第19話 やっぱりレベルアップ

 トリスはマロンを背負って走る。

 シンシアは気力のおかげか、既にふらついてはいない。

 先行するように前方の草を掻き分けて、後続のトリスを通り易くしていた。


 トリスのマップに生き物の気配はない。

 

 ニューワールドにおいて、マップ機能は優れているものの生き物等に対する機能はついていない。

 マップに敵味方等の表記があると面白くないからという理由で採用されたのだが、充分にマップ機能も便利過ぎたりはする。


 便利過ぎず不便過ぎずの中間が現状のマップ機能というわけである。


 そのため索敵能力やプレイヤー本人の察知感覚は、こういった逃避行や探索には重要視される。


 小屋を見つけると、周囲に人や魔物がいない事を目視する。

 トリスもシンシアも許可を得ているので、小屋の扉を開閉する事は可能である。


 物理的にシンシアはドアノブを回せないので無理なだけで、システム的には可能である。

 両前腕を上手く使えば開けられるかもしれない。


 扉に開けるとトリスはベッドに運ぼうとしてマロンに呼び止められる。


「お、風呂……」


 トリスの耳元に囁かれた声でトリスは一瞬身悶えする。

 マロンはトリスのお願いし、風呂の外で待っていて貰う。 


 流石に洗って良いとは言えず、マロンは一人シャワーを浴びたかった。


 トリスに「ありがとう。」と言うと、何故か悶絶しているトリスを残してシャワーを浴びる。

 そして小さく治癒の踊りを踊った。


 マロンはトレントに襲われていた時のHPを確認してはいない。

 最大値そのままではなかったくらいしか見る余裕がなかった。


 トリスの時はまだ人型だからマシだったが、今回は人型ではない魔物である。


 今まで読んできた薄い本に登場する女子は、みんなこんな思いをしていたのかなと思っていた。

 しかし、何だかんだ快楽に負けてたよな……薄い本の女子達。


 少しだけ冷静に考えられるのは、傍にトリスとシンシアがいるからだろうとは考えていた。

 最初の時のように一人だったら……既にログアウトしていただろうと。


 冷静になれば確認する事がある。それはステータスのチェックだ。

 先程ぼんやりと見えていた経験の欄が2になっていた事。それ以外はどうなっているのか……


 レベル:8  (5→8)


 HP:140/140 (125→140)

 MP:144/154 (129→154)

 筋力:  5

 体力:  5

 知性: 18 

 敏捷:  5

 器用:  5

 魔力:  9

 魅力:390 (375→390)(装備+45)


 手動振り分けステータスポイント 35


 スキル:初級錬金術(5/10)、初級家事(3/10)、初級木工加工(7/10)、

 固定スキル:魅惑の踊り、治癒の踊り、再生

 種族固有ステータス:経験2 再生2 


 称号:はじめてのオプション(HP・HMを除く全ステータス+5、はじめての珍種(魅力+50)、世界で初めての処女喪失(魅力+50)、初めての処女〇再生(魅力+50)



 未収得スキル:初級鍛冶、中級踊り


 ステータスの表記、HPとMPが分子と分母に分かれていた。

 これは単純に現在の値と最大値を指している。

 その結果、治癒の踊りでMPを10消費している事を理解する。


 マロンの中ではHP(恥ずかしさポイント)が減るものではないのかと気を紛らわせる。


 二度目の……で経験が1増えて2になっていた。





 マロンがレベルアップしたのにはカラクリがある。

 テイムした魔物が倒した分の経験値は一部……具体的には30%がご主人様たるマスターに加算される。(小数点以下切り捨て)

 そしてマロンがナビ子に貰った絆の指輪の効果により、50%が加算される。

 そのため、シンシアが倒したラフレシアの魔物の経験値の半分の数値分がマロンの経験値となった。


 それに加え、トレントの暴行により経験が1加算された事でも経験値が加算されている。

 寧ろ経験による経験値の方が高い。

 合計3つもレベルが上がっていたのは、そういった事があるためである。



 風呂から上がったマロンの目は死んではいなかった。灰色のコントラクションもなかった。

 トオイメもしていない。寧ろ何かの闘志さえ浮かべていた。



「シンシアもありがとね。」

 

 頭を撫でてあげるとシンシアも安堵したように「わふぅ♪」と小さく鳴いた。

 その後にシンシアを風呂場に連れて行き丁寧に洗ってあげる。

 トレントには良いようにされてしまったけど、その前のラフレシアの脅威からはしっかりと守ってくれていた。

 その感謝の意を込めて綺麗にしてあげていた。


「綺麗綺麗しようね~。」


 マロンはシンシアを洗いながらステータスを確認する。


(やっぱりシンシアも上がってる。)


 シンシア(5)

 種族:セクシーシルバーウルフ(幼)


 レベル:5  (1→6)


 

 HP:155 (155→215)

 MP:100 (100→202)

 筋力: 30 (30→33)

 体力: 25

 知性: 20 (20→22)

 敏捷: 50 (50→54)

 器用: 10 (10→12)

 魔力: 40 (40→41)

 魅力:180 (180→205)


 固定スキル:ひっかき、飛びつき、かみつき、威嚇、もふもふ、魅惑の踊り



 魔物の場合はHPとMPは体力と魔力に依存はするが、上昇は半分の値である。

 半分の値が加算であっても充分化け物クラスである。

 そして他のステータスはランダムなのか法則性は確認出来ない。



 シンシアを洗い終えると、マロンはシンシアの毛づくろいをする。

 例のドライヤー的な温風機とブラシを使って整えていく。


 すると現実に戻って来たトリスがマロンの前にやってくる。


「マロン、これあげる。」


 トリスが差し出してきたのは蚕の繭のようなものだった。


「これは?」


「初めてこの小屋を訪れる前に倒した蚕みたいな巨大モンスターの吐き出した糸だよ。説明を見ると裁縫に適してるみたい。」


 それと……といって針と鋏を取り出した。


「これは私の出発地点であるエルフの村から持ってきた裁縫道具だよ。私はリアルでも裁縫とか苦手だから持っててもしかたないし。」


 器用さが高ければ、ゲーム内では補正もあって出来ない事はない。

 寧ろ器用さ5のマロンが作成したところで……と普通ならそうであるのだが。


 どうも魅力補正がかかるのか、マロンの製作するものは普通ではないというのがトリスの見解だ。

 


「あと、これはシンシアちゃんが倒したラフレシア。いつか使い道も出てくるだろうし、シンシアちゃんのご主人様はマロンだからね。」



 トリスは最後に倒したトレントに関しては後日リアルで会った時に話そうと思っていた。

 魔物であれば倒した後にストレージに入れる事が出来る。

 しかしそれが出来ず、エフェクトがどうもプレイヤーが死んだ時にホームポイントに戻る時のモノと同じように見えたからだ。

 

 情報を精査してからでも遅くない、トリスはそう考えていた。

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