第33話 またツマラヌものを……
「ちょっと掲示板に書き込んでみた。一応ステータスアップ系のアイテム等のスレは立ってないから私が立ててみたんだけど。」
ゲーム開始二日三日では、それぞれの用途に適したスレは立ちあがり切っていない。
プレイしていくうちにいつの間にか増えていくものだ。
そしてマロンはまだ掲示板なるものを一度も見ていない。
攻略等に関して、先入観を受け付けられるかもしれないからという理由でから見ないようにしていた。
だから、いつかのトレントの人が立てたであろう、18禁的なスレの存在も知らないのである。
ちなみにベータ版ではステータスアップ系のアイテムは発見されていないし、出来たという声も上がっていない。
可能ではないか?という噂くらいは出回っていたが、真実にまで行き着いた様子は皆無であった。
ニューワールド ステアップ系スレ1
001:ななしのエロフ
ステータスアップ系のアイテム等に関するスレがないので立てました。
情報等あれば、規定に触れない程度に、個人の特定に走らない迷惑かけない範囲で情報提供を求めます。
002:ななしの楠氏
>>001 少なくとも薬系ではまだないな。ポーション等の回復アイテムに付随してるって話も聞いた事がない。
003:ななしの気の精
>>:001 こういうゲームだし、〇〇増強剤とかあれば良いな。
004:ななしのエロフ
>>003 通報されたいの?
052:ななしの連勤術士
そういえば、NPCだと思うけどどこかで何かを飲んで力が漲るゥとか言ってるのいなかったっけ?
あれって、栄養ドリンクか何かわからないけど、力アップとか体力アップとかだったんじゃね?
確か、どこかの闘技場で全然だめだめだった騎士見習いの少年だったはずだけど、それ飲んだ後木偶人形をこっぱしてた気がする。
053:ななしの冥途さん
>>052 それって実は何かのクエストだったのでは?
053:ななしの連勤術士
>>052 かもしれないけど、あの時はすげーとしか思ってなかった。そういう場面なだけで意味があると思って見ていたわけじゃないし。
054:ななしの冥途さん
>>053 ちっ使えないご主人様だこと。だから連勤させられる社畜なんですよ。
055:ななしの連勤術士
>>054 それって今関係なくない?酷い……ょょょ
「なんだか隣同士のパソコンで打ちあってるみたいなやりとりだね。」
トリスが掲示板を覗きながら呟いた。
「とりあえず今のところ有用な情報はないみたいだねー。NPCかイベントかクエストかわからないけど、軟弱騎士見習いが何かドリンクを飲んだらパワーアップしたというのはあるみたいだけど。」
「へー、それなら少なくともアップ系はあるって判断されてもおかしくはないね。」
マロンが作業をしながら答えた。
ちなみに今マロンが製作しているのはフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、サクソフォンという木管楽器だった。
トリスはそれについてツッコミを入れるのを止めている。
ニューワールドを始める前、RS2のサウンドトラックを聞いていて良い曲だなぁと、90年代って良かったんだねぇと感動していたのを思い出していたからである。
もちろん例の曲を再現するにはギター、コンガ、ファゴット、フルート、ホルンなのだが……
つまり、余った木材で作れるものならなんでも良いとも言えた。
「……でもマロンの料理はちょっと別物だよ。もう少し情報が出回るまではここだけの話にしておいた方が良さそうだね。」
トリスはちらっちらっとマロンの手元を覗いている。
「アクアくらいなら大丈夫でしょ?」
作業をしながらもマロンは話をきちんと聞いている。
アクアであれば秘密を漏らすような事はしないと、マロンは信じていた。
「多分ね。ここの場所も掲示板では見かけてないし、アクアが情報漏洩を進んでするようには感じないし。」
そこまで話したところでトリスは話題を変える。
先日出会ったマロンを襲撃した魔物型プレイヤーの事である。
「そうそう、以前トレントに襲撃された事あるじゃない?あまり思い出したくはないかもしれないけど。」
「あ、うん。」
少しだけマロンの声のトーンが下がる。
「遠目で確認したけど、アレまだあの場にいたよ。多分根っこが埋まってて本体は移動出来ないみたい。」
「そうなんだ。」
「今のところ外部の強者というか、注意すべき最重要人物はアレだからね。ゲーム内魔物よりも重要だよ。」
トリスは危険性をマロンに話す。
「そうなんだ。あの木はプレイヤーだったんだ。」
トリスがゲーム内魔物と言った事でマロンは気付く。アレがプレイヤーだと言う事に。
「だから気をつけなければならない。木だけに……」
「ってちょっとマロン?冷ややかな目で見ないで?美幼女に冷たい視線を晒されると……ちょっと濡れtr」
マロンはジャンプしてトリスの脳天にチョップする。
「ドエロフが!」
頭を押さえて一応痛がるトリス。
そして叩いた方のマロンも右手を押さえて痛がっている。
「なんであんたが痛がってるのさー。」
「友人を殴る心の痛みってやつさ……」
マロンは誤魔化していた。
コント染みたやり取りの後、再びプレイヤーの危険性について語り出す。
「今は動けないから良いかも知れない。でも魔物なんかは勝手にアイツに寄せられる事もある。経験値は何で上がっているかわからないからね。」
単純に魔物や盗賊等の所謂敵キャラを倒すだけが経験値でない事を、マロンを見ていれば嫌でも気付く。
他のプレイヤーが気付いているかは不明であるが、トリスは既に気付いている。
「そっか。進化したりして動けるようになるかも知れないって事かぁ。」
「流石にマロンのステ向上のようにバケモノ染みたりはしないとは思うけどね。プレイ時間が増えれば今後何が起こるかわからないって事。」
「森そのものを燃やすわけにはいかないしね。今度は襲われても対処できるようにこっちも鍛える必要はあるかもね。」
模擬戦でもレベルは上がるかもしれない。マロンもトリスも考えていた。
「でもマロン……あんた数時間見ない間にステータスも化け物並に上がってるみたいだけどね。今ならエロトレントの奴にも勝てると思うけど。」
それだけのステータス向上とスキル獲得がたった1日程度で行われていた事にトリスは気付いている。
マロンはただ何かを作ったり何かを耕したり、何かを食べたり何かに出会ったりしただけだというのに。
「防衛拠点になるように、柵とか砲台とか高台とか物見櫓とかパチンコとか作ろうかな。」
「エロフだけどこれでも一応エルフの端くれだからさ、魔導伝導の良い弓がいつかは欲しいな。それと、実は私敏捷皆無なんだよねー。」
トリスがマロンにそれとなくお願いをする。
「んー。私、そのうち死の商人になりそうだね。」
トリスの要望に応える事が、かなり未来までを想像してマロンは返答する。
それは、当然試作を作ったり他の武器を作ったりしているうちに、武器や防具など製作物だらけになってしまう未来を想像しての事だった。
「アマンダラ・カマ……」
トリスの口をマロンが塞ぐ。背伸びをしなければ届かないので長時間は無理と悟る。
「それ以上は引っかかると思うよ?」
「マロンならオ〇ジでも作れそうだよ?」
「だから引っかかるって。」
「急激な老化はいやぁぁぁぁぁぁぁ。」
頭を抱えてトリスは叫ぶ。90年代を良い時代だと言うマロンに対し、70年代に浸るトリスは一体どこへ向かっているのか。
「だから何、このコント。」
マロンは半ば呆れてトリスの一人芝居を見守る。
「こっちへこないでくれっ!」
「作品変わってるしっ」
「走れエロスのように?エロフだけに。」
関西の球団が日本一になっていた時代に放送していた作品を、覚えている者がどれだけいると言うのだろうか。
この完全に意識をVR空間に飛ばせるようになったこの時代に。
「えぇぃ黙れっドエロフがっ!」
ズボッ!
小学生男児ならば一度くらいは攻め側か受け側かはともかく経験した事があるだろう。
カンチョウという極意を。
マロンは手を重ね合わせ、左右の人差し指と中指合計4本をトリスの……にぶっ刺した。
「はうあっんっ」
甲高い声で微妙に嬌声を交えてトリスが悲鳴を上げる。
下着越しに食い込む指がどこまで入ったかは当人同士にしかわからない。
【初めてのカンチョウを取得しました。】
マロンの脳内にまたまた響くシステムボイスであった。
「ふっ、またツマラナイものを挿してしまったぜ……そして……えんがちょ♪」
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