第23話 初めてのフレンド

「ふんっふんっふふんっ♪」


 マロンは踊っている……治癒の踊りを。


 もしこれで回復しないでHP全損したらそれはそれ。



「あ、なんか心地いい~♪きんもちいいぃ~♪」


 トリスがトリップしかかっているのは仕様というよりは対マロン仕様である。


「全回復した。マロン、これ凄い。」


 トリスは素直に今起こった事を話した。

 HPが徐々に減っていっていた。半分くらいになったところでマロンは踊り出した。


 そしてHPは全回復、きのこの効果でバッドステータスとなっていた毒、麻痺、下痢が綺麗さっぱり解消されていた。


「凄いよ、このラッパのマークの踊り!」


 マロンは自分の踊りが他者にも有効な事を確信出来て満足であった。

 もっともバッドステータスに至ってはどこまでが有効なのかは今後の検証も必要である事を悟る。


「でも、お腹は下したままでも良かったのに……」


 残念そうにトリスを見るマロン。腹痛に苦しむエロフを見たかったと言わんばかりである。


「マロンの鬼、鬼畜、悪魔、まだ根に持ってる?初日のアレまだ根に持ってる?」


 トリスは何となく察している。このニューワールドで体験している事の殆どは現実でも起こっているという事に。

 もしお腹を下したまま粗相をしていたら……


 トリスがマロンを鬼畜と言ったのも頷ける話であった。




 鬱蒼と茂る草を嗅ぎ分け、何かに使えるかもときのこや薬草類を採取しつつ進むと、そこには湖が広がっていた。



「水源発見!」


 マロンは喜んだ。

 小屋には蛇口を捻れば水が出てくる便利な魔道具があったのだが……


 もし町を作る事があればここから水を引く事が出来る……ようになるかもしれない。

 少なくともここに汲みに来る事で水を得られる。


「いきなり近付くのは危険ねー。何か投げてみる?」


 トリスが提案をしてくる。シンシアは警戒しているのか湖に向けて視線を集中させている。


「じゃぁこれ投げてみるかな。いっぱいあるし。」


 マロンが取り出したのは……


「えいっ」


 自分が作成した【こけし】だった。


 バシャンぶくぶくと沈んでいくマロン特性こけし。特製ではない、特性である。


 するとこけしが落下した箇所が光り出し、水面がもこもこと盛り上がってくる。

 盛り上がりから人らしき姿が浮かび出す。その姿はどうみても女性である。


 ギリシャ神話に出てきそうな布を纏った女性が左右に何かを持って姿を現した。


「貴女が落としたのはこの前後に動くこけしですか?それとも……」


「この激しくウィンウィン動く電動のこけしですか?」


 にこやかに微笑みながら斧の女神みたいな女性が恥ずかし気もなく怪しい動きをするこけしを両手に持って問いかけてくる。


「「アウトーーーーー!!」」「わふーーーー!」



 ちなみにどちらもマロン製作のものではなかった。





「もっとささやかに動くこけしです。正確には動くというよりは振動するこけしです。」


 結局動くこけしに変わりはなかった。



「正直ものには全てのこけしをお渡しします。」


「いらないわよ。」

 

 トリスが答える。しかしマロンは邪悪な笑みで……


「貰えるなら貰っておきます。」


 自分の投げたものと合わせて3つのこけしをストレージにしまった。



「ねぇ、それ……どう考えても大人のおもちゃ……ですよね。」


 斧の女神様から質問が投げかけられた。どうやらそこから導かれる答えは、この女神はプレイヤーのようだった。






「え?こけしですけど?」

 

 マロンはしれっと答える。横にいるトリスは嘘ばっかという目線でマロンを見ていた。


「どうみても……アレにしか見えないんですけど。というか貴女プレイヤーですよね。」


 斧の女神(仮)が話しかけてくる。マロンに負けじと際どい恰好の斧の女神(仮)。

 ボンテージ服が布になったような衣装だろうか、羽衣……と言っても差し支えないかもしれない。

 マロンと大差はないように感じるトリスの印象だった。


「え?あ、はい?」


 首を横に傾げてマロンは聞き返す。


「私、種族【水の精霊】アクアです。」


 ペコリと頭を下げて自己紹介を始める斧の精霊(仮)改め水の精霊アクア。


「え?斧の精霊とか女神じゃないくて?」

「どこかの駄女神じゃなくて?」


 マロンとトリスが疑問を続けて口にする。


「違いますよ。スペイン語とかラテン語で水はアクアなんです。」


 確かに……と納得するマロンとトリス。


「エスピリット・デル・アクアとかではないんですね。」



「貴族っぽくなりそうなので辞めました。それに種族はランダムでしたので、まさかこんなピンポイントになるとは思いませんでしたし。」

 

 水の精霊・アクアはそれなりに丁寧な言葉で話す。

 友達口調で語尾を伸ばしがちのトリスは別だが、マロンとアクアが交互に話してるとどちらかわからなくなりそうである。


「確かに。あ、私はボディコニアン(幼)のマロンです。こんなにちんまいけど子供じゃありません。」


 そこまで聞いてはないだろうが、マロンは礼儀には礼儀で返そうと種族と名前を答えた。



「あぁ、私はトリス。エロフだよー。エルフじゃないよ、エロフだよー」



「じゃぁみんな魔物というか魔族寄りなのかな。精霊がどういう立ち位置かわからないけど、人間ではないし。」


 マロンがアクアに聞いてみる。ボディコニアンは魔物である。正確には魔族というべきか。


 エロフは元はエルフである事から人種と思われがちだが、ニューワールドにおいては魔族寄りの人種という扱いになる。

 尤もそういうのを亜人と一括りに言う場合もある。


「精霊は精霊で人でも魔族でもないみたいです。人族と魔族の二分した考えの環からも離れた存在ですね。」


 だからもし戦争が起きても種族としての味方をする勢力はないと言う。

 人と人が争うというのに、種族で争うなんて事はファンタジーの世界である。


 領土や思想云々で争うのは種族というよりは利害関係からくるものがほとんどである。


 プレイヤーが入り込んだ事でこのニューワールドの世界がどうなっていくのかは、誰にもわからない。

 人魔対戦が起こるのか、人同士の争いで人が滅ぶのか。


 争いなど起こらず冒険に明け暮れるだけの世界となるのか。


 少なくともステータスが存在し、強者と弱者がはっきりとし、戦闘や創作などがある以上、人間社会のように朝起きて仕事して夜帰るのような生活が過ぎるだけなはずがない。


 寧ろこのファンタジー世界でサラリーマン世界を作る方が偉業とも言える。


 土台となるような組合にあたるギルド等は存在しているが。


「アクアさんは一人でプレイしてるんですか?私のこのトリスと一緒に遊んでますが。」


「そうですね……友達ってナニソレ美味しいの?って感じですね。ゲームでもこんな湖みたいなところスタートで、どうせ誰も来ないんだろうなぁなんて思ってたんですけどね。」


「まさか二日目で人と会うなんて。それも魔物やNPCではなくプレイヤーだなんて。それも二人も!明日死ぬんですかね。」



「そんな最後の24時間良い思いさせてやろう的な神はいないですって。神がいたら私ランダムとはいえこんな幼女になってませんよ。」



「確かに独特ですよね、その見た目。色々な物はクリアしてるんですかって感じがしますし。」


 その後も談笑していたため探索は中断となる。


 アクアは昨日のオープンと同時に始めたけれど、この湖からは動いていないという。

 水の精霊だからと、別に水が近辺になければ存在出来ないとかはない。

 ただ、水フィールド補正はあるようで、ステータスが上乗せされる。

 種族レベルと職業レベルなどでその補正値は変わるそうだが、検証はしていない。


「あ、そうだ。さっきマロンさんのこけしのおかげで私レベルアップ出来たんですよ。」


 アクアの種族は水の精霊、職業は錬成師。

 別の作品では最底辺職だけど神よりも強くなれる錬成師であった。


 ゲームや作品が変わればどうとでもなるので、このニューワールドでも同じようにキチガイ染みた強さになるとは限らない。


「錬成師の中で複製(微)というスキルがありまして、水から錬成しました。」


 錬成だの複製だのは出来る事に疑問はなかった。

 しかし、前後に動かしたりウィンウィン動いたりするのは出来るのだろうか。


「あ、それは私が付随した機能です。鑑定というか解析が出来るので、あのこけしが振動するのはわかりましたし。」


「それならいっそ動くものを作って、金の斧・銀の斧みたいな事をしたら面白いかなって思いまして。」


 幸いにも錬成の種となる水等は湖にあるから問題はないという事である。

 ちなみに水から錬成しているので、先程マロンに手渡したこけしはすこしぶにょんぶにょんとしている。


 鉱石などから錬成していればカッチカチになっていたのである。


「そんなに自分のスキルとか話ちゃって良いの?」


 トリスが話す。まだ出会ったばかりでそこまで自分の個人情報を話しても良いのかと。


「まぁ初めて会ったプレイヤーですし……それに、今更ですがフレンド登録とかしても良いですか?20分話せばマブダチって誰かが言ってましたよ。」



 そして深く考える事もなく3人はフレンド登録をし合った。

 別に悪い人でもないだろうという事で、拒否する理由もなかった。


「初めてのともだち……やっぱり明日死ぬのかな。」


 それからマロンとトリスはとりあえず種族と職業だけは明かして女子トークが始まった。

 放課後の教室で夕陽を浴びながら談笑しているJK3人組と化していた。

 すっかり忘れていたシンシアの紹介も、遅れてする事になった。


 

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