第17話 初めての外出

「木工加工スキルまでゲットしちゃったんですけど……」

 

 ぽりぽりと頬を掻きながら冷や汗を垂らしながらマロンは呟いた。

 木材から箸を適当に加工しただけで初級とはいえスキルを得てしまう。

 一定の法則や、得やすい得にくいはあるかも知れないが、マロンは簡単にスキルを取得している。


「ちょっと普通じゃないね。もしかしたら、マロンの魅力にスキルがメロメロにされてたりして?」


 トリスのその言葉は半ば冗談でもネタでもなさそうだった。

 そうでもなければ、ゲームスタートした直後でこんなに称号やスキルを得られるはずもない事態である。

 運営は今頃泣いて不具合がないか探している事だろう。



 ゲーム開始から7時間程度、運営にとっても濃厚な時間が過ぎていた。



「外に出たかったんだけど、少し木工の練習して良いかな。」


 その代わり、シンシアをもふもふする権利をトリスに与えていた。

 シンシアは最初嫌がる素振りを見せていたが、ステーキのついでにこっそり作っていた肉のおやつを貰えた事で承知したようだった。


 それから2時間に満たない時間ではあるが、マロンはモノづくりタイムを堪能した。


 出来上がった木工製品は……



 こけし、こけし、たけし、こけし……


 最初に作ったものより後の方に作ったモノの方が当然出来が良かった。

 最初の頃のモノは円形が上手く出せなかった。

 


 しかしこの木工加工に使ったのは、2本ある内の調理で使わなかった方の包丁である。

 最初から木工に適したナイフ等を使っていれば、もう少し早い段階で良い形を加工出来ていなに違いない。


 マロンにはある計画があった。

 このこけしの使い道を……


 それとは別で初級を極めれば中級になるのでは?という思惑もあった。


 事実、初級家事(3/10)、初級木工加工(7/10)となっている。

 これが10/10になれば次の級になるのではないかとマロンは想像している。

 家事に関しては最初から3/10であった。これは料理、洗濯、掃除の3つの項目がそれぞれ1だったからではないかと。

 それらが一つに合体したから3なのだろうと推定している。


 

「こけしをそんなに作ってどうするのさ。」


 トリスの問いかけは尤もである。現状市場はまだ確定していない。ストレージにしまっておけるとはいってもキリがない。

 ちなみにストレージに全てをしまって、任意にまたは全て取り出しても製品が統一される事はない。

 些細な違いはそのまま形となって取り出される。

 

 コンビニやスーパーの棚のイメージといえば良いだろう。

 同じ種類として同じ棚に収納されるが、保管してあるものはそれぞれ一つ一つの製品の個は違う。

  

 細かく考えたら面倒だし負けだと思うしかないが、勝手に製品が補正されるという事はない。



「まぁ、民芸品として売ろうかなと。」



 マロンはまだ気付いていない。

 今はただのこけしであるが、これが魅力が勝手に漏れながら製作された品である事を。

 



「少しだけ外に出て見ない?」


 トリスの提案にマロンは頷いた。考えてみれば、玄関の外にしか出ていない。

 スタートしてから小屋に着いてからは外の世界を見ていない。

 一体何があるのだろうか、倉庫にあった薬草等が生えているのではないかという考えも過ぎる。


「採取とか出来ると良いね。魔物は……ちょっと怖いけど。」


 どんな魔物がいるのかわからない。スタート地点だからと弱い魔物しか存在しないとは限らない。

 何故ならばここは惑わしの森……人間と魔族が無理して開拓をしていない場所なのだから。



「シンシア、敵が近くに来たら教えてね。」


「わふぅ♪」


 これは、わかったよとマロンに伝わる。テイムの効果かそこそこの意思疎通は出来るようである。


「私も遠距離攻撃で先制攻撃と牽制攻撃は任されるよ。」


「その辺は任せた。私は探索と採取をがんばるよ。」


「むふふ……採取中のおしり見放題……」


 この呟きはマロンには聞こえていない。




 二人と一匹は小屋の扉を背にして真っ直ぐ進む。

 ニューワールドはオートマッピング機能を採用しており、自分が進んだ場所とその周辺が地図に太字で可視化される。

 この周辺には当然種族差や職業差が出てくる。

 探索系の職やスキルを有していると広範囲で地図が可視化される。

 

 パーティを組む時には一人は探索系がいた方が、安心安全に進められるのは大体共通していた。


 森に限りではあるが、エロフもエルフの系譜のため多少恩恵を得ている。

 トリスはその恩恵を駆使出来たからこそマロンの小屋を見つける事が出来たのである。


 トリスのマップには自分のいた村からこの小屋までの地図が可視化されている。

 現在は小屋の扉を背にして真っ直ぐ進んでいる。

 つまりは南下している。


 西には人間の国、東には魔族の国が存在している。

 では南は?という事である。

 あとは単純に迷わないようにするためだ。

 マッピングする時には法則を決めた方が良い。

 真っ直ぐどう進むかや、分かれ道は右を選択するとかいった事である。


 これが絶対正解というものは中々ないが、マッピング機能というものを持つプレイヤーにとっては充分理にかなった探索方法であった。


 現地民であるNPCは自前で地図を書かなければならないので大変である。


 小屋の目の前に生えている草であるが、実は雑草などではなかった。

 マロンの背丈近く生えているギザギザした葉を持つのは魔力草という安直な名前ではあるが、MPを回復するMPポーションを作る材料となる。

 アロエの巨大版といえば伝わるだろうか。

 

 マロンの腰くらいまで生えているハスのようなのがHPを回復させるポーションを生成する薬草だ。

 よくある雑草が伸びただけの植物ではない。ハスのような形なので嵩張ってしまうのが難点であるが、纏めて束にすれば然程邪魔でもない。

 プレイヤーにはストレージがあるし、一部の裕福な人であればマジックバックは存在するので収納するのは容易である。


 孤児院の子供達が採取するには酷かもしれない程度である。


 ちなみに、ダンジョンや普通の森に生成されてる場合はここまで大きくはない。

 この【惑わしの森】が手付かずで放置されていたからこそ、ここまで成長しているだけである。

 

 一般には大人の脛程度の高さまで成長していれば良い方である。



 錬金でポーションを作成出来るマロンは、これら薬草類をいくつか採取してはストレージに入れて行った。


 探索……というには小屋から目と鼻の先である。


「少し奥の方に行ってみない?マッピングの意味も兼ねてさー。」



 そして歩く事10数分、警戒をしながらのため距離は然程でもないが、小屋はもうとっくに見えていない。

 シンシアの鼻に引っかかるものがあった。


「わふっ」


 それは何かいるという合図だった。

 身を隠すように気の影から覗くと虎のような魔物が現れた。

 虎と言っても地球で見る虎よりも二回りは大きい。


「うん、あれは無理。だって……ツイてるし。」


 マロンは撤退一択だった。チュートリアルでシンシアを最初に見た時と違って、踊ってる場合じゃないと。

  

「でもあっちはこっちをロックオンしてるみたいだよ。う~ん、相手の強さがわからないから戦闘は避けたかったけど……」


 

「足止めするから逃げて。シンシアちゃんはマロンの護衛をお願い。」


 トリスは魔力を形にすると矢を形成させる。

 

「ヘイトを管理すれば……私は狙われるけどマロンは大丈夫だと思うから。」



 一射目を虎の魔物……そのままタイガーだったのだが、タイガーの脳天に突き刺さる。

 頭蓋骨が硬いのかHP依存なのかは判断に困るが、一撃で倒す事は出来なかったようである。

 タイガーの視線はトリスを捉えているように見える。


「さぁ、私の屍を越え……」


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