第25話 弱肉強食

「あああっぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁん。もうっ!」


 溜めにタメたダスカ流苛立ち砲。

 マロンは決意した。踊ってそっちの経験値を稼ごうと。

 どうせこいつもテイムされるかペットになるかだろうと覚悟も決めていた。

 上手くいけば家族ごと飼って、イノブタ肉を定期的に卸してやるとも覚悟を決めていた。


 気付けばマロンは4匹のイノブタの魔物に追われていた。

 先程の覚悟が本当の未来になる可能性は……そこそこに高い。


 

「魅惑の踊りーしながら逃亡っ!」


 マロンのすべすべぷりぷりのお尻を見ながらイノブタ達は追いかける。

 まるでマロンが昔に読んだ週刊誌のエロ探偵のような、イノブタ達の行動を確認しながらマロンは踊り&逃亡を繰り返す。

 恐らくイノブタの目はハートにでもなっているのだろう。

 確実にマロンの魅力に囚われているようであった。


 恐らくは鮎の匂いに引き寄せられたイノブタ達は、今ではマロンの魅力に引き寄せられている。



「まじかるしゅー!」


 トリスの魔法矢がイノブタの一体に直撃する。直撃を受けた若干小さめの個体はぐでんぐでんと転がり頭から木にぶつかると、それ以降動き出す事はなかった。


「水牢!」


 アクアが手を翳すと、水が意思を持った棒状になってイノブタの足元を襲う。

 足を引っ掛けられた形となったイノブタは想定外からの攻撃に弱く、見事に引っかかりごろごろと転がる事となった。

 先程トリスが魔法矢を当てた個体のように死んではいないようであるが、ぴくぴくと3体仲良く転がっていた。


「マロンー!全員コケたからもう平気だよー。」


 トリスの声が耳に入り、後ろを確認すると4匹のイノブタが追って来ていない事を確認出来る。


 マロン達は虫の息のイノブタの元に辿り着くと、どうしようかと思考する。


 一人だけ別の事を考えており、マロンが釣ってトリスとアクアが攻撃と阻害をする。中々良い連携だなとトリスが思っている事は内緒である。


「……食べられるかな?」

 

 マロンが呟いた。倉庫にあった何の肉かわからないものより、何の肉か分かっているものを食すのは悪い事ではない。

 マロンの治癒の踊りは、例え毒素があったとしても癒す事は出来る。


 トリスが毒見をすれば良いだけの話ではあるのだ。


「イノシシもブタも食料になる生き物ではあるけど……逞しいですね。」


 アクアがマロンを見て呟いた。その目は尊敬と畏怖の念が込められている。


「牧場を作って畜産するのもありかもしれない。」


 マロンも考えていた事を呟く。もし食用として美味であれば定期的に食肉加工が出来れば、料理スキルで食堂はともかく自分達の活力には繋がると考えた。

 この先町に行く事も考えれば、交渉や友好の種にも成り得るかもしれないとも考えた。


「そんな場所あるんですか?」


 アクアが疑問を口にする。まさか放し飼いというわけにはいかないので、当然の疑問である。


 マロンとトリスは西から来たという話はしたが、小屋の話はしていない。

 これを期に話す事にした。フレンド登録もし、一緒に釣りをして鮎を食べた仲だ。

 話しても不利な事をするとは考え辛いと思ったためだった。


「へぇ、いきなりマイホーム的なものがあるんですね。このゲーム、ランダム種族を選んだ人は酷なスタート地点だったりするけど、おまけ要素でペイ出来てそうですね。」


 アクアはそう言うが、別にこの湖はアクアの物というわけでもないようだ。

 ただ、仮設定として登録は可能だったので、ホーム設定はしているしどうせ他のキャラがこんなとこまで来る事なんてまだまだ先の事だろうと思っていたとの事である。

 まさか二日目にしてプライヤーという来訪者が現れるとは思っていなかったアクアである。

 ましてフレンド登録まで出来てしまうとは……と内心感涙に浸りたい思いだろう。


「あ……」


 マロンが突然言葉を詰まらせる。

 これは何かの前触れだとトリスは気付いていた。


「どうしたの?」


 トリスが聞き返すと、マロンはありのままを伝える。


「シンシアの時みたいにテイムしますか?って聞いてきた。正確にはシステムから文字が出てきた。」


 そして思わず「YES」を押してしまった事まで伝えた。


 イノブタの魔物はそのままイノブタという種族であり、個体の内2体は夫婦であり1体は子供だそうだ。

 そしてトリスの一撃で昇天なさった個体も子供だそうである。


「あ……」


「今度はナニ?」


「眷属会話(初級)ってスキルが生えた。」


 眷属会話……文字通り眷属となった相手との会話である。魔物や獣であってもテイムした相手であれば会話が可能。

       ただし、他の人には何を言っているのかはわからないため、人に伝える時には通訳が必要である。

       念話に近い。


『我ら一家、お嬢の手となり足となり働きます。だから……殺さないでください。』


 父と思わしき個体から話しかけられる。


食料にくが必要なら幾らでも産みますので、我らの事はどうか……』


 母と思わしき個体から中々にシュールなセリフが発せられる。


『既に死したあの個体はお嬢のお好きになさってくださって構いませんのでどうか……』


 父から再び命乞いの言葉が続けられる。死んだとはいえ、自分の子を差し出すってのもどうかと思うとマロンは過ぎった。


『ぶるぶるぶる……』


 子供と思われる個体から震えが伝わってくる悲鳴がマロンに伝わっていく。



「あー、うん。家に招待するから庭で番犬兼牧場長(仮)を務めてくれればいいよ。」



 マロンは3体のイノブタ親子をテイムした。

 1体はトリスがやった事とはいえ、既に死亡しているためみんなの食料となった。


 その際マロンに解体レベル1が生えた事は言うまでもない。

 


「死んでしまったとはいえ、自分の子供を食べるとかって平気なの?」


 元も子もない事をマロンはイノブタ父に問いかける。


『別に構わない。主の食料となるのなら我が子も本望だろう。』


 マロンは以前テレビで見た記憶の中で、何かの鳥は虫などのエサを親鳥がヒナにエサを食べさせるが……

 ヒナが複数存在すればエサにうまくあり付けない個体もいる。

 また、喉に引っかかったりまともにエサを食す事が出来なかったり落下したりして、死にそうな虫の息のヒナを解体して、他ヒナに食べさせるというのを見た覚えがあった。


 生存競争に負けた子はエサとなる。


 もしかすると獣の世界でも同じような事があるのではないかと、マロンは考えた。


『まぁ、弱肉強食の世界ではままある事です。』

 

 まるで自分達はその世界で勝てたからこそ大人になったんだと言わんばかりな母の言葉。


『お兄ちゃん美味しかった。』


 もう一人の生き残っていた子供の個体はどうやら妹だったようである。



 プレイヤー3人は魔物や動物の世界も世知辛いなという思いと少しばかりの恐怖を覚えた。


 シンシアは新たな肉に「わふわふ♪」言って食事を楽しんでいた。

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