第11話 おまえかああぁぁあああぁっぁぁぁぁっぁぁっ
ログアウトをして現実に戻って来た浪漫は、上半身を起こし自分の下半身を確認する。
「よ、良かった……」
血は出ていない。
それに現実では痛みがない事を実感していた。
お漏らしの時の前例があるため、浪漫は不安で仕方なかったが、幸いコレは大丈夫だったようだ。
「……あれ、強〇……だよね。相手は女の子だったけど、途中からなんか生えてたし。意味わからない。」
トリスと名乗ったエルフの少女は、あのポーションの影響もあり性的に暴走したと浪漫は思っていた。
成人設定でゲームをスタートしているため、修正やモザイクのようなもので処理されたりしないため、かなりのリアリティがあるのだと。
強〇をVRで体験するなどとは思っていなかったはずだ。それも女子からである。
年齢制限についても、ここまでリアルだとは思っていなかった。
流石元18禁ゲーム会社なのだという事でもあった。
軽くトラウマになりそうな浪漫である。
友達100人のための第一歩が、初めて会った自分以外の人が強〇魔では幸先悪いどころか、次にインしたくなくなるくらいには心にグサっときていた。
あの時シンシアが主人であるマロンの助けに入らなかったのは、現在の浪漫ではわからない。
その時が来れば理解する事になるのだが、今の浪漫には知りようもないし、そんな事になるだなんて運営でも考えていない事が起きていたのだ。
もし、今インしたらあのトリスというエルフが重なっている状態だろうなと思うと、直ぐにログインする気にはならなかった。
しかし、あの時無意識にではあるがマロンの手は入室許可の解除ボタンを押していた。
ぼやけた天井しか見えていなかったため気付いてはいないが、ログアウトする前にトリスは小屋から弾き出されている。
心を落ち着かせるため、浪漫は自分の部屋の椅子に座った。
座った時に痛くないので、本当に大丈夫だと再認識する。
浪漫はこれまで異性との付き合いはないために未経験である。
だからもし、現実にも同様の効果が出るようであれば、何かしらの異変があってもおかしくない。
しかし濡れてもないければ痛くもないので、現実の方は影響がなかったという証でもあった。
「あ、何か連絡来てる。」
浪漫はスマートフォンの画面を見ると、メッセージが届いてる事を確認する。
其処には「少しだけ会える?会えるならいつもの喫茶店に〇〇時でどう?」という、半ば強引に予定を押し付けられそうな内容のメッセージだった。
先程の事もあり、誰かと会話したいと思った浪漫だったが、家族以外にはこのメッセージの送信者であるただ一人しかいない友人の【
正確にはもう数人いるのだが、紹介する機会があれば登場するだろう。
浪漫は「わかった、行く。」と返信をし、出掛けるため着替えをする。
オーバーニーソに絶対領域を作り出せるように長さの丁度いいプリーツスカートに、頭が隠れるフード付きのパーカーを着るだけの簡単な着替えである。
当然化粧はしていない。
そのため5分も掛からず準備は完了し、浪漫は家を出る。
戻って来た頃には落ち着いてるだろうしと、エアコンはそのままに外出した。
カラン♪と扉を開けると鈴の音が鳴る。昔ながらの喫茶店には、このような来客を知らせる鈴を取り付けている所はまだまだ存在する。
先に到着していた浪漫は、時間通りに到着したたった一人の友人の姿を確認する。
浪漫とは正反対とは言わないまでも、今時の女子らしい恰好をしていた。
尤もその今時の女子らしい恰好というのが浪漫にはわからなかったが。
自分と違い可愛く着こなしているのだから、それは今時の女子らしいと勝手に脳内で変換されていた。
友人が指定した目的地である喫茶店は、浪漫の家の目の前にある。浪漫が先に着いていて当然であった。
浪漫の前にあるコーヒーは既に若干冷めている。
「あ、小串。こっち。」
浪漫はあまり語尾を伸ばさない。一流企業の社員でさえ、電話先でありがとうございまーすや、ありがとうございましたーと伸ばして使う人が多い現代。
浪漫の語尾はきちんと句点で終わる。
その代わり単語単語で一小説が短い事が多い。
浪漫は来客である友人を手招きする。窓際の端っこの角席、それが浪漫の指定席である。
別に誰が決めたわけでもないのだが、常連の間では浪漫のための角地は使わないようにしていた。
「突然ごめんねー、浪漫。」
小串は歩みよると、そのまま浪漫の向かいの席に座った。
ふわっとした良い匂いが浪漫の鼻を擽った。匂いの出どころは向かいに座った小串からである。
浪漫と小串は幼稚園の頃からの付き合いで、人付き合いの苦手な浪漫が唯一今でも関係が続いている友人だった。
それこそ一緒に遊んだり海に行ったり、プールに行ったり風呂に入ったりという仲だった。
「浪漫はもうニューワールドやった?」
浪漫は小串がニューワールドを入手しているのを知っているし、小串もまた浪漫が入手出来た事を知っている。
小串に至ってはベータテスターでもある。
「まぁ、一応。さっきチュートリアルが終わったばかり。」
浪漫は嘘は言っていない。チュートリアルが終わって早々強〇エルフと出逢ってしまったが。
「そう。私はもう3時間はフィールドを彷徨っていてねー。ベータの時と違うキャラ設定にしたせいか、スタート位置が悪かったんだよね。」
「私も公式で見てたのとは違う感じだったね。ランダム種族にしたからかな。」
浪漫は種族が何かまでは言わなかったが、ランダム種族で始めた事は伝える事にする。
どうせ後で一緒にプレイ出来ればわかる事だし、という考えからだった。
「へぇ、浪漫もランダムで始めたんだ。私もなんだけどね。人間とかってありきたりだからさー。」
小串の喋り方は若干軽い。そして人付き合いが苦手という割には浪漫は小串とは普通に会話出来ている。
しかし浪漫がこれだけ饒舌なのは、家族や小串とだけ……なのである。
「それで私の種族がさー。エロフなんだよエロフ。エルフじゃないのかって話だよね。騙されたー。」
そこで浪漫は少し「ん?」と思ってコーヒーを飲む手をストップさせる。
「弓や魔法が得意ってのはエルフのイメージと変わらないんだけどさー。」
そこまで言った所で、小串はコーヒーに口を付ける。
「私達って年齢制限解除じゃない?だからエロフなんて種族なのかもしれないけど、面白いんだよ。」
「基本は女なんだけどさ。なんと!Eポイントを消費して生やしたり引っ込めたり出来るの。」
小串から衝撃の事実が口にされる。
まるでどこかで見たに内容だなと。
そして聞きなれない言葉が出ていたな、Eポイントってなんだよと。
種族特性に関する事なのだが、マロンのキャラクターにはなかった。
「つまりはふたなり化って事かな。」
一応浪漫も小串も20歳である。喫茶店で大声で話す内容ではないが、一応成人はしているのである。
女子が喫茶店でふたなりとか生えたりとか口にするものではないのだが……
「さっき3時間くらいフィールド彷徨ってるって言ったじゃん?実際はフィールドって言っても森の中でさー。それだけ歩いて漸く開けたところを見つけたんだよねー。そしたらなんと、そこには小屋があったんだよ。」
(うん。なんだか既視感ってやつかな……小串の話がなんだか……)
「それでね。可愛い幼女がいたんだけど、彼女がくれた飲み物を飲んだら、なんだか欲望を押さえられなくなって……」
なんか聞いた話だな、それどころか見た話しだな、いやいや身に覚えのある話だなと浪漫は思った。
「警告音も鳴らなかったし、GMからの通知もなかったんだけどさ。」
「襲っちゃった、てへっ。嫌がる幼女を……」
女性同士だから最初は百合プレイであったのだが、途中でそれが変貌する。
エロフの少女、トリスは自身の種族特性で生えてきたもので、普通に襲ったのである。
わなわなわなと浪漫は身体を震わせる。
怒りで冷めたコーヒーが再びホットになるかのように。大魔神さんが怒るように。
「お、おまえかああぁぁあああぁっぁぁぁぁっぁぁっ」
たった一人の友人、鳥栖小串の胸倉を掴んで絶叫する浪漫だった。
ガクガクガクと小串の頭が前後にシェイクシェイクぷぎゃーな胸騒ぎである。
これだけの大声、浪漫は一体何年振りだろうか。浪漫自身覚えていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます