第8話 閑話②一方その頃運営では……


 S県S市、ニューワールドの運営会社のある事務所では監視にあたっていたエンジニアの一人が驚愕の声を上げた。


「うっわ、マジかよ。まだ3時間ちょっとだろ?チュートリアル終えて操作に慣れて、町を探索したりフィールドに出て戦ってみたりしてる段階だってのに。」


 パソコンの画面を見ながら周囲にも聞こえる声で独り言を漏らしている男がいた。

 見た目は20代後半か30代前半、外に出ればチャラ男一択である。

 昭和のお父さんが見たら、「お前髪を黒くしろ、なんだその服の着こなし方は。」と注意を受けるだろう。

 キーボードを扱うからか、指輪や腕輪はしていなかった。


 そんな見た目とは裏腹に、仕事はきちんとこなしており、この時も違反やハラスメントの監視、プログラムがきちんと動作しているかの監視を行っていた。

 監視中に流れたワールドアナウンスにこの男……山城海龍やましろかいりゅう(28歳)に驚いた。

 山に城に海に龍にと中二心を擽る漢字であるが、両親は……察してあげるべきだ。


 

「どうしたの?」


 山城の様子を見て、コーヒーを片手に近寄って来る一人の女性。

 キャリアウーマン然とした彼女は同じ開発チームの一人で常磐里桜奈ときわりおな。(3〇歳)

 

「いやぁ、チュートリアルだと言うのにゲーム初のワールドアナウンスが流れる事態が発生してるんすよ。」


 常磐がログを確認してみると、山城の言っている事実を確認する。

 何も違反やデータを改竄したような形跡は見られない。

 バグと称するには些か決定力に欠ける。 


「4万人もプレイヤーがいるのだから、3時間程度で何か偉業を成す事くらいは想定してましたけどね、まさかチュートリアルでなんて思ってませんよ。バグですかね。」


「なんでも不確かな事をバグとか決めつけるのは早計でしょ。見る限り普通にポーション作っただけにしか感じないけど。」


「あぁ、激レアのネタ職じゃない。昭和のおじさんが開発者にいるからだけどこのプレイヤー、まさかの【ボディコニアン】じゃない。それならありえるかもよ?あれ魅力値異常だし。」

 

 ボディコニアンの制作者は昭和50年代生まれの年輩である。

 恐らくは子供時代に流行っていた、お台場でセクシーな恰好をして扇子と腰を振り乱しながら踊るのを見て、何か想いがあったのかもしれない。

 常磐は数人の開発者が職業会議の時に熱く語っていたのを覚えていた。


 運営の年齢層も性別もバラバラだ、20代前半も居れば40代50代もいる。

 バーテンダーや掃除屋なんて職種も案には出ていたが、それらは高い年齢層からの推しが強かった。


「高い魅力値が漏れてポーション作成に無意識に働いたって事っすかね。」


 それこそ予期せぬ出来事として処理されそうであった。


「しっかし、チュートリアルで称号持ちってどれだけって感じっすよ。」


「だから【はじめての~】なんじゃないの?」


 上手い言葉回しで纏めようとする。



「職種も激レアならチュートリアルの場所まで激レアじゃない。もうこれ運営の誰かが意図的に仕組んだとしか思えない引きね。」


 顎に手を当てて常磐は考え込む。これだけの激レアが被るのはそうそう起こる事ではない。

 流石に二年連続で年末の宝くじを1等当てるよりは高い。

 しかし、二年連続で3等を当てるくらいには高いと踏んでいる。あくまで運営の考える限りの想像なので、数値化されたものではないのだが。


「そうっすね。これが本当に完全な運だとするならば、このプレイヤーは一生宝くじとか競馬とか当たらない気がするっすよ。」


 さらに言えば激レアに激レアを重ねると、九死に一生の一生を2回引くようなものだろうか。

 山城の隣の席からも声が上がって来る。


「横やり良いですか?このプレイヤー、さらに激レア種の白銀狼の幼体を魅力でテイムしてますよ。漫画の話ではあるけれど、これはもう人生で3回墜落した波紋の使い手より激レアですよ。」


 山城の隣から若い女性の声でさらなる激レアネタが投下される。


「じじぃ。俺はもうテメーとはぜってー飛行機乗らねえ。」


「私、か弱き女の子ですけど?山城さん。しかもあなたより若いんですけど?なんで私を見て言うんですか?」


 女性は敬語ながらも抗議の声色は強かった。

 

「わりーわりー、二宮。ついネタにはネタで返したくなってよ。」


 二宮四葉にのみやよつば。(24歳)彼女もまた山城と同じように監視業務を行っていた。

 他にも同じような役割、別の役割を担っている技術者はたくさんいる。

 別のフロアも含めれば20人以上が業務をこなしている。

 夜間は基本的に通報があった事象に対応するために3人程が詰めている。


 二宮は名前に二と四があるため掛け算の二四が八で「はっちゃん」と呼ばれていた過去がある。

 二宮が監視していたのは主に魔物やフィールドの監視を主に行っていた。

 そのためログからマロンがどのようにしてテイム出来たかも知っている。


 何も不正な事は見当たらないというのが二宮の出した結論である。

 だからこそ、今の今まで何も言わなかった。



「よっちゃん、一応監視というか……見守っておいてちょうだい。何かトラブルというか、そういうのに巻き込まれそうというか巻き込みそうというか、そんな気がするの。」


 常磐が二宮にマロンの監視という名の見守りをお願いする。それはこれだけ特殊な事が3つも重なったプレイヤーは何か「持っている」のでトラブルになり易いという想定である。

 プレイヤーとして色々なゲームをした事のあるスタッフ達であるので、言いたい事はそれとなく伝わっていた。


 そしてそれは見事的中する。

 数時間後、これ本当に大丈夫?倫理は?ソフ倫は?とか……という事態が起こる。


 四葉が両手で画面を見ないように塞いでいるのを、横で山城は確認していた。

 両手で隠してはいるけれど、指の隙間からはっきりと見えてるぞというツッコミを喉で押し込みながら。

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