第6話 閑話①ー半引き篭もりでも家事は出来る

※以降現実世界では浪漫、ゲーム内ではマロン表記を基本とします。


 プシュゥゥ

 ニューワールドから一旦ログアウトを選んだ浪漫は、ぼやけた視界が徐々にクリアになってくるのを実感する。

 VR機器の蓋が開くと見慣れた自分の部屋の天井と机が入って来る。


「あ……」


 浪漫は股間の違和感に気付く。

 シンシアがまだ敵だった時、押し倒され肩を押し掴まれ、涎を垂らされ、腰をへこへこされたあの時……


 現実世界の浪漫にも影響が出ていた。

 少量ではあるがお漏らしという影響が。



「……うぐっ」


 上半身を上げ、其処を見ると少し色が変色していた。

 浪漫はその場でショーツを脱いだ。そのままだと気持ちが悪いからだ。


 自分の部屋でほぼ全裸であっても誰も咎める事はない。

 訊ねてくる友人もいない――たった一人だけいるが――浪漫にとっては外聞や世間体はどうでも良いのである。


 このままピザの配達だって受け取りに出てしまう事は流石にないが、上下下着であれば出てしまうくらいにはズボラである。


 着替えを持って風呂場へ向かった。汚れたショーツを持って。

 途中家族に会う事もない。この時間はまだ仕事をしているため、この家は今浪漫の城と化していた。


 風呂に入って身体を綺麗にすると、そのままキッチンへと向かった。

 冷蔵庫から材料を取り出すと、簡単に調理を始める。


 休日引き篭もり状態であっても家事は出来るのが浪漫である。

 出来ないのではない、やらないのだ。

 普段は母親が家事は殆どやってしまうが、両親のいない時間の家事はきちんとやっていた。

 生きるためには食べなければならないのだから、嫌でもやるしかないだろう。

 その程度の動機であっても、いざやれば人並みには出来るようになる。


 そうして人並みに出来る調理で出来たモノは炒飯だった。

 冷凍された米であっても、料理となれば美味なものへと変わる。


 ある意味現代の錬金術だなと考えてしまうのはゲーム脳だからだろうと浪漫は思っていた。


 両親は連勤中だけど……



「腹も満たしたし、着替えもしたし、もう大丈夫かな。」


 思い出しても身震いをする程の衝撃だったのだが、その後のシンシアを考えると妙に可愛くなってしまう。

 もふもふはどうやら万国共通で愛でるものらしい。


 浪漫もまたシンシアのもふもふの気持ち良さは、まだ少しだけだが堪能していた。


 

「それにしても魅力特化って。この先どうやって攻略していくんだろうね。」


 浪漫はあまりネットで情報を集めない。正確には最低限の情報は確認するのだが……

 友人同士でどこまで進んだ?やこれどうすれば良いの?という会話はするが、攻略本は読まないタイプと言えばいいだろうか。


 尤も友人が一人しかいないため、そこまでコアな情報収集は出来ない。

 説明書や公式のHPに掲載されてる大衆向けの情報だけで、他は自分で確かめていきたいと思っているだけだった。


 今後友人が増えたりすればその考えも変わる事があるのかも知れないが。 

  


 自分の部屋に戻った浪漫は、スマートフォンを手に取ると唯一の友人である鳥栖小串にメッセージを送る。

 しかし返事がないため、恐らく小串も同じニューワールドにインしてるのだろうと判断する。


「さて、インしますか。」


 下着姿の浪漫は髪が目に掛かっている事も気に掛けずにVR機器へと入っていく。




 先程までプレイしていたニューワールドの小屋の中。

 ナビ子さんはNPCでもないので脳内に直接その声が響く。

 マロンの視界に映るのはシンシア一匹……なのだが、どうやら少し様子がおかしい。


 マロンはシンシアのステータスを確認する。


「は?」



 シンシアの種族がセクシーシルバーウルフ(幼)となっており、魅力が150増えており180になっていた。

 さらにはスキルに「魅惑の踊り」が追加されていたのだ。


 


――チュートリアル、まだ終わってませんよ。巻きでいきますよ。まきますか?まきませんか?――


(いや、それだめでしょう。ってチュートリアルが終わらないと冒険ももふもふ堪能するのも大分先になっちゃうかぁ)



「まきます。まきでいきます!だから私に自動で動く可愛い人形を!」


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