第22話 1UPきのこ?

「ねぇトリス。回復(中)とか一部回復(大)が出来ちゃったんだけど。」


 5時間超の睡眠を経て朝食などを済ませて、10時前に再度ログインをしたところ、既にトリスはインしていた。

 トリスに聞くと、マロンがいない間はシンシアの姿は最後にいた場所で睡眠のエフェクトを残して触れる事すら出来ない事が分かる。


 マロンがインしていない時には強制睡眠が掛かっており、他者からは干渉されなくなるという事が分かれば、ある意味でマロンは安心を得る事が出来る。


 万一この小屋が他者に襲われたり奪われたりした際にどうなるかが不安だったのだ。


「何をどうしたらそういう事になるのさ?」


 マロンは夜中の3時過ぎまでの製作タイムの事を話した。

 裁縫で縫い付けて離れなくなった薬草の束で作ったら回復(中)が出来てしまった事。


 聖水をあっちの聖水で作ったらシャレかわからないが、回復(大)が出来てしまった事。


「それちょうだい。一本で良いからちょうだい。」


 もちろんマロンは断るが、デパートでお菓子やおもちゃを買って貰えなくて通路に大の字になって暴れ回る子供のようになったので、仕方なく1本だけくれてやる事にした。



「家宝にしますー。絶対に使いませんー。」


「通報されないようにね。主に私に。」


 マロンはトリスに釘をさした。


 そして昨晩は黙っておいたが、マロンが作ったこけしは……動く。

 正確にはぶるぶると震えている。

 どうもスイッチみたいなのがあるのか、マロンの意思でON/OFF可能となるようで、まるで大人のおもちゃのようであった。


 

「私はマロンが聖水そっちで作った事に驚きだよ。」


「うるさい。おどろいてちび……うおっほん。」


 マロンの顔エフェクトが照れになっている。

 照れる要素はなかったが、恥ずかしさを表現する所を誤っていた。

 



「そういえば、昨日のトレントの事だけど分かった事があるんだけど良い?」


 トリスはマロンが製作タイム中に、周辺の探索を行っていた。

 他に似たような魔物やプレイヤーがいないかどうか、マロンに危険が及ばないかを調べていた。


 幸いにして魔物は殆どいなかった。それはトリスの強さを抜きにして、脅威になるような魔物はいないと判断した。

 あくまで現状なので、今後どうなるかはわからない。

 あのトレント以外は対処出来ない相手ではない。


 マロンがスローライフ以外でどう遊んでいくかにもよるが、町がどこにあるかわからない以上、マロンのアイテム作成にかかっているので素材採取などはトリスメインとなりそうであった。


「あのエロ木がどうかした?」



「あれは間違いなくプレイヤーよ。違和感は倒した時のエフェクトが死に戻りと酷似していたの。それに魔物は解体出来たりストレージに入れたりも出来るけど、あれはストレージに入れる事が出来なかった。」


 掲示板の事は黙っておく事にした。マロンが掲示板を見ない事は他のゲームでも同じなので、言っても仕方がないと思っていた。


 もしかすると、将来的にはわからないけど、現状で言う必要はないと判断した。


 暇そうにしているシンシアに、朝食の肉ステーキを用意してマロンは話を聞いている。


「仲間にするか、避けるかの二択を選んでって事?」


 あの場所がホーム扱いとなっているのであれば、経験値の肥やしにするか避けるかの二択となる。


 仲間……というのはマロンが勝手に良い方へと考えただけである。

 掲示板を見たトリスの思考から仲間という選択肢は一番ありえなかった。


 中の人の性別が何であれ……マロンを汚した相手をトリスは赦せなかった。

 ましてや姦通なんてスキルを得たと掲示板に載せたような相手を、今後信用出来るかと言われれば否であった。


「態々あそこに行こうとは思わない。プレイヤーでも魔物でもあの場からは動けそうになかったからシカトで良いんじゃない?話が通じるなら共存関係くらいは考えても良いけど。」


「それより、この辺に鉱石系ってないのかな。初級鍛冶が使えるようになったから何か作りたい。」



「昨日の近辺の探索ではそれっぽいのはなかったね。東西どっちかの山に行けば採掘ポイントがあるかもしれないけどさ。」


「う~ん。じゃぁ今日は少し東側に行ってみたいかな。採取出来るものが同じか違うかも知っておきたいし。」


 



 シンシアの散歩も兼ねて午前中は小屋の東側の探索を行う事にして出発する。

 肉の燻製や干し肉にしたものをストレージにしまい、当面の食料を確保する。


「あ、ナニコレ。1UPきのこ?」


 どう見ても有名な髭の配管工のおじさんが1機増える、あのきのこが生えていた。


「色がやばいんだけど、マロン大丈夫?」



「何となくだけど、食用っぽいよ?」


「トリス、1本食べてみて?あぁ大丈夫、私の治癒の踊りで治るから……多分。」


 マロンの治癒の踊りが他者にも有効なのか知りたかった。

 他者にも有効であれば、その効果は?HP回復?それとも毒や痺れのような状態異常も回復?疑問は尽きなかった。


「じゃぁ……ハグ一回で。」



「し、仕方ないなぁ。この欲しがりさんめ。」


 両手を広げてエロフがマロンに近付き、そのままマロンを抱きしめる。

 フレンドリーファイアはないため、トリスの行動でマロンがダメージを負う事はない。




「ってコレはハグじゃなーーーーい。コレはサバオリっていうのーーーーーー。」


 マロンの叫びが周囲に木霊した。

 シンシアは周辺の警戒をしている事と、マロンの命令がないためトリスを攻撃したりはしなかった。

 マロン曰くサバオリという名のハグをしているトリスの片方の手は、マロンのプリンとした桃を鷲掴みしていた。 



 その後、1UPきのこにしか見えない茸を一本丸呑みしたトリスは尻を突き上げうつ伏せに倒れて悶絶していた。


 そんなトリスのお尻をげしげしとマロンは踏みつけていた。

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