第7話 チュートリアル③「初めてのワールドアナウンス」まだチュートリアルですけどぉ?


――先程魅惑の踊りを使ってみてわかったと思いますが、スキルと言うのは選択する事である程度補正が働き発動します。その中で自分なりの行動をする事が出来ますが余程の事がない限り自身の行動が元でキャンセルされる事はありません。先程発動してみて分かったと思います――



――魔法や家事、鍛冶や錬金術等も同様です。しかし、スキルの取得に関しては別です。レベルアップで取得出来るもの、誰かに教わり繰り返し練習・勉強する事で取得出来るもの。一部例外はありますが……――


 例外というのは、強奪や複写等のスキルだろうとマロンは踏んでいた。

 もしそれらで奪われた場合、元の持ち主のスキルはどうなるのだろうか。


 完全に失ってしまうのか、時間や復元スキルみたいなのがあって元に戻る事があるのだろうか。


 疑問が浮かぶがナビ子は答えてはくれず、自分で探してみてくださいとあしらわれた。


「仕様なのか、それも醍醐味なのか微妙な判断ね。それとも単に私を揶揄ってる?」


――判断はご自由に――


 ご利用は計画的にのノリでナビ子は返す。何でもかんでも教えて貰えたらゲームの楽しさも減ってしまうのも事実であるので、マロンは気にしない事にした。

 ただ、もしWEB小説あるあるのように、ナビ子が具現化する事があったら一発ウメボシ決めてやろうとは考えていた。


 それからもナビ子の説明は続く。


 このニューワールドの世界観。

 人間が大半で人間の作った国が多く存在する事、魔族の国が存在する事、その他いくつかの種族が小さな国等を持っている事。

 それぞれの関係は現実の人間の国のように仲の良い国、仲の悪い国とが存在し、それらの関係性はそれなりに複雑であった。

 そこについてはマロンはあまり考えずに行こうと思っていた。国の争いになど興味はないし、楽しむのが前提で一番の目的は友達100人作る事なのだから。

 

 その過程でいざこざに巻き込まれる事は想定していても、戦争に進んで加担しようとか他の種族を滅亡させようとかの意思はない。


 ボディコニアン(幼)が何出来るんだよという問題もそれに拍車を掛けていた。


 仮に魔族の王が人間を滅ぼすから手伝えと全ノラ魔族にまで通知を出したとしても、関わる気はなかった。


 ただし、現実問題として未来がどうなるかは誰にもわからない。

 自由度が高いのがゲームの売りでもあるのだから。


 そして、自分の信念を持っている云々がフラグになる事はよくある話である。




 現在マロンがいるこの森は「惑わしの森」と呼ばれている未開の地である。

 廻りをほぼ山で囲まれており、陸地繋ぎで他の土地と繋がっている個所は極僅かであるため、態々開拓する者がゼロではないが、ほぼ存在しない。

 東西の山を越えた先にはそれぞれ国が存在し、片方は人間の国、片方は魔族の国となっていた。

 現在、敵対関係にはなくとも、違う国であるため外交上どちらの国の領土というわけでもない。


 開拓するにも山を越えるか川を超えるかしなければならないため、いくつかの開拓村のようなものを作る必要が出てくる。

 山の向こう側……自国側の山の手前に村を作り、山中にも作り、山を下りた森の入り口にも作りと、森の開拓するためにいくつ村を作るんだという話になってくる。

 そのため、森の開拓は現実的ではなかった。


 陸の孤島とも呼べるこの森は誰に開拓される事もなく、時だけが過ぎているため草が伸び放題、魔物は成長し放題の治外法権となっていたのである。

 そして、ではなぜ小屋があったのか……


 開拓はされなくても世を忍ぶ変質者……偏屈者などが流れ込んでくる事は良くある話。

 例えるなら富士の樹海に小屋を建てて住むようなものだろう。


 マロンが見つけた小屋は、その昔惑わしの森に住んでいた誰かのモノで、現在その者は存在しない……という設定である。

 個人設定が出来る仕様になっているのは、高度な魔術か魔法かスキルによるものと便利な解釈をして貰えれば良い。



――というわけで、この「惑わしの森」はどこの国にも属していませんので、何をするにしても東西のどちらかに行く事をお勧めします――


(それって逆に言えば、ここにいれば一生ただの引き篭もり生活という事かな。自給自足が出来る環境だったらそれも出来るのでは?)



――この世界にはよくありがちな貴族・平民・奴隷などの分かり易い身分があります。大抵の人は平民ですが、貴族スタート・奴隷スタートの方もいます。ロールプレイする人には醍醐味となるでしょう――


(隔絶されたこの場所にはあまり縁のない話だね。)


――人間の国にはこれもありがちですが、色々なギルドが存在します。基本的には冒険者ギルドに登録して色々なクエストを受けて成長したりするのが一般的な行動目的となります――


 ゲームスタートする国もバラバラのため、出現する敵の強さだけはある程度補正が働きいきなり強い魔物しかいない詰んだ状況にはならないという。


 どの国に配置されるか、どんな都市に配置されるかで変わって来る。

 人間スタートの場合、ある程度選べるのだけれど、変わった魔族スタートであるマロンには軽く流して良い話だった。


 気になるとすれば、唯一の友人がどの辺にいるのかなという事だ。

 近いのか遠いのか、せっかく一緒にプレイしようと思っていたためそこだけが気掛かりだった。


 この世界の通貨は統一されており「モエ」を名称としていた。

 これは運営が会議で決めたという裏話があるのだが、最終的に多数決になったと雑誌インタビューで答えていた。

 しかしマロンは通貨については聞き流していたため全然覚えていない。




――ちなみに、初期装備は売却・滅却する事は出来ません――


(あ、これでんせつのつるぎとかに化けるパターンだ。)



――試しに薬草からポーションを作ってみましょうか、巻きでいきますので棚に入ってる調合セット一式を出してください――


 ナビ子に無理矢理進められて調合をする事になる。

 これも一つのプレイの幅と捉えれば悪い事ではないと判断する。


 器具を用意すると説明書が付属していた。マロンが説明書を手に取ると、「ピロン♪」という音と共にヘルプに使い方が表記追加されていた。

 


――便利ですよねー。個人での差別化が半端ないですよねー――


 ナビ子さんがフレンドリーになっていた。

 一体どれだけ声優に喋らせたのだろうと疑問は浮かぶが、問題は単純な回答である。

 歌を歌わせるソフトが流行った時期があるが、同じ要領で喋らせているのだ。

 いくつかのワードど抑揚などを収録する事で、AIが人が喋ってるかのように補正する技術を確立させていた。


 決して運営が喋っているわけではないのである。


「上手に出来ましたー!」


 説明書を読みながら、何故か一緒に置いてあった薬草類などを駆使してポーションを作成。

 これまた何故か置いてあった瓶に詰め込む事で一つのポーションとして確立する事に成功する。


 スキルがあるわけでもないのに、マロンは作り出す事が出来た。説明書の力は偉大と言う事である。

 現実世界の話で、説明書も読まずに商品を使用する人に対する運営からのメッセージなのだろうか。


「なになに?HP回復30と。まぁ説明書に書いてある通りであれば20~40回復する初級ポーションだからね。それで、追加効果?へぇ、普通に作っただけなのに追加効果って……媚薬効果(小)……は?」


 説明書には追加効果については記載されていない。

 使用した薬草も水も器具も普通のものである。

 

 マロンが作成した追加効果付のポーションが後に話題を呼ぶ事になるのだが、それはまだ先の事である。


『ピロン♪』


 マロンの脳内に何度目かの告知音が響いた。


『ニューワールドにおいて初めて追加効果のあるアイテムが生成されました。称号【はじめてのオプション】が進呈されます。』


 チュートリアルでそんなワールド放送級の事象ってあるんかい!とマロンはツッコミを入れた。

 ゲーム自体はスタートしてからまだ3時間程しか経っていない。

 土曜日の午前10時にゲームはスタートされており、どんな事にも可能性があるとはいえこれは異例の事でもあった。

  



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