。」



「がってん。ところで……マロンは攻略とかには興味ないの?」



「う~ん。こういう森の中じゃなかったら考えたけど。今は小屋の強化と周辺の探索くらいだけで良いかなと思ってる。」



 マロンのこの小屋の強化が後に森の要塞の第一歩だとは誰も想像していなかった。


 イノブタファミリーが既にその第一歩だという事をマロンも、そしてトリスですら理解していない。



※イノブタ=Dランク魔物。冒険者ギルドでは同じDランク冒険者、またはEランク冒険者数人で討伐が推奨されている。

 なお、ゲームを始めたばかりのプレイヤーが冒険者登録をするとGランクからスタートする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る