第9話 チュートリアル④やっとゲーム本編がスタート……する?


 【はじめてのオプション】


 称号の特典としてはそれなりに大きい。その効果は各ステータス+5であった。


 半ば魅力以外にポイントを割り振る気がなくなってきているマロンには、都合の良いステータスアップであった。

 逆にいえば、ゼロがない事に不服を覚えてしまうかもしれない。

 他の極振り系WEB小説では極振りステータス以外は「0」を貫き通している。

 例えゲームのシステム的な都合であっても、真の極振りユーザーから見ればぬるいと言われてしまいそうだと思っていた。


「まぁいいか。くれるというモノは貰っておこうかな。」


 実際極振りの大変さはこれまでに読んできた極振り系WEB小説で察しているつもりであった。

 ましてや戦闘にはほぼ役に立たないであろう魅力を極振りとか……ゲームが先に進みそうにないと思っていたからだ。


 プレイヤー名:マロン

 種族:ボディコニアン(幼体)

 139cm 29kg 

 


 レベル:1


 HP:105

 MP:105

 筋力:  5

 体力:  5

 知性: 15

 敏捷:  5

 器用:  5

 魔力:  5

 魅力:155(+45)


 括弧内は装備による増量分となる。


 つまり、まだゲームをスタートさせていないのに200もステータスがあるわけである。

 ちなみにゲーム開始直後にこれだけのステータスがあるプレイヤーは存在しない。

 魅力に限るが、マロンはこの時点で世界チャンピオンであった。




――ポーションを作れた事で錬金術系のスキルを得ていると思いますが――


 マジで?とマロンが確認すると、スキル欄に初級錬金術Lv1というのが生えていた。


「これって良いの?こんな簡単に初級でレベルは1とはいえスキルが生えて良いの?」


 実際は師匠となるべく錬金術師に教わらなければ取得する事は出来ない。

 しかしあの説明書……正確には「誰でも出来る錬金術書」という著書は簡単にスキルが取得出来る便利書であった。


 他のゲームで言うところの「スキル書」「魔法書」のようなものである。


――お詫びの品をお渡ししますと言いましたよね。これらがその品です。良いお漏らしモノ見せてもらったのでナビ子からのお礼です――



 性悪ナビゲーターであった。本当にこれで中の人はいないのである。

 そしてマロンは誓う。こいつ実体化したら絶対にぶっとばす!と。

 幸いにして腕力が5になったのだ、少しくらいは痛みを与えられるはず……と。



――まだ施設や設備等がないので使えませんが、そこの本棚の中に初級家事の書と初級鍛冶の書と中級踊りの書が入ってるので活用してください。尤も、先程も言いました通り現在では使えないので後の楽しみにしておいてください――


 現在スタミナシステムとか空腹システムとかは存在しないが、飲食店等は存在する。

 そして職種として料理人等があるのは告知されている。


 つまりはそれらが活躍出来る場がいつか用意される時が来るとマロンは踏んでいる。


 性悪のくせにサービスは良いな。マロンは他のプレイヤーから恨まれたり、妬まれたりしないだろうかという不安が過ぎる。

 

 しかし、陸の孤島と聞いていたので、他のプレイヤーと会う事もないから暫くは気にしなくても良いかと思う事にした。



――そろそろ冒険に出ますか?というか出たいですよね。シンシアちゃんも活躍したいですよね――


 シンシアは「わふわふ♪」と吠えながら首を縦に振っている。

 ナビ子は狼語か魔物語かはわからないが使用する事が出来るのだろうか。


 マロンは初級家事の書と初級鍛冶の書と中級踊りの書を手に取った。

 前半二つの書は錬金と同じように「誰でも出来る~」となっているので、パラパラと読むだけでスキル欄に追加されていた。

 家事と一括りにされているが、その内訳は複数あった。

 炊事・洗濯・裁縫の三つが出来るようになる。

 つまり、初級料理・初級洗濯・初級裁縫の三つのスキルを得るのと同等と言う事になる。

 ただし、実務経験が皆無のため初級家事スキルとしては使用出来ない状態である。


 しかし、括弧書きされている洗濯の欄だけは太字になっていた。これは経験済と言う事で生きていると判断して構わない。


 ではなぜ洗濯だけ生きているかといえば、風呂場で自分のおぱんつと、シンシアを洗ったからであった。

 シンシアの事はともかく、おぱんつを洗った事を思い出したマロンは……


(そんな事で覚えられるとか緩くない?)


 しかしマロンは知らないが、本当のスキルはこんな簡単に取得出来ない。

 その効果が魅力値が高い故の事だと理解するには、まだまだ早計であった。

 パッシブスキルとして、「魅力振りまき」や「魅力駄々洩れ」のようなものがあれば気付いたかも知れないが、書物が魅了されてスキル譲渡するかの如く覚えさせられるなんて、誰が想像出来ようか。

 


 そしていよいよチュートリアルが終了し正式にゲームがスタートする。

 巻きで行くと言っていた通り、ナビ子はざっくりとした説明しかしていない。

 気になる事があれば、ヘルプ機能からいつでも呼び出せるとの事なので、これからもナビ子の世話になる事はあるだろう。


 

――それでは、暫くの間お付き合いいただきありがとうございます。いつでも会えますのでヘルプ機能の起動をお待ちしております――


 それだけ自分を推すという事は、ナビ子も少しは名残惜しいのかなとマロンは思ったが、ゲームプレイ中もこの調子で出て来られてはめんどいなと思ったので涙は流さない事にした。



――あ、その前にもう一つワールドアナウンスが……――


 ナビ子が忘れ物があったみたいな感じで言うと再びアナウンスが響く。


『ピロン♪』『初めて激レア種がテイムされました。』


(え?それ今言う?今流れる?)



 結果的に新たに得た称号【はじめての珍種】とその効果で魅力が50上昇していた。

 装備無しの状態でマロンの魅力は205となっていた。


 さらに【絆の指輪】というアイテムがストレージに入っており、マロンは取り出し装着するとシンシアとの絆が上がったような気がしていた。



――その指輪の効果は自分で確かめてください――


 ナビ子が説明しないのであれば、マロンは自身で確認するしかあるまいと納得するしかない。

 感じた絆の向上が効果だけであっても構わないと思っていた。



 しかしそんなマロンとは裏腹にナビ子には見えていた。マロンとシンシアの絆が数値という形で。

 隠れステータスと呼べば良いのか、目には見えないロウ値、カオス値ともいうべきか。


 絆:60(0→10→60)

 これは出逢った時が0であり、テイムした事で10に変化し、今の指輪で60に上がった。

 この数字がどのくらいあれば何が起こるかは明らかになっていないが、上がってみてのお楽しみである。



――では今度こそ行ってらっしゃいませ――


「あ、うん。ナビ子さん今までありがとうございました。」




――これにてチュートリアルは終了となります。ストレージにチュートリアル完了特典を贈ります。これからの生活にお役立てください――


 ナビ子とは違う音声、システム音声がマロンの脳内に響き、これでチュートリアルが終了した事を示していた。

 ストレージの中を確認するのは後にして、マロンは拳に力を入れた。



「さぁ、これから友達100人作るためがんばるぞー!」


 そして力を込めた右手を高く突き上げて意気込みを表すと、脇から見えてはいけないものが少しだけ見えていた。

 尤もそれを見る人物などいないので気にするべき点ではないのだが、こうした隙を見せてしまうのはマロンが人付き合いをあまりしていない証でもあった。



「わふー!!」


 続いてシンシアが「おー!」と言わんばかりに大きく吠えた。


 マロンは気にしていないが、チュートリアルが終了したのに画面が変化したり、場所が変わったりしない事に疑問すら抱かない。

 それはもう、ここがスタート地点だと理解している節があるからである。


 誰もいないであろう惑わしの森がスタートであると言う事は、友達100人なんて夢の又夢である事にも気付かない。


 しかし世の中そんな思惑や思い通りにいかないのが常である。

 マロンが小屋の扉を開けると……


「人がいたぁぁあぁぁあぁぁっ」


 マロンより少しだけ背の高い、耳の長い種族の恐らく女性がマロンに向かって飛び込んでいく。



「ひぃっ!」「わふわふっ!」


 入室を許可しますか?YES / NOの画面でマロンは思わず「YES」を押してしまう。


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