第26話 名付けはセンスが問われる

 先程マロンには解体レベル1が生えたおかげで、何も知らない素人が行うよりはマシに解体が出来ている。


 肉は既に食料として幾ばくかを食し、バーベキューパーティーを行い皆で親睦を深めた。

 皮は町に行けば売買可能だろうし、防具を使うのに使用するかもしれない。

 残念ながら狼系や熊系ではないため、毛皮としては売れない事は誰にもわかっていた。


 骨は何かに使うかも知れないと、湖の水を使って綺麗にした後にストレージに保管。

 

 余った肉はトリスとアクア含め三等分してストレージの肥やしになった。

 ストレージの中が時間停止という便利な機能なため、生のままでも問題がない。


 そのためマロン達は、「生」「焼肉」「干し肉」にわけて保管した。


 干し肉は、アクアの水の魔法で水分を飛ばしたらあっさり出来た。

 3人が協力すれば、燻製肉も非正攻法で直ぐに出来そうである。


 水から酒を造るなんて暴挙が出来れば、酒場も開けそうである。

 少なくとも飲食店は開けそうである。


 

「というわけで、ここが我が家です。」


 マロンはトリスとアクア、シンシアとイノブタ親子3匹と一緒に小屋に戻ってくる事が出来た。


「そういえば君達は名前はあるの?」


 マロンが呼び辛いというのも含めてイノブタ達に名前があるか訊ねる。

 しかし返ってきたのは特にはないという事だった。

 名前というのは喋る事が出来る種族特有のもの、ましてや人族など一定の知識・知能がある生き物特有のモノである事を識る。



「じゃぁ、眷属になった記念に名前を付けようか。」


 名前を付けると言った途端にイノブタ親子は平伏し言葉を待った。

 獣なりの敬意表現なのだろう。



「マロン……一生モノなんだから変なのにはしないようにね。シンシアみたいにまともにしてあげてね。」


 トリスがしみじみとマロンの両肩を押さえていた。


「お父さんイノブタは……イノ吉。」


「お母さんイノブタは……イノ子。」


「妹イノブタは……イノ乃。」


 名前を決定した途端3体のイノブタは身体が一瞬光る。

 その瞬間個体名が登録されたという証である。


 

「マロンのネーミングセンス……どこかのナイス爆裂の里みたいでなくて良かったわ。」


「あそこまで酷くはありませんが、良いセンスとは言い難いような。」


 アクアが冷静にツッコミを入れた。赤い目の一族に比べればマシという免罪符があるから騙されてしまいそうであるが、アクアの言う事が尤もである。


 イノ乃って言い辛いだろうとアクアは思っていた。


 


『お嬢、どうやら我ら一家、種族が変わったようですぞ。』


『あら本当、ただのイノブタだったのに……セクシーイノブタになってるわ。』


 心なしか胸がばいーんしてるわなんて言うイノ子。

 その言葉に若干だけ殺意を抱くマロンであり、通訳を受けたトリスとアクアである。

 ちなみにアクアの胸もマロンやトリスと五十歩百歩である。


 断崖絶壁、まな板、洗濯板、ちっぱい、甘食、ステータスだ、色々言い方は存在するけれど……

 五十歩百歩なのである。


『私はまだおこちゃまなので……』


 将来があると言いたげなイノ乃である。

 


 種族が変わった事で3匹のステータスも当然変化がある。

 人の町であれば番犬としては役に立てるだろうというだけの力は得ていた。


 元々イイノブタ親子はピンキリあるとはいえ、この森に生息するだけあってステータスは低くはない。

 魔物にも弱肉強食は存在し、種族や個体によっての差は当然存在しているのだが……


 マロンの眷属となり、種族変化によってベースアップがなされたというわけである。



「そういえば、柵を作って3匹の棲み処を用意しないとね。その間にシンシアと遊んでおいで。」



 マロンは食後の運動を兼ねた遊びを促していた。

 

 良く食べて良く遊んで良く寝る……これが成長の秘訣だと昔祖母に言われた記憶があるとマロンは伝えた。


『なるほど……お嬢の強さはそのご先祖様の言葉の賜物なのですね。』


 イノ吉は納得したように頷いていた。

 

 シンシアはイノ乃を連れて走り出していく。

 家の周りを競争したり体当たりしたりじゃれ合ったり、ネコパンチしあったりしていた。


 やがて遊び疲れるとシンシアは丸くなり、その隙間に入り込んで包まれるようにして身体を休めていた。





 一方、工房に籠って柵を作っていたマロンは、必要数をストレージで確認する。

 家の周りをぐるっと囲い、尚且つ牧場用の囲い分を作成していた。


 柵を作成し終えたマロンは次々に杭打ちをしていく。

 杭打ちするには力が足りないのだが、そこはトリスの力も借りて完成させていた。

 杭を打ち柵を形成すると、ついでに付与を施し登録者以外が触れたら電撃が襲うようにしていた。


「マロン、あんたなんでもありになりそうだね。」


 柵の説明を受けたトリスはやや呆れていた。


 遊び疲れた、イノ乃はシンシアの毛皮に包まれて未だに眠っていた。

 寝る子は育つという言葉に従い、良く食べて良く遊んで良く寝るを実践していた。


 家に到着してから既にゲーム内時間で数時間が経過している。

 杭や柵の作成よりは、囲いを作る方に当然時間は掛かっていた。


 太陽は既に沈み始めていた。

 光の当たらない場所では既に闇を纏い始めており、昼夜それぞれを得意とする魔物の分布図が変わろうとしていた。


 柵と付与が終わり小屋に戻ろうとしたところで、小屋の後ろに違和感を感じたためマロンはトリスとアクアを連れて確認に向かった。


 こそりこそりと裏側を覗いてみると……


「ちょっ。あんたらナニしてんのぉ」


 マロン達が見たものは……


 年齢制限解禁で全てがばっちりと映っている、イノブタ夫婦の交尾の様子だった。



『あ、お嬢が肉を求めた時用の子供を作ろうかと……』



「あ、いや、そんな通訳翻訳はいらないよ、マロン……」


 3人が呆れて怒っているのはそういう事ではない。

 確かに名前を付けて眷属となった以上、イノブタ親子には働いて貰わなければならない。

 親子は肉を捧げる事でその一部を担おうと考えていたようだ。


 しかし3人は別の事で叫ばずにはいられなかった。


「私達が未経験なのに、あんたらはヤりまくりなんてーーーーーー!!!」×3


 アクアもマロンとトリスに併せて声を重ねていた。

 

注:経験については現実での話です。

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